見えぬ出口
「おとうちゃん」
葵の病室に入る度に、彼女は俺に抱きついてきた。世間では、十八才未満の女の子と抱き合ったりしたら罪になるのだろうか。そう考えると胸が痛くなるほど鼓動が速く打った。
「俺は、おとうちゃんじゃないよ」
「うそ。おとうちゃんは、優しいんだよ。やってる時は」
この子は、十二歳の時に父親に犯されて、五年近くおもちゃのように扱われていた。父親との間にできた子供を堕胎したこともあるようだ。父子家庭で、父親はろくに働かず、生活保護を受給していた。普段は酒を飲んで暴力をふるう父親が、セックスの時だけは優しくなるので、葵は優しくしてもらうため、身体を開放してしまうのだ。父親が管理売春で逮捕されて、この子はやっと保護された。保護された時、多くの男達の欲望のはけ口とされていた葵は、抱いてくれる男がいないと生きていけない身体になっていた。
「優しくしてもらいたいの?」
「うん」
「そんなことしなくたって、優しくしてあげるよ」
「うそ。してくれないよ。お酒ばっかり飲んで、怒鳴るし、殴られるよ」
「そんなことはしない。誓う」
「うそ。うそ!」
葵は中々心を開いてくれなかった。自分の身体を抱いてくれることを要求する。勿論俺はそんなことはできない。平行線が続いた。
「入江さん。佐藤葵は女性が担当した方がいいんじゃないですか? 男だと、彼女どうも父親と重ねちゃうみたいで」
たまりかねて、マキちゃんにそう相談してみた。
「それが、駄目なんですよ。あの子、母親を知らないから、女性職員だと敵意をむき出しにしてくるんです」
「そうですか……」
佐藤葵は俺がMSWになってから最大の難敵だった。第一、俺は恋人も長らくいないし、仲が良い女友達もいない。女性と接することに慣れていないのに、十五歳も年下の子を相手にさせられるんだ。手こずるはずだ。
「おとうちゃん」
「おとうちゃんじゃないよ」
「うそ、おとうちゃんの匂いがする」
まじかよ。加齢臭かよ。ショック……
「とりあえず、俺は君を担当させてもらう牧岡です」
「牧岡のおとうちゃん」
「……」
そういうやり取りが三週間も続いた。彼女は父親以外にも、大人の男達を受け入れていた。日に十人の相手をすることもあったようだ。しかも男をあてがっていたのが実の父親。娘の身体で荒稼ぎしていたようなやつは一生刑務所から出てくるな。