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オ・ト・ア・ト~仮想世界からアイを込めて~  作者: プリンシプル
Luna・Distance
4/14

初舞台はエクレアの衝動。

 メインストリートそこはこの世界の中心であり激戦区である。 


まだまだ聞かなくてはならないことが沢山ある。そう、例えば目の前をふわふわと泳ぐこの丸いウィンドウとか。


「それでは、次はあの丸いヤツ見てみましょうか」


 アカリはキョロキョロとあたりを見渡し、1つのウィンドウに当たりをつけた。アレにしましょう、と。


「まずは、見たい人のウィンドウを呼び寄せます。別段細かい操作は必要ないです、指をさせば近寄ってきますので」


ウィンドウを正面に捕らえると、音楽が流れ始めた。中で歌っている人の様子が小窓のような画面から見える。


「そうしたら、タッチです」


俺の腕を掴みながらウィンドウに触れると、中へと移動する。メインストリートの入り口と同じ仕組みだ。


「ここは、プライベートエリアといってストリートで演奏するときに作る部屋です」


メニューを開いて見てください。変わっているでしょう? メニューがこのエリアのユーザー情報を表示している。


アッシー大内:シンガーソングライター


 なんだか古くさい名前だが、見た目も相応。頭に青いバンダナを巻き大きなグラサンを着けて、ジージャンにデニム、インナーは黒のタンクトップ。オジサン臭がしてきそうだが、見た感じもっと若い人だ。30代前半くらい。

 

 エリア内は結構な広さを備えている。壁際には演奏者用のステージが設置してある。アッシー大内さんには五人ほどの客が付いていた。客の年齢層は若い人が多い。客が増えたことにより、かき鳴らすアコーステックギターで喜びを表現してくれている。つまり、演奏に熱がこもったということだ。

 

「エリアでは、入ってきた人の数を計測してます。アクセス数と同じですね。そこで、自分を見に来てくれた人の数、来てくれてポイントをくれた人の数、ポイントをくれた人が2回以上の常連である。その3つの1日分の集計でボーナスポイントがもらえるわ」


 そう、それが私達バンドマンの成長の糧となってランクアップができるの!! オーバーリアクションでこの重要性を訴えるアカリ。


「ランクアップすると何がいいんだ?」


自分の目で確かめることをおすすめします! だそうだ。まぁ、聞かなくても大体の想像はつくからいいけど。後のお楽しみって解釈でいいとしよう。


「早速、評価ポイント入れてみましょう! メニューの自分の名前の下の数字をクリックです! わかりますか?」


名前表示の下にある数字の10の表示をタッチするとプルダウンメニューで数字が並ぶ。


「どーんと! 5ポイントあげちゃいましょう!」


凄んだわりに、全ポイントではないんだな……。五を押し、確認表示のマルボタンを押す。俺の5ポイント、アカリの5ポイント、計10評価ポイントがアッシー大内さんに送られた。


「アリガトウーー!!」


アッシー大内さんは感謝の意をギターの音で体現してくれた。アカリは笑顔で手を振り、俺は軽い会釈をしてエリアを出た。


それにしてもどこかで聞き覚えがある歌声だったような……?


「今のが聞く側の出来ることです。何かわからないことは?」

評価ポイントは使いきった方がいいのか?


「そんなことはないですよ。ユーザー一人につき、1日10ポイントで繰り越しもありませんし、使っても翌日には戻っていますよ」


ふーん、そんなものか。

外に出ると再び無数のウィンドウに囲まれる。


「それにしても、これだけあると探す時は苦労しそうだな」


俺の呟きを聞き逃さないアカリ。

 

 フッフッフー、ご安心下さい! そんな時の為、メニューには一覧や検索機能が備わっているのですよ!

ドヤ顔アカリちゃんが登場した。

 

 アカリはメニューから現在の一覧を表示させる。表示には、赤や緑など色のついた名前も混在していた。


「色が付いているのは?」


それは現在の入状況。人が集まっている数によって色分けされているんです。皆、真っ赤にするのが目標です!

赤色は人気がある証明というわけか。


「……エクレアがいる」


エクレア?


「エクレール・アソートメントです! 見に行きましょう!」


何時になく真剣な眼差しのアカリ、赤色に縁どられた名前表示を真っ直ぐ見つめる。


 一覧表示より、目的の名前を選ぶ。赤く縁どられたウィンドウが俺達の目の前にやって来る。

盛り上がる観客の声と、アップテンポなメロディがウィンドウより聞こえる。ひと呼吸、心を落ち着かせエリア内へと赴く。

 エリア内はライブ会場さながらの盛り上がりと重低音のサウンドが響き渡っている。ストリートとしながら、音響設備はライブハウスと変わらない仕様のようだ。先程のアコギ一本とでは比較にならない、圧倒的な迫力で観客を魅了している『エクレア』こと『エクレール・アソートメント』。

 

 彼女たちの衣装は、全員揃いの学生服、見た感じ多分本当に女子高生なのだろう。同じ種類の服ではあるが、それぞれ思い思いに個性を出している。スカートの丈を調節してあったり、ニーソックスを着用のものハイソックスを着用しているもの。ブレザーを腰に巻き、動き回る度に後をついてまわるようなびくブレザーの動きも、躍動感の一つとして動作に取り入れているのがより一層目を引く。


 観客を楽しませることがとても上手いのだ彼女たちは。初めて歌を聞いた人達ですら、この雰囲気に巻き込んでいく『力』を彼女たちから感じることができる。

 昨今のガールズバンドのパワフルな演奏やパフォーマンスでは彼女たちは引けを取らない。全力の演奏で輝く汗が、笑顔が、皆の心を奪う。

 

 この混雑のせいか偵察の為なのか、アカリはエリア出入り口付近で留まりステージを見つめている。俺の袖口を強く握り締めながら。


「よく見ておいてください。私達の好敵手(ライバル)です。」


「アカリ、歳いくつだっけ?」


「17です」


そういう意味でライバルか?


「それも……ないことはないです。」


羨ましいんだろ? 友達同士で楽しくやってるのが。


「失礼ですね、それではまるで私が『ぼっち』みたいじゃないですか」


違うのか? 触れてはいけない部分だったのかもしれない。だが、いずれ分かることだ。


「香佳さんがいます、ダイチさんも! ワァ~ワタシ、お友達いっぱいだ~! わ~い」

彼女は無表情のままだ。


「ダイチの目がエクレアの肌色部分ばかりが気になるようなので! そろそろ行きましょう」


見えてはいるが、直視はしてはいないんけど……。アカリは喧騒に背を向け、俺の袖を引きながら歩き出す。


「や~ねぇ~男の人は! こん~な! 可愛い子が隣にいるのに他の女の子のことばかり見てるですもの!」


話題を変えるべく、とんだとばっちりを受ける。メイドがここに居たら、確実に一撃は食らわされる内容ではあるが、ヤツはいない。聞かれてもいない……はずだ。

 少し、考える素振りをして手の平をポンっと叩く仕草をするアカリ。 


「さぁ、私達もエリアを作りますよ!」

今日は見るだけだって言ってなかったか?


「見るだけですよ。次は、舞台(ステージ)の上から見える景色です! 最後は実際に体験して、説明いたしますよ♪」


アカリの顔に笑顔が戻る。突然の思いつきでの行動、エクレアの演奏に触発されたのだろうな。


 メニューを操作し、白い丸型ウィンドウを出現させる。今はただの白い丸である、アカリが手で触れ数秒、効果音がなる。


「登録完了、私達のエリアができましたよ」


 ウィンドウに小窓ができ、中が見えるようになった。これがエリア登録できたということか。

中は今まで見てきた空間と変わりない、当たり前か。違うのは俺達しか、いないということだ。


「顔も何も、知られていない俺達を見に来る人はいるのか?」


「演奏していれば気に留めて見てくれる人が集まるのが普通ですが、こういう時はフレンド(身内)頼みですかね。とりあえず、新規は目立つように表示が出てるので観覧者ゼロってことはないですよ」


準備しながら、気長に待つとしましょう。


 ステージは実際に登ってみると適度に高さが感じられる。少し高いだけだか、開けた景色はまた違う趣がある。


 メニュー内にエリア用の新しい項目が追加されている。


「ギターやベースにドラム、標準的な楽器は全て揃ってますよ。鍵盤楽器は、ピアノにオルガンからチェンバロまで! 電子ピアノとかシンセサイザーも使えるので、どれを使うかはダイチのセンスにお任せします」


 演奏する曲次第ということもあるのだか、ぶっつけ本番で感触が分からない物を使うほど俺は器用じゃない。無難にピアノを選択する。ステージの3分の1は占めるピアノが出現。さて、問題は演奏時の感覚なのだが……。適当な曲を引いてみた。指に伝わる感覚が、ここまでで現実と変わらず表現さてれいるとは、この世界のシステムに感心するばかりだ。音のズレもない、ダンパーペダルも……問題ない。


「ダイチ、この曲できますか?」


アカリから渡されたスコアを確認する。知っている曲ではあるが、今までリクエストを聞いて即興で演奏できるような練習はしてこなかった。前もって準備期間が必要だ。とは言ってられないのだが。


「5分、いや10分待ってくれ。出来るようにするから。ところで、これの原曲は聞けないか?」


「スコアにサポートメニューがありますのでそこで聞けますよ」


 紙ベースの表紙よりメニューを展開させ、イアホンモードを選ぶ。こうすれば自分一人だけが聞こえるのだという。さらに細かい設定変更で聞きたいパートのみにできるらしいが、この短時間では全体の音を聞いたほうがつかみやすい為使わない。

 俺が譜面に描かれた音符たちと格闘している間に、誰かがエリア内にやって来た。ドアベルのような効果音が鳴る。俺には来客の表示のみが見える。


「よぉ~、若人諸君! 初舞台で困ってるだろ? 応援に来たぜ~」


「大内さんっ! ありがとうございます! でも、私達はさっきたまたま立ち寄っただけなんですけど、いいんですか?」


「たまたまとはいえ、評価を貰ったお礼くらいはさせてくれ! なんて! ただ、さっき見たカワイ子ちゃんをもう一度見たかっただけ、だったりしてな! な!!」

豪快に笑う大内さん。それは冗談なのかな? まぁ理由はどうあれ、1人でも聞いてくれる人が居る。それだけでも私の気持ちは高まる。


「ログインしてる仲間達も呼んでおいたから、10人くらいは集まるぜ! あとは君たち次第だ! 頑張りな!!」

懐の大きい先輩に出会えたこと、良きめぐり合わせに感謝。


 これで、なんとか……。ん? 騒がしい? スコアから目を外し、客席に目を向けるといつの間にか客が増えていた。客の中に目立つ青いバンダナが見えた。これも身内頼み(・ ・ ・ ・)の一つか、な。


「よし! アカリ、いいぞ。」

 

 アカリはスタンドマイクを両手で優しく掴み、静かに目を閉じ集中していた。ゆっくり瞼を上げる。顔つきが変わり、アカリの雰囲気で客達も準備が出来たのだと感じとり、静まり返る。

これは、俺も気合入れていかないとな。改めて深呼吸して、心を落ち着かせる。


 もう、言葉はいらない。旋律(メロディー)が響けば幕が開く。


 ピアノの前奏が始まる。静かなメロディが確かな音を紡ぎ出す。


 俺は本当に彼女のことをなにも知らない。ただ流されていただけで、知ろうともしなかったのだ。

 彼女の歌唱力は、俺の想像を遥かに超えた。透明感のある歌声に、力強さも持ち合わせる。その歌声に驚き、動揺して手が止まりそうになった。原曲の歌い方を真似てはいるものの、彼女なりの個性が光る。


 映画で主題歌に使われたこの曲。どんなに時間が経っても君が好きってことは変わらない、そんな切ない片思いの気持ちを詠った歌詞。

 ピアノ伴奏している自分の位置からでは、彼女の顔はほとんど見えない。しかし、演奏が始まると動き出す、エリア内のライブ映像ウィンドウに映る彼女の表情は歌詞の切ない心をも表していた。


 彼女の歌に置いていかれないようこちらの演奏にも力を入れる。ピアノだけではない原曲、足りない部分は出来るだけ空いた手で足していく。少ない練習時間では補えきれない所もある、特に耳に残った音を中心に、メロディをなぞっていく。

 曲も終盤に差し掛かり、何度も使われるサビのフレーズが歌声に溶けていく。鍵盤に集中して見れない彼女の歌う姿を、見ていたい……強くそう思った。

 すべての歌詞が歌声にのって大気へと帰っていく。俺の伴奏が静かに締めくくる。


 最後の音を出した鍵盤に余韻を残すように、ゆっくり指を外す。

彼女の横顔が見える、夢から覚めるみたいに表情が色を増していく。そして驚いた。それは俺も同じだった。気づかないうちに観客の数が増えていたのだ。緊張が解け、いつもの彼女に戻り急にパタパタと動き出した。


「えっと、あの、あの! ありがとうございます!」


 お約束、かのように。感極まり、スタンドマイクに額をぶつけ衝突音と共に反響するマイク。

観客から笑い声が漏れる。アカリが戻ってきた、と感じたのは俺だけだ。


「新参者の私達の為に時間を割いていただき、本当にありがとうございます! 私達は……えーっと、すみません、まだバンド名決めてなかったです」

アカリのつたないMCに、笑いが起きる。客の一人から、もう一曲歌って、の声が上がる。


「ダイチ! もう一曲できる!?」


目を輝かせて媚びたところで、できないものはできない。


「えー、ウチのピアノさんがヘソを曲げたようなのでこれ以上は出来ません! すみません!」


「あのな! ほとんど練習なしでここまでやったんだ、文句言うなよ!」

再び、観客に笑いが起きた。


 ストリートでのライブ映像は全て録画されており、これを元にピックアップされたバンドは翌日映像と共に紹介され、注目を浴びることとなる。これが人気の出るバンドの一番大きなきっかけとなる。


 明日、そんなことになるとは露ほども思っていない俺達は、漫才みたいな掛け合いで観客を楽しませて、一緒に笑い合っていた。

歌をどう表現するか? 難しい課題です。原曲あれば大体のイメージを書き出せるのですが、これからはそうもいきませんワケでして。(;▽;)

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