はじめました、高校生活
春はあけぼの
ようよう白くなりゆく山際 少しあかりて 紫立ちたる雲の細くたなびきたる
清少納言の言いたいことはわからないではない。
だが、そんな時間に起きている人は多くないはずだ。
春といっても夜明け前の朝は寒く、ましてや夜通し布団に入らず起きていたとなれば、体は冷え切っている。
「へくしゅっ。ああ、もう朝か」
締め切ったカーテンがうっすらと光を通す。
今日の始まりだ。正確に言うと昨日の延長なのだが。
寝坊などするわけもなく(寝てすらいないのだから)、少し早く駅に着いた私は、ホームのいすに座りスマホを取りだす。
すると、いきなりぽかっと頭を叩かれた私は驚いて飛び上がる。
「な、何をする!」
私の頭を叩いた張本人である昌也は、やれやれという顔で呆れたようにこちらを見て、
「珍しくお前が先に来てると思ったら、寝てたのかよ。昨日、寝てないだろ」
時計を確認すると、時間の30分前を指していた針はもう3分前となっていた。
「私は寝ていたのか。昨日は昌也の誕生日にあげようと思っていたギリギリ18禁にかかっていない漫画を探していてな、なかなか見つからずに気が付いたら朝だった」
「公共の場でそんなことを言うのはやめなさい。被害を受けるのは君ではなく俺だ」
昌也のつっこみに私は満足し、ケラケラと笑う。
「冗談だよ。いつものように夜通しアニメを鑑賞していただけだ。それより、君の爽快なつっこみのおかげで、ボケたこちら側はとても気持ちがいいよ。」
「全く、、、こっちはいい迷惑だっての。ほら、電車来たぞ」
「ああ」
ゆったりと止まりかける電車を見て、私たちは一番人の少ない1両目に乗り込む。
出発のホイッスルとともに電車が動き出すが、人はそこまで多くなく、誰かにぶつかることはなかった。
「今日は人が少なくていいな」
「お前、人ごみ嫌いだもんな」
「当然だろう?人ごみは、人がゴミと書くのだぞ?」
「いやいや、人が混むと書いて人混みだ」
「だがどちらにしろ、ゴミのように見えるのは変わらないだろう?」
「わかったわかった、、、お前の人間嫌いはよーくわかったから。」
佳世が人間について語り出すと、人間は自分勝手だの人間は見苦しいだの、人間批判が止まらないのでここら辺で制止しておく。
そうこうしているうちに家から近い学校を選んだこともあり、10分程度で目的の駅に着いた。
「康介、おはよう。同じ電車だったのだな」
昨日の少し背の高い人物を見かけたので、佳世はすぐに声をかける。
「おはよう。二人は一緒だったのか?」
「ああ。家が隣の隣の隣の隣の前だからな」
「簡潔に家が近いから、とは言えないのか」
康介が笑いをこらえられずにぷっ、と吹いた。
「光崎と昌也のコンビネーションは最高だよ、本当に。これはまさにハッピーセットだね」
ハッピーセット!?
今度は私たちが吹く番であった。
「ハッピーセットか!それはいいな。ははっ」
「案外康介もイケるくちだな!俺、お前好きだわ」
「昌也、お前もしかしてホモなのか!?こんな場所で堂々とホモホモしい展開を見せつけられても私は、、、」
「違うだろ!今のはどう考えても同性愛とかそんな意味合い含まれてない!」
「そんなに焦ることはない。渋谷区では同性カップルの条例があるのだ。そのうちホモも世間に認められるようになる」
「そういう問題じゃねぇ!」
こうして私たちは腹を抱えながら登校する。
何故か周りにいた女子の視線が多かった気がするが、これは自意識過剰というやつだろうということにして。