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オ・ト・ア・ト~仮想世界からアイを込めて~  作者: プリンシプル
Luna・Distance
5/14

真っ赤見えるは髪の色。

「F. M. L (フリー・ミュージック・リンク)『ウィークリーピックアップ』! 今週もやって来ましたこの時間!! 誰もが注目、みんな楽しみ、何よりオレが一番楽しみ! なんだZE✩」

 

 軽快なDJの掛け声に皆が目を向け、耳を向け、注目する。新人たちの登竜門とも言えるこの企画は文字通り1週間で客の視線を多く集めたバンドが取り上げられる。

 演劇、お笑いなど部門別で発表されるが『バンド』枠は何より注目度が高い。ここからプロになり人気バンドの地位を経たものは数多く。プロの中でもココへ再起を掛けて挑む者も多い。

 注目度が高いだけ、そんな票ではない。世界規模の繋がりが実現したこの世界で注目されるのだ。ここで選ばれるもののソーシャルインパクトは果てしないのである。

 

 そんなところにまだ名前もないバンドが出てくることがどれだけの影響力があるか? 俺はまだ知らない。そんな事態になっていることを気づいていないのだからわかるはずもない。



                         §



 朝、落ち着かない気持ちを抑えるように私はバスの座席に収まる。


 私の心が騒がしいのは朝食を食べながら『ウィークリーピックアップ』を見たからである。週明けの暗い気持ちを払拭させてくれる月曜日の朝の楽しみ。これさえ見れば月曜だってご機嫌だ、お気に入りのバンドが見れれば尚良し! 新しいバンド発掘も楽しみだ。

 

 今週も『エクレア』がピックアップされていて私の気分は上がる。最後に出てきたまだ名前のないバンドもヴォーカルの子がキレイでとても澄んだ歌声で気に入った。……だけど何かが引っかかった。私の喉を通りそうで通らないような、そんなモヤモヤの正体が家を出る時にわかった。正確にはその答えの可能性の一つを見つけた、だけであるが。

 だから私は学校への足を早めた。しかし、バスは自分の足ではない。時間通りにしか動いてくれないから柄にもなく足踏みをしてバスでの時間を過ごした。学校へ急いだのは皆の、クラスメイトの反応を見るためだ。

 

 いつもの見慣れた風景が教室に広がっている。朝の雰囲気はいつもと同じだが話題は違う、特に週明け月曜日の朝は。


「ねぇねぇ見た!? エクレア! ちょーイイよね~、今週のイっちゃんもちょーイケメンだったしw」


「何言ってるのよ? エクレアはアイナ様とエリカ様がいてこそ、でしょ!?」


「う、ウミちゃんもサナも頑張ってたよ!」


 エクレアがピックアップに毎週上がるようになってから、月曜日の私のクラスはエクレア中心である。いつもならこの輪の中に私も入っているのだが、今日は少し離れたところであの話題がでないか聞き耳を立てている。


「あっ、そうだ。一番最後に出てきた名無しバンド、あのヴォーカル」


そう! それ! その話を待っていた。あのヴォーカルってさ……?


「いい声してたよね! これから来るよ絶対!!」


「というか、2人でバンドって言うの? バンドの定義って知らないけど、2人ならグループ? いや、デュオかな?」


 他に、他に気づいたことはなかった? 私が声を掛けようと立ち上がると同時に、教室の戸が開き先生が到着。話はそこで中断され、それ以降その話題にはならなかった。私が求めていた答えを得ることは出来なかった。

 教室内は落ち着きを取り戻し、授業が開始される。私はそっと隣の机を眺めた。主人が戻らないその空席。使用されなくなってどれくらい時間が過ぎたであろうか? 



                         §



 目覚ましのアラームが鳴る……違う、この音は着信のメロディだ。自分が選んだ着信音であるのだから勿論好きな曲が流れるわけだが、時と場合によりそれは不快な音にしかならない、こともある。


 端末に手を伸ばし受話ボタンをスライドさせる。


「ダイチ! ダイチ!! 見ましたか!? 見ましたよね!! 寝てる場合じゃないですよ! 今すぐ集合です! 早速作戦会議しないとですよーーー!!!」


 目覚ましより30分以上早いモーニングコール。そんないいものではないが、無理やりながら相手の目を覚まさせるには申し分ない。興奮したその声はスピーカー設定にしなくとも耳を抜け脳みそを横切った。


「モーングコールはあと30分後にお願いします。おやすみなさい」


「何を寝ぼけてるのですか? 私はホテルマンではありませんよ、モーニングコールが必要なら香佳さんを行かせましょうか?」


「スイマセン、ダイジョウブデス、今ので『超』目が覚めました。」

 アカリの目の届かないところであのバイオレンスメイドと対峙するなんて悪い冗談だ。恐ろしい、命がいくつあっても足りない。



 初手、神尾家メイド。「おはようございます、大地様♪」挨拶とともに寝ている相手の顔面を掴み、渾身の力を込め遺憾無く握力を発揮した!


 死ぬわ!!!


 我が頭骨が無残な音を立てて崩れる様を想像して悪寒が走る。



「ダイチ、聞いてますか? 私の家に集合ですよ!」

身近な死の想像に怯えているところをアカリの声に意識を引き戻される。


「今日は週明け、平日の月曜だぞ。これから学校だし即集合とか無理だから。アカリも学校だろ? 行くんだろ?」


「わ、わかってますよ……じゃあ終わったらすぐ来てくださいね! 走って来てくださいよ!」


『行く』とは言わないんだな。やっぱりスクールエスケープだろうか? 

 相手からすれば大きなお世話なのかもしれないが、放っておくのもどうかと思う。何かきっかけがあれば背中を押してやるのだが……詳しい事情は隙を見て香佳さんにでも聞いてみよう、お嬢様の味方であるヤツが教えてくれるかは微妙なところだけど。


 本当に彼女のことを思うなら解決したいと思っているはず、このままでいいなんてことはないんだ。


 すっかり目は覚めたがまだ頭は回らない、とりあえず朝食は済ませてしまおうと布団を出たところで頭の中に閃きが一つ。


「アカリは一体何を見て電話してきたのだろうか?」



『無知とは恐ろしい』と言うが、この場合本当になにも知らなかっただけである。説明不足だった、ということだ。彼に罪はない。



 講義が終わり、急いでアカリの元へ向かう。勿論走ってはいない。だが急ぎはしたから義理は果たしたであろう。

 玄関で待ち構えていたアカリは、当然の如く遅いと頬を膨らませながら腹を立てている。また引っ張ってやりたい衝動に駆られたが、後が怖いことも理解しているので逸る気持ちは静かに押さえ込んだ。


「それでは早速作戦会議を始めます!」


鼻息荒く強引に話を進めようとしているが、俺はまだこの状況を理解していない。ここで質問をすればきっと彼女は怒るであろう。しかしながら、意味不明で話を聞くよりはマシだろうという判断で恐る恐る現状の説明を求めた。


「ダイチさん? 何のお話をしていらっしゃるのですの?」

 ん!? 言葉使いがおかしくなるほど憤慨することか?


「多分、説明は受けていないと思うんだけど……」


「ダイチさん? 常識は説明しなくても理解ですよ。」

両肩に手をかけ冷たい視線を向けてくる。

 

 そんな真剣マジな顔で言われても知らないもは知らない。


「困った時の『アカリちゃんヘルプ機能』とかはないのでしょうか?」


仕方ないですね~♪って笑ってくれることを期待したがそれはとても儚い夢であった。


 ブツブツと文句を言いながらも合図一つで機材が用意されて映像がスクリーンに投影される。

俺たちの演奏を撮った動画が流れた。昨日のライブが『F. M. L』のピックアップに取り上げられたらしい。

 ココに取り上げられることがどんなに重要かをくどくどと説明を受けたが、エクレアが常連だという所で理解できたことは言わない方が得策であろうと悟る。


「それでは、作戦会議の本題です。注目され人気バンドへのレールを歩き始めた今、私たちには足りないものがあります。それは!」


「いしょぅ~……」

「ドラムだな。」


 彼女の言葉尻が小さく消え入ることに気づいていたが、冗談ですよね? ということにして話を続けた。


「少なくともあとドラムはいないとやりづらいな。スリーピースが最小人数のバンドだと考えて、ギターとベースは打ち込みでなんとか出来そうだけど、ドラムは生の方が調節しやすいよな。勿論、全担当いるのが一番良いのは当然なんだけど、まず増やすなら? ってことならドラムがほしい。」


 で? アカリは何が必要だって?


 なにを言おうとしたのかは大体わかる、だがそれを言わしてしまうと意見を押し通しかねない。ここは年上らしく正しい答えに導いてあげる、これが正解だ。自分はなんて優しい先輩であろうか。


「い、い、イイ、ドラム。そう! ドラムが欲しいですよね~さすがダイチ! 私と意見一緒ですね」


「それはよかった。最優先項目が『衣装』だなんて言い出すかと思ったよ」


あはは、その冗談おもしろーい。とは言っているが内心ではどう思っているのやら。全く真面目に考えて欲しいものだ、先が思いやられる。


「当たり前ですよ~、ちゃんと考えてますよ! その証拠にちゃーんと新メンバーの目星は付けてあるのですよ」


 口からデマカセ……というわけでもなさそうだ。アカリはメイドを呼び、外へ出かける準備を始めた。


「お嬢様……」

コートを準備しながらも暗い顔の香佳はアカリの体を心配しているようだ。


「ちょっと駅前に行くだけですよ? ダイチも一緒ですし大丈夫ですよー香佳さん」

安心させようとかけた言葉に香佳は涙する。だが、彼女の心配の方向は斜め上を行く。


「お嬢様、私は倒れたお嬢様の体に気安く触れる輩がそばにいること自体が心配なのです!」


 それはただの杞憂に過ぎない。

そんな言葉が通じる人ならとても助かるのだが、アカリに対して並々ならぬ愛情を注ぐ彼女には届かぬ言葉であろう。


「緊急時はまず、香佳さんにご一報するということでよろしいでしょうか?」


なぜ自分がここまで気を回さなくてはいけないのだろうか? 誰か説明を求む。





 夕方の駅前。帰宅へ急ぐ人たちに混じり歌声が聞こえてくる。近場に特徴的な娯楽施設があるわけではないが、商業施設、学校、住宅街など揃っており駅周辺は人通りが良く賑わっている。

 

 人が集まる所には自然と人が寄り付くものであり、ストリートミュージシャン達もその一部である。ギターを弾く者、キーボードを持ち出し演奏する者。そのくらいは普通にいるであろうが、ドラムセットを持ち込んで叩いているような人は見たことがない。


 普段から利用している駅であるからその辺の事情は分かっている。路上ライブであればドラムを持ち出す者もいないことはないが、その人は既にそのバンドのメンバーであろうしその人を引っ張ってこれるようなコミュニケーション能力を彼女が保有してるとは到底思えない。


 どうやってドラマーをスカウトするつもりなのだろうか? ドラムソロプレイヤーなんてのはいなかったよな……?


 アカリは辺りを見回し誰かを探している。目星は付けてある、というのは嘘ではなさそうだ。彼女が探している特定の人が誰かは分からないが、周りにそれらしい人が見つかるかも知れない。ドラムソロプレイヤーとか。

 

 8ビートのリズムは聞こえてこないが、一つ気になるものは見つけた。


 富士山噴火!! とでも表現していいのだろうか? 空へ炎を立ち上らせているような髪型。真っ赤に輝くそのヘアスタイルはドラマー向きのイメージではあるが、彼が手にしているのはアコースティックギターである。

 だが彼のギターテクニックは目を見張るものがある。ギターとしてスカウトもアリか? 

上から物を言っているが自分の心の中だけなのでそこは許して欲しい。あの技術に比べれば遥か下の自分を比べるものではないが、それはギターではという話。本職ピアノでは負けない! そういう話でもないか。


 アカリが目標を見つけ動き出す。ここから見えるのは3人、1長髪でパンクな姿の人、2燃え上がる炎を思わせる髪型の人、3短髪の見た目普通な好青年。

 答えは3択、さぁ正解は? ちなみに全員楽器はアコギである。


 アカリは目的の人物へまっすぐ進み、真っ赤な頭の前に止まった。正解はー、2番!!!


 アレか! アカリのヤツ一番面白いところに行ったな。 


 コミュニケーション能力は低いだろうと思っていたが、一言二言話しただけで彼女の交渉は成立した。小走りで戻ってくると、さぁ帰ろうと俺の背中を押し歩き出す。

 交渉が簡単すぎるのも変だが、神尾家に帰るのに先頭を行くのが真っ赤な頭の人なのも変、というか謎だ。それ以前にまだ自己紹介とかしてないんだけど? 自分の頭の中でこの謎が解ける前に神尾家へと到着してしまった。


 堂々と門をくぐり玄関の扉を開ける赤頭。中では香佳さんが頭を下げて待っていた。


「お帰りなさいませ。アキラ様」


振り返る反動で赤頭が揺れる。


「改めてよろしくな、ダイチ君。俺はアカリの兄で神尾陽だ」


差し出された手を握り返して一言。



兄貴かよ!!



 結局のところ身内頼りか……どうりで話が早いはずだ。

 

 今回はこれでいいとして、これからはどうするんだ? 身内で固めるのか? 自分が知らないだけで実話まだ兄弟がいて必要人数は余裕で揃うとか? 



 ははは、まさかね。



 自分の知らないところでこれからも勝手に話が進んでいくのではないかという一抹の不安はあるが、これでドラムは確保。とりあえずの形はできた。


「それで? 君は何を担当するんだい?」




 ああ、先行きは『まだまだ』不安でした。


同時進行は難しい。そんな当たり前のことを処理するのに時間がかかってしまいました。これからは集中できるようにしましたので、もっと早くできる……ハズデ~スヽ(・∀・)ノ

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