十七歳の少女
「牧岡さん。ちょっと問題がある患者がいるんですけど、牧岡さんに担当していただこうと思っているんです」
問題がない患者はそもそも精神病院に入院してないんじゃ? 言いはしなかったが、マキちゃんの言葉を聞いてそう思った。
「十七歳の、女の子です」
「えっ」
つい言葉に出してしまった。マキちゃんの視線が冷たいように感じたのは、気のせいだろうか。
「実父に虐待されていて、施設に保護されたんですが、精神的に不安定なんです」
「不安定って、どう不安定なんですか? リストカットとか?」
「会えば、分かります」
マキちゃんの突き放した指導は勉強になるよ、全く。可愛い顔してえげつないんだからさ。
十七歳の少女、佐藤葵の病室に一歩入ると、マキちゃんが言っていた「会えば、分かります」の意味が本当に死ぬほど分かった。
「おとうちゃん!」
葵はいきなり抱きついてきたのだ。俺は狼狽した。だって、女を抱いたのなんて三年ぶりだったから。あ、風俗は除外して。
「おとうちゃん、どこ行ってたの? 葵、寂しかったんだよ」
「俺は、おとうちゃんじゃないよ」
「嘘。おとうちゃんと同じ匂いがするもん」
ケース記録によると、葵の父親は四十九歳のはずだ。ショックだ。俺はそんなオヤジと同じ匂いがするのか。葵の身体から漂ってくる香りは、香水も何もつけていないはずなのに、優しい果物のような刺激があった。
「ねえ、やろう?」
「え?」
葵はそう言うと、後ろ向きにベッドに身体を投げ、下着を脱いで足を大きく開いた。
「ちょっと、何するの!」
さすがの俺も目を逸らした。
「いつもみたいに、やろうよ。おとうちゃん、優しいもん。やってる時」
「やめなさい!」
少し強く言い過ぎたかな。言ってから後悔した。
「おとうちゃん?」
葵は立ち上がり、再び俺の側に歩み寄った。また体臭が匂ってくる。やばい。下半身が反応してしまう。
「おとうちゃん、ここ、こんなんだよ? やろうよ?」
葵が指さす先に、膨張した俺の欲望の塊があった。
「ポケットにね、折り畳み傘入れているんだよ。最近の折り畳み傘は小さいんだよ」
「嘘。だって、ほら」
「うわ!」
その場所を触られそうになり、飛び上がるように後ろに下がった。
「また、来るよ」
それだけ伝えて病室から出る。これ以上居続けると理性が吹っ飛びそうだ。
葵の病室の扉を閉め、脂汗を拭った。厄介な患者だ。本当に厄介だ。
「どうでした? 葵ちゃん」
マキちゃんは外で待機していたのだろう。すぐに声をかけられた。
「どうもこうも。びっくりしました」
「あの、牧岡、さん。その……」
「あ」
俺のマグナムはいつでも発射できるようにスタンバイしたままだった。しまった。最悪だ。でも恥ずかしそうに横を向いているマキちゃんも、いいな。