No.3 「食事」
記録。
昨日、早乙女 嶺の父から刺客が来た。
朝、設定していた時間に起動すると、彼女は朝食を用意していた。
彼女の朝食は手のかかるもので、今の早乙女 嶺には大きく有益だった。
私は、彼女の今までの行動から、敵ではないと推定した。
しかし、今は行動を控えているだけで、後々から情報を漏らすかもしれない。
今日は、早乙女 嶺から彼女の監視と尋問を頼まれた。
「ねぇねぇ、昨日の人は何だったの?」
「間違いだった」
「そっかー」
早乙女 嶺は、滝沢に朝から話しかけられたが、朝は難なく過ごしたそうだ。
昼。
「嶺さん、ご飯食べよ」
「そうだな、食堂に移動......」
「ここでよくない?二人とも弁当だし」
「まぁ、味は変わらないけど、ここで食べる人なんていないし」
「だからこそだよ。誰もいないじゃん」
慶高高校には食堂があり、大半の人がそこで食事をとるのだ。
(こいつ、何が狙いだ?昨日のことを探りにきているな)
「でさ、昨日のことだけど」
(来た!)
「入れてみたんだ。卵焼き」
昨夜のことである。
ピロン。
滝沢からの通知。
(好きな食べ物なんですか?)
「好きな食べ物ー?無難なのは卵焼きとかか?」
「貴方は卵焼きを一ヶ月以上食しておりません」
「いいんだよ、何でも」
(卵焼きとかじゃね)
(じゃね!?)
(わかった。ありがとう)
「あぁ、そうなんだ。うまいよ」
「でね、食べてみて欲しいんだ」
「それ?」
「そう。作ってみた」
(こいつ、餌付けるつもりだな?そう上手くはいかないぜ。貰うけど)
「わかった。せっかくだし貰うよ」
「あーん」
「あーん?」
「おやおや、お二方は随分と仲睦まじいこと」
「あ、西園寺さん。一緒に食べよ」
「......では」
「狭いよ」
三人とも弁当だった。
早乙女 嶺はいつも自分でバランスを考えているが、今日は昨日の彼女のものだ。
滝沢は、母の弁当を毎日作ってもらっている。
西園寺はお手伝い、いわゆるメイドの弁当である。
「で、どうだったの?味は」
「......普通に美味い」
「そっかー、えへへ」
「私のも美味しいですよ」
「お腹いっぱいなるって」
「じゃあ私貰うー」
一方、その頃彼女は買い出しに行っていた。
彼女が帰ってきたのは二時のこと。
帰ってきたところで、私は彼女を作業室へ呼んだ。
「では、質問です。貴方のお名前は?」
「柳井芽依と申します。一七です」
「では、ここに来た目的は?」
「私に居場所はないので、ここで働かせてもらいにきました」
「わかりました。人物登録をしておきます。お手伝いということでよろしいですか?」
「はい。メイドでございます」
「早乙女 嶺の父とはどのような関係ですか?」
「柳井家に必要とされなかったとき、私の父を通して早乙女 嶺様のために雇われました。主人は早乙女 嶺様です」
危害が及びそうではない。
しかし、まだ隠している可能性がある。
「ここへ来た目的は?」
「先程申し上げた通りでございます」
「真の目的は」
「そのようなものはごさいません」
「人間とは、嘘をつくものです」
「えっ」
私は、作業が出来るようセットされていた自分の腕で、柳井芽依の両腕を拘束した。
「貴方が口を割るまで、私は離しません」
「私は......」
四時頃、早乙女 嶺が帰宅。
「おかえりなさい。彼女は拘束中です」
「はぁ?」
インターホンで伝えると、彼は作業室へ駆け込んできた。
「ぁ......ぅっ......」
「ちょっ、アルファ。人間の生理現象を学習。そして手を離せ」
「承知しました。......彼女は、一般的な人より五○パーセント我慢に弱いです」
「ごめ......なさっ」
「空気を読め。ほら、あんたも泣かないで」
柳井芽依は、情報を漏らさず下を漏らした。
「アルファ、リビングで待機」
「はい」
彼は、敷いてあったマットを持って、彼女を風呂場へ連れていった。
私は、リビングのデバイスへ移動した。
二人が水回りから戻ってきたのは、一時間後である。
「大丈夫だよ。大丈夫」
そう、彼は繰り返し彼女に言い聞かせた。
「アルファ。聞いてくれたのはよかったが、やりすぎだ。パイソン書き換えるぞ」
「防衛能力が低下します」
「そうか......じゃあ優しくするってことを教える」
彼は、優しくするということを私に教えた。
「人間の優しくするは、機械である私にも理解出来ますか?」
「簡単じゃないかもしれないけれど......人を傷つけないようにすればいいんだ」
「彼女は怪我をしておりません」
「見た目とか体の話じゃない。相手が嫌な思いをすることも、傷つけることになる」
「わかりました。心身共にストレスのかからないよう、限度を調節します」
「それと、人それぞれ強さだって違いがある。それを理解してやると、お前も人間に近づける」
「わかりました」
「あと、ごめんなさいだ」
「無理な拘束をしたことを、謝罪します」
「大丈夫か?」
「はい。先程は申し訳ございませんでした」
「そんな改まらなくていいよ。どうせあなたの方が歳上だ」
「彼女は一七歳です」
「え、一歳だけ?」
早乙女 嶺と柳井芽依の歳の差は、学年一つ違いだ。
「アルファ、黒なのか?」
「いえ、未だ不明です」
「......」
彼はおでこを押さえた。
「あの。私は必要なのですか?」
「はい?」
「この、ちっちゃい方もいらっしゃいますし」
「んー、大丈夫。朝ごはん、美味しかったよ」
彼は、どうしようもなく優しいのであった。
彼の脳内はこうである。
(くそがぁあ!あいつ、はめやがったな。くそ、俺が追い出せないの知ってて......!ああああああああ!!)
おこである。
休日、二人は寝具などの買い物をした。
つまり、柳井芽依との同居生活が始まるのだ。
別の日、生徒会室にて。
「皆さん、いつもどこで昼食べてるんですか?なかなか見つけられなくて」
同じクラスの三人は、あれからほとんど教室で食べていた。
大倉だけ仲間外れなのだ。
「あー......そうだね。明日はみんなで食堂で食べよっか」
早乙女 嶺から情報を狙っていた滝沢は、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「皆さんいつもどこで食べてたんですか?」
「端っこの方だよ」
「嘘だ。探してたんですからね」
「......三人で教室ぅ」
「やっぱり。そうですか......」
大倉はショックを受けた。
「別に、お前を仲間外れにするつもりはない」
「早乙女さん......」
「クラスが同じで、こいつがひっついてきただけだ」
「そうですね」
西園寺も同類である。
「こいつとはなんだこいつとはー」
「なんだ、安心しましたよ。てっきり嫌われてるんじゃないかと......」
「食べ終わった。ごち。嶺さんは?」
「俺も」
会話をしながらでも、二人は迅速に食べていた。
「こら。ごちそうさまと言いなさい」
「ごちそうさま」
「滝沢さんは?」
「ごちそう」
「......」
「......ごちそうさまでした」
早乙女 嶺と滝沢は、いつもの三倍の早さで食べ終わり、食堂を後にした。
「いつもはこんなに早くないのに、どうしたのでしょうか」
「やっぱり、僕嫌われてるんだ......」
二人は食堂を後にし、体育館へ向かった。
食後に運動をするのが、彼らのルーティンなのだ。
解放されているが誰もいない体育館で、二人はバスケットボールを一つ取った。
「ねぇ」
ガチャン。
「......なんだ」
ガチャン。
「今日ね、見つけちゃったんだ」
ガチャン。
「何を」
ガチャン。
「長い髪の毛」
滝沢の手が止まる。
「長い?一本だけ切れてなかったのかな。てか全然入らないし!」
「誤魔化さないでよ。君の弁当の包みに」
(ハッッ!!)
昼、滝沢は女性の髪の毛を見つけたのである。
それが、柳井芽依のものであることは、言うまでもない。
同居することになってから、柳井芽依は早乙女 嶺の弁当を作るようになった。
丁寧に包むとき、ポロッと入ってしまったことは、言うまでもない。
滝沢は、いつも早乙女 嶺の隣で食事をとる。
なので、隣で包みを広げるとき、発見してしまったのだ。
早乙女 嶺は焦った。
柳井芽依が家にいること、事情を知る者は誰もいない。
滝沢に変な話を生徒会でされるのも、彼にとっては毒以外の何でもないのだ。
一方、食堂。
「早乙女さんたち、どこ行ったんですかね」
「さぁ。あの二人はすぐどこかに行くので」
「あれ、西園寺さん、今何か拾いましたか?」
「......いえ?私たちも行きましょうか」
「そうですね」
(早乙女 嶺......)
西園寺は、早乙女が座っていた席から、あるものを拾った。
長い髪の毛である。
「......」
(私のものではないし、滝沢さんの癖もない。これは、別の女性のもの。髪の毛が他所から飛ぶような風はない。彼にもとから付着していたわけではない。包みを広げたとき、滝沢さんは一瞬だけれど、何かを凝視していた。......これのことなの)
西園寺はストーカーの素質があった。
(早乙女 嶺。まさか、同居している女性が?いえ、母親がいるのは当たり前。なぜ私は、彼の母のものという可能性を考えなかったの?)
それは、彼女の本能がすでに答えを出していた。
(早乙女 嶺と、髪質が微塵も似ていない。それに、まだ若々しい。まさか、血族以外の同年代で同居している女性がいるのでは?)
私から見ても、彼女は一般的ではなくキショイ。
(そして、早乙女 嶺はいつも自分で弁当を作っている。母がいるのにそれは異常。やはり......)
何かを確信してしまった。




