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MSW  作者: 景雪
12/13

賭け

 「おとうちゃん」

 今日も葵は俺をそう呼ぶ。俺、まだ三十二なんですけど。そんなに匂う? 加齢臭。

 「葵は、優しくされたいんだよね?」

 「うん! やってくれるの?」

 「いや。俺は葵が嫌いだ。大っ嫌いだ。だからお前を殴る」

 右の拳を堅く握って振り上げた。葵が顔を一瞬でこわばらせる。胸が苦しくなって直視できなかった。彼女が父親に暴力を振るわれる時、こういう顔をしたのだろう。ごめん。葵。ごめん。

 「やめろ!」

 その時、病室のドアが開いて慶太が飛び込んできた。こいつはいつも葵の様子を伺っていた。すぐに中の異変に気付くことは分かっていた。

 「なんだ、お前は?」

 慶太の胸倉をつかんで睨みつけた。彼の細い身体は軽い。慶太は震えていた。しかし視線を、俺の目から絶対に離さなかった。

 (殴れ)

 小声で、慶太にだけ聞こえるように言った。

 (殴れ。葵を守ってやれ)

 慶太が思いっきり振り抜いた拳が、俺の左頬に炸裂した。演技をしようと思っていたがその必要もない。それくらいの衝撃だった。俺は背中から病室の床に叩きつけられた。

 このクソガキ。殴ったふりすりゃいいんだよ。本気で殴るやつがあるかボケ。

 慶太は通せんぼをするように両手を広げて、隅で小さくなっている葵を守っている。葵は慶太の肩に手を置き、すがりついている。俺はひりひりする左頬を押さえながら、逃げるように葵の病室を飛び出た。


 「どうしたんですか?」

 喧騒に気付いて駆け付けたマキちゃんに声をかけられた。

 「何でも、ないですよ」

 本当に痛む左頬を抑えたまま、ごまかすように答えた。

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