【Rhapsodie en rouge】 6
波と戯れ、水を掛け合い、遊び疲れた俺は、浜辺に座ってまた海を見ていた。
彼女はといえば、まだ元気が有り余っているのか、浜辺を歩き回ってはしゃがみ込み、何かを拾っているらしい。
時々、しゃがんだ時に波で足をとらえてコテッとよろめくのがかわいらしかった。
「何してんの?」
満足げに歩いてくる彼女に問いかける。
その両手には、貝殻がたくさん乗せられていた。
「貝殻集めてたの」
そういった彼女はパラパラと、俺のそばに拾った貝殻を散らばせる。
形も様々、白や薄い黄色などをした貝殻の中に一つ目を引くものがあった。
「これ、綺麗だな」
淡いピンク色の、小さな貝殻だ。
だが、その色はひと際綺麗で存在感がある。
「でしょ?」
私もこれが一番綺麗だと思うんだ、と笑った彼女がその貝殻をつまみ上げた。
「なんていう貝殻なんだろうな」
ふと思ったことを口にだすと、彼女があきれたように笑う。
「前に教えたじゃない、さくら――」
「え……?」
『前に』教えた?
誰が、誰に?
彼女が、俺に?
声を漏らした俺を見上げ、彼女が一瞬静止する。
『これ、桜貝っていうんだって』
『友達に教えてもらったの』
『拾えると幸運がくるんだって』
そういって笑った〝彼女〟に。
『綺麗……これ、作ったの?』
『ありがとう。大事にするね』
贈った〝それ〟を見て、笑った彼女に。
俺は。
「あの……ごめん」
わずかに指先に触れた何かがまた、遠ざかる。
慌てて彼女に目を向けると、彼女は悲しそうな笑顔で俺を見上げていた。
「昔、この貝を誰かと拾ったのを思い出して……でも、君じゃない」
君じゃないよ、と彼女は小さく繰り返す。
それはまるで、彼女自身が言い聞かせているようで。
なぜだかそれ以上、聞いてはいけないような気がして。
「そっか」
と、俺はただ小さく、相槌を打った。
遠ざかっていた記憶の中で。
あの小さな貝が桜貝という貝なのだということだけを、覚えていた。




