表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MSW  作者: 景雪
11/13

迷宮

 葵の担当になって、毎日彼女の病室を訪れていると、気になることがあった。西島慶太という葵と同い年の患者が、葵の病室をちらちらと気にするようにしているのだ。彼が葵に気があることは明らかだった。ちなみに、慶太はうつ病で入院してはいたが軽症で、退院が近付いていた。

 談話スペースで二人がたまたま一緒になったことがあった。慶太が話しかけたのだが、葵は彼を無視して立ち去った。葵にとって、慶太は男ではない。加齢臭もしないし、身体も発展途上で細すぎる。手足にもあまり毛がなく、髭もほとんど生えていない。父親くらいの大人の男でないと、葵は心が満たされないのだ。男臭いむさくるしさに包まれないと、葵は満足できないのだ。


 どうすればいい? どうすれば葵の目を覚ますことができるのだろう? 彼女の脳みその皺一本一本にまで染み込んだ、大人の男への性的な欲求を、俺はどうすれば取り除けるのか、あれやこれや考えた。休日でも葵のことが頭から離れなかった。


 「牧岡さん、バイクに乗られるんですか?」

 「……え? ああ、乗りますよ、一応」

 事務所の机で葵への対応策を練っていると、突然マキちゃんに声をかけられたので、慌てて返事をした。声が少し上ずった。彼女は俺の机の上にある、バイク屋にもらった卓上カレンダーを指さしていた。

 「なんてバイクなんですか?」

 「DUCATIのS4Rっていうバイクです。イタリアのメーカー」

 「へー、イタリアって格好いいですね! 何CCなんですか?」

 「一〇〇〇CC」

 「すごーい。今度、後ろに乗せてくださいね」

 そう言ってマキちゃんは、喉飴を一つ俺の机に置いて、目配せをしながら自分の席に戻っていった。俺はもらった喉飴を口に放り込みながら、社交辞令じゃなかったらいいのにな……と思いつつマキちゃんの背中を見つめていた。「今度、後ろに乗せてください」今まで何度も言われてきた台詞だが、実際に後ろに乗ってくれたのは、大学時代の同級生、北村ブタ美だけだった。本名は忘れた。相撲部屋から来たような女で、後ろに乗せると簡単にウィリーしてしまい本気でこけそうになったっけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ