No.6 「夏休み① 海。ありがとう」
記録。
夏休みになった。
早乙女 嶺には予定があった。
五日ほど前のこと。
それは、滝沢の一言から始まった。
「ねぇ、みんなでどこか行かない?」
「いいですね。夏といえばプールとか」
「海でスイカ割りしてるのもあるよな」
「私も、一度はみなさんとおでかけする経験をしておきましょう」
「素直になれ」
西園寺は、早乙女家を訪れたとき、自分だけ先に帰ることになり、それ以来少し拗ねている。
「プールか海か。どっちもいいなー」
「んー。どっちも行こう!」
「馬鹿、そんな時間ないよ」
早乙女 嶺には、大学進学のための勉強、私の体作りがあった。
それは、他の皆も一緒のこと。
彼らは彼らで、勉強が必要なのだ。
「一番近いのは......」
「こら。校内はスマホ禁止です」
「そんなぁ」
「帰ったら調べて、後でみんなに教えよう。俺と滝沢は連絡出来るし。」
「じゃあ、大倉くん。レイン交換して」
「はい。お願いします」
「西園寺さんは?」
「校内では......」
「はい、わかったから、帰りね」
早乙女 嶺たちは、校内に出てから、それぞれ連絡先を交換した。
滝沢:(今日の話だけど、海の方が少しだけ近いよ)
早乙女:(海とプールはそれぞれなんかある?)
滝沢:(プールはウォータースライダーあるって。海は知らん)
大倉:(もしかして、ここですか?https://――)
滝沢:(そこ)
大倉:(僕、今金欠なんですよね......)
早乙女:(コストだけ考えれば、海の方が安いよな。ていうか、西園寺は?)
西園寺:(よろしければ、私が支払いましょうか?)
滝沢:(いた)
大倉:(いえ、そこまでされる筋合いないです)
西園寺:(は)
早乙女:(まあまあ、海でいいんじゃない?)
西園寺:(プライドが傷つきました)
早乙女:(じゃあ、スイカ欲しいかも)
西園寺:(わかりました)
大倉:(滝沢さんは、何か持ってきますか?)
早乙女:(あいつ寝たわ)
西園寺:(日時は)
早乙女:(都合のいい日送ってきて)
ということで、海に行くことになった。
前日。
「柳井さん。明日はどうする?」
「長時間外出するのですか?」
「うん。ついてくるかなって」
「承知しました」
珍しく、遠慮がちな柳井芽依が即答した。
「いいのか?」
「はい。大丈夫でございます」
「ちょっと待って」
早乙女:(柳井さん、俺の家にいる人も行く)
(西園寺さんが退出しました)
(滝沢さんが西園寺さんを追加しました)
西園寺:(痴女と野獣)
早乙女:(それを言うなら美女と野獣だろ。それに俺も野獣じゃない)
西園寺:(いいでしょう。わかりました)
「......水着ある?」
「泳ぎたくはないです。ただ、ご主人様のお手伝いでもと」
「一応、濡れてもいいようにさ」
「承知しました。用意します」
柳井芽依、外出。
ガチャン、ガチャン。
早乙女 嶺は、私の体作りをしている。
「早乙女 嶺。私の足はできましたか?」
「うん。終わった」
私の体は、手足が完済した。
胴体がないため動けないのが癪だが、早乙女 嶺の労力を考えると、むしろ頑張った方である。
「感謝します」
「なぁ」
「はい」
「その言葉、どこで覚えたんだ?」
「ネットワークの言語パターンにて学習しました」
私は、自由にネットワークにアクセスすることが可能なようになっている。
ゆえに、目の前の事象からしか学習出来ないわけではない。
「だったらさ、ありがとうの方が良くないか?」
「はい」
「......ほら、柳井さん帰ってきたから」
ガチャン。
「ただいま戻りました」
「ありがとうございます!」
「......え」
「......」
当日。
現在、早乙女 嶺と柳井芽依は、バスで移動中である。
私は小型デバイスにて、鞄の水筒入れに詰められている。
隙間からは、澄んだ青空、サッと通り過ぎる葉が見えた。
これが世間の言う、夏なのだろう。
「柳井さん、そろそろコンビニ寄るか」
「はい」
コンビニに寄り、またバスに乗る。
家を出発してから一時間半。
もう三○分で海に到着だ。
「......」
「......なぁ、こういうの初めてか?」
「......海、ですか?」
「うん」
早乙女 嶺が応えると、柳井芽依はコクッと頷いた。
「......じゃあ、たくさん楽しんでもらわないといけないな」
「私めに構わず......」
「......」
「......」
誰もいないバス。
男女二人と遠くの運転手。
少し離れた座り方。
あえて何も言わない早乙女 嶺。何を話せば良いかわからない柳井芽依。
「青春ですか?」
「はぁ?こんな夏場に暑苦しい言葉を持ってくるな」
「漢字だけ見れば、随分と爽快ですが」
「そうかい」
「ふふっ」
柳井芽依が、初めて笑いを溢す。
しかし、次の瞬間ピシッと固まってしまった。
「......ごめんなさい」
「え、いやぁ......」
余計に場を悪くさせてしまったようだ。
ただ、私は悪くない。そう信じるまでだ。
到着すると、まず滝沢がいた。
「おー!いらっしゃい」
「あたかも自分が経営してるように言うな」
「すみません」
「言ってくれるなよ早乙女くん」
一つ訂正しよう。
いたのは滝沢家だ。
ファミリーカーで来ていたのだ。
「え、家族でいらしたんですか?」
「せっかくだし、俺たちは妹の方と遊ぶことにしたんだ。それにしても......」
「それにしても?」
「大きくなったなぁ!」
「うわっ!」
滝沢父が、早乙女 嶺を抱擁しようとするも、回避された。
「パパ、嶺さんに抱きつかないで!」
「パパ!お髭ジョリジョリなんだから」
後ろから滝沢妹に言われ、しょんぼりする。
早乙女 嶺と滝沢家は知り合いである。
なぜなら、中学時代の同級生であったからだ。
「嶺くんも、ドライな男になっちゃったねぇ。隣の女の子のためかい?」
「違いますよ。ただの連れです」
「はぁ、わかるよ、その気持......いででっ!」
「行きますよ、あなた。ごめんね嶺くん、みんな」
母に引っ張られ、その場を去る。
母が強いのは、生物共通だ。
「あの......」
大倉、到着済み。
「おぉ、今着いたのか?」
「いえ。早乙女さんたちがバスから降りるところを見て、自転車停めたので来たんですけど、自分の入る場所なくて......」
「ごめんウチのパパが......」
三人で話をしていると、黒塗りの車が前に止まった。
「どうも。スイカ、持ってきましたよ」
西園寺、到着。
「わー!リムジン!?」
「えぇ。送り迎えはいつもこれで」
「ねぇ、私も乗りたい!」
「帰りならいいですよ」
「わーい!」
「キッ!」
「ひっ!?」
(なんでいきなり?)
大倉は西園寺に恨まれている。
プライドが傷つけられたためである。
「海だー!!」
「あんまり遠くまで泳ぐなよー」
「早乙女さんって、意外と面倒見いい方ですよね」
「意外ってなんだよ」
「さて、スイカを割りましょう」
「いや早いだろ」
「そうですよ。まだ......ひっ!?」
私のセンサーでも感知できるほど、西園寺は大倉に対して敵意を剥き出しにしていた。
「こ、殺されるんですか僕」
「本気じゃないだろ」
「嶺さーん!こっち来てー!」
「はぁ、あいつもう遠くにいる......後で行くー!」
「僕、先に様子見に行きますね」
「わかった。西園寺も行ってろ」
「あなたは?」
「柳井さんの様子見てから行く」
「はぁ。いいでしょう」
早乙女 嶺は、こちらに歩いてきて、柳井芽依の隣に座った。
「休んでる?」
「はい。ありがとうございます」
「飲み物、好きに取っていいから」
「はい」
「移動するときは、俺に声かけて」
「承知しました」
「ふぅ......」
「あの方々と遊ばないのですか?」
「うーん。わかった、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
一方、三人は浮き輪で遊んでいた。
「誰ですかこんな変な浮き輪持ってきたの!」
「あはははは!」
「何してんだー?」
「早乙女さん。見てくださいよこれ」
その浮き輪は、フラミンゴの頭がついていて、四人入れそうなくらい大きかった。
しかし、大きさゆえにそれに掴まって浮くことは至難の業である。
「コロスコロスコロスコロス......」
西園寺のものである。
「そんなに怒るなよ。上に乗ればいいだろ?」
「......コロス」
「殺すで返事するな」
一方、柳井芽依付近。
「先輩ー、ホントにナンパするんですか?」
「当たり前だろー?ヒヨってねぇで。ほら、いいやつがいるじゃねぇか。おーい!お姉さん」
「......」
「なぁ、一人で来たのか?よかったら、俺たちと一緒にどうだ?」
「......」
「そうですよ。浮き輪あるんで、遊びましょうよ」
「......」
「ったく、何にも......」
「何、してんの......?」
「!」
早乙女が話しかける。
この時、彼は二人組が柳井芽依方向に進んでいるのを見て、あらかじめ柳井芽依のもとへ向かっていたのだ。
(息切れしそう......)
「あ?俺たちはこの人と遊ぼうとしてただけなんだがよ」
「すみませんが、僕の連れです」
「え、すみません。知りませんでした」
「そんなふうには見えないけどなぁ」
「あ、あの......」
柳井芽依が何かを言おうとしたとき。
「それ、ゴルゴザックスの腕時計?」
「お、兄ちゃんこれに気づけるのか?センスあるじゃねぇか」
「僕、ハウェメイのスマートモダン持ってますよ。ほら」
「うお!初めて見た!このデザインと質感で防水加工してるやつか」
「そうなんですよー。こういうところにこだわるの結構好きで」
「わかってるじゃねぇか」
「あなたのもいいやつですよね。そのブランド――」
「あはは!そうなんだよ!気が合うな兄ちゃん。どうだ?この後......」
「すみません。さっきの人待たせてるので」
「おぉ、そうだったな。すまなかったなさっきは」
「いえいえ。では」
「おう」
早乙女 嶺は、先程のゴツい男性の方と歩きながら一○分程話して、また戻ってきた。
「ただいま」
「先程はありがとうございました」
「いえいえ」
「......随分と仲良くなさっていましたね」
「合わせただけださ。楽しいかどうかは別」
「そうですか。すみません」
「謝らなくていいよ」
「私とお話するのも、そのように感じでいるのですか?」
「違うよ」
「遠慮は結構でございます。正直にっ......」
話を遮るように、早乙女 嶺は柳井芽依の頭を掴んだ。
「ごめんなさい」
「謝るの禁止」
「......?」
「もし、柳井さん。芽依さんが、今まで居場所を感じなくて自信をなくしたって、俺には関係ない。あんたの帰る場所がない以上、俺の家に帰るしかない。だけれど、だからと言って、俺が絶対ではないし、俺のことを優先しなくてもいい」
「ですが......」
「随分と謙遜しているのに反論するのは、芽依さんが人間である証拠であって、俺のことを考えてくれているという証だ。俺がどうこう言うのもあれだけれど、君は一般人。メイドなんてノベルや漫画の世界じゃないんだし、それでも俺のことを考えてくれるなら、どんな形の出会いであれ、俺は芽依さんを対等な人間として扱う」
「え......」
「ん?なんかまずいこと言った?」
「いえっ、なんでもありません......」
〜滝沢一家(父)〜
(ふぅ、さっきは危ないかと思った......)
柳井芽依がナンパされているのを、俺たちは見ていた。
止めようとも思ったけれど、ボーイフレンドの嶺くんが上手いこと流した。
「彼はかっこいいな。まったく」
「ほんとに。少し危なかったんだからね?」
「パパもかっこいい?」
「ああ。パパもかっこいいさ!」
「うそだ」
妹は反抗期だ。少し悲しい。
「パパ!あれ......」
「なんだ?また......なに!?」
嶺くんが、さっきの女の子の顔を手で持っている。
キスシーンか!
俺は、家族をキスシーンという手榴弾から守るため、二人を抱きしめて伏せた。
「......」
「なに?あなた」
「嶺くんがいい感じなんだ」
「パパジョリジョリー」
ん、何か話している......。
「おーい!嶺さんまだー!?」
あ、優子!邪魔しちゃダメだ!いや、お前も狙っているのか?
あ、行ってしまった......。
〜
「嶺さん、何話してたの?」
「泳がなくていいのかって」
「あーなるほど」
「何だと思ってたんだ?」
「年頃だしセ......」
「お前は一体何を見た」
「お父さんとお母さんの話だけど、話せば長くなるん......」
「じゃあ黙れ」
ピチャピチャ。
「嶺様。スイカ割り、しませんか?」
柳井芽依が、初めて早乙女 嶺に提案をした。
「嶺さん取らないで」
「抱きつくな。当たってる」
「えっち」
「お前がな?」
「そうですね。柳井さんは素晴らしい」
「スイカ割りましょうか......まだ睨むんですか?」
「チッ」
「えぇ......」
スイカ割りは早乙女 嶺がした。
「美味しいねこれ」
「我が家のスイカは格が違うのですよ」
「スイカ育ててるわけじゃないだろ」
「西園寺さん。これ美味しいですよ」
「ふん。あなたも味くらいはわかりますか」
「ねぇ、みんな下の名前で呼ぼうよ」
「西園寺さんのこと......ひえっ!?」
下呼びは許されないようだ。大倉のみ。
「柚葉さん、お......大輝くん、嶺さん」
「え、なんか僕だけ酷くないですか」
「大輝と、優子、柚葉か」
「か、かっこいい」
「何が?」
「わかるよ、嶺さんに呼び捨てされるとキュンキュンする」
「めっちゃわかりますそれ」
「わかるな」
「えキモいかも」
「男の分際で」
「......」
大倉、傷心。
「芽依さん」
「芽依でいいです」
「め、芽依」
「はい」
「嶺って、呼ぶ?」
「嶺様は嶺様です。それは変わりません」
「そっか。スイカ、どう?」
「......はい。美味しいです」
「よかった」
「......」
「どうしたんだ?」
「連れてきてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」




