照明
「あ、あれにしよう。」
先輩が唐突に声を上げたのでそちらを見る。
彼の指さす先を見た僕はえっ、と拍子抜けしたのだが先輩の言う事には逆らえない。
正直言って、僕にはピンとこなかった。
ありきたり、というかなんというか。
今、僕と先輩は”家電量販店”にいる。
仕事で外回りをしていた帰りだったが、中途半端に時間が余ってしまった。
その時、先輩が最新の加湿器が見たい、と駄々をこねるので(本当はまっすぐ帰りたかったが)しぶしぶ同行したのである。
「・・あれにするんですか?」
「ああ、間違いない。俺のセンサーがそう言ってる。」
全く気乗りしない僕とは正反対に、先輩がウキウキした様子で俺を急かす。
・・・・・・・・・・・・・。
何だか納得がいかなかったが、促されるままに早速、声をかけにいく。
”すみませーん”
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「もちろん、今でも”はっきり”覚えてますよ。デビュー当時の事は。」
スポットライトの下、会場の熱視線に注がれる中でトロフィーを片手に彼女は華やかに微笑んだ。
インタビュアーが続ける。 「どんな感じでした?」
そうですねえ~、と彼女は一拍置いた後、またハキハキと質問に答え始めた。
「・・声をかけられて振り向いたら、まあ~見るからにやる気のなさそ~な男の人が立ってて。・・今のマネージャーなんですけど。」
映画祭授賞式の会場がどっと笑いに包まれた。格調高い場が一気にお茶の間のように和む。
今回、ある作品で大賞をとった主演女優でもある”彼女”は良い意味でふるまいが大物女優らしくなかった。
バラエティーに出しても数字が取れる軽妙なトーク力。しかもオープンな性格に反してスキャンダルもなく、本職である演技についてももちろん申し分なかった。
そのような人材は何人かいるにはいるが、著名な映画監督の何人かは彼女を”100年に1人の逸材”だと言わしめている。
「・・それで?」インタビュアーも笑いながら続きを促す。
「はい。しかたなく私に話しかけてきた感が強くて強くて・・まさかスカウトだったなんて全然思いもしなかったですね、当初は。」
「なぜ?」 みんなが興味津々、といった感じになった。
「あとから聞いた話なんですが、当時、一緒にいた先輩に声をかけるように頼まれたらしくて。当の本人は私の事は何っとも思ってなかったそうなんです。そんなん普通あります(笑)?」
「先輩には見えたのかもしれませんね。未来の大女優の姿が。」
インタビュアーはうんうん、とうなずく。
それに対して彼女も笑いながら応じる。
「ね、そうかも(笑)ただ・・これも同時に聞いた話なんですけどね。」
笑わないでくださいよ、と彼女は目をぱちぱちさせながらお茶目な表情で会場全体を見回す素振りをする。
「・・彼の先輩が言うには、街で私を見つけたときにまるでそこにだけ『照明』が当たっているように見えたそうなんです。ほんとかしら(笑)」
完




