No.2 「二年生」
記録。
四月になり、早乙女 嶺は二年生になった。
クラスは、滝沢と西園寺と同じになったそうだ。
「あああああ......」
「これで逃げられませんね」
「やったーみんなと同じー。あ、大倉くん......」
私の両腕を完成させたとき、そう喚いていた。
一学期の生徒会は暇である。
修学旅行や体育祭などのイベントがないからだ。
修学旅行は九月。自由行動が多いため、スケジュールを組み立てるだけだった。
こういった期間、慶高高校の生徒会は、学力向上のため勉強会をする。
「ゲームー」
しかし、滝沢には通用しないのであった。
「ちょっと、勉強しないと成績落ちますよ?」
「余裕」
「私も」
この二人、校内のテストには興味がないのだ。
「か、かっこいい!」
「ほら、大倉さんも」
「僕は彼らについて行きます。学年一位と二位について行けば、きっと僕たちも......」
「そんなはずないでしょう?努力が大事です。才能があっても、努力しなければ落魄れますよ」
(滝沢、アレだ)
(アレ、ですね?)
「では、クイズにしましょう」
「問題は、四人順番で出す。いいな?」
「そうか。それならテスト勉強になるのか」
「......っ、ほんとに。一応勉強ですからね?」
(なぜ私は、この二人を誘ったのでしょうか)
西園寺は後悔していた。
「では、順番は嶺さん、西園寺さん、私、大倉さんで」
生徒会室には、一つホワイトボードがある。
早乙女 嶺は、問題を書き込んだ。
「火星で一番大きい火山は?」
テスト範囲外である。
「えっ、そんなのわかるわけ......」
「はい!オリンポス火山」
「はい正解。1ポイントね」
「さすが滝沢さん。早い」
「詳細も言えたら1ポイント追加」
「はい!ヒマラヤ山脈の三倍の高さ」
「んー正解」
このとき、大倉は微かなヒントを逃さず、脳内では出せる全てを出して思考が繰り広げられていた。
(ヒマラヤ山脈の三倍。高い山はエベレスト、約八キロ。ていうことは)
「高さ約ニ四キロ!」
「正解」
滝沢優子 2ポイント。
大倉大輝 1ポイント。
早乙女 嶺 0ポイント。
西園寺 柚葉 0ポイント。
(まずい、早乙女 嶺には負けられない)
(嶺さん、今回は勝ちますよ)
早乙女 嶺が勝手に敵対視されるのは、いつものことだ。
西園寺の番。
(テスト勉強になる問題にするべき。ここは......)
「テスト範囲の漢字を答えなさい。一○個で1ポイン......」
「不屈困窮審美眼言辞割愛勘弁十全――」
「待って、あどぅばどば――」
早乙女 嶺 7ポイント追加。
滝沢優子 3ポイント追加。
西園寺 0ポイント。
(まずい、このままだと私が負ける。もうこれ以上は負けられない)
「じゃあ私の番ねー」
西園寺絶体絶命の中、滝沢は容赦なく問題を出す。
「私の趣味はなん......」
「ピアノです」
「......」
滝沢でさえ思考停止する西園寺の答え。
「な、なんだ......?」
大倉が理解出来るはずもなく。
「正解......」
「トランプをするとき、床を指で叩いていたので」
早乙女 嶺との出会い、滝沢の癖を見逃さない観察力。
西園寺はストーカーの素質があるのだ。
「西園寺さん、3ポイント!」
「やった......!」
西園寺はガッツポーズを決めた。
大倉の番。
彼が出す問題は決まっていた。
「早乙女さんの名言と言えば?」
「なんだこのクソ問」
「はい!『さっきの人が話しているときに喋っていたやつ。出ていけ』」
「っ正解!」
「ぬぉおおぉっ!」
早乙女 嶺の立候補スピーチが、彼の黒歴史に刺さる。
「一人目のとき、うるさい人たちがいたんだけど、でも、あの第一声で完全に黙らせたんですよね。すごかった」
「はい!『俺にふさわしい女になってから誘え』」
「な、なんですかそれ!」
「西園寺さんからの誘いを断るときに言ってた」
「っ正解です!」
「西園寺、殺してくれ」
「あなたのために私の人生を台無しにしたくないので、嫌です」
早乙女 嶺 7ポイント。
滝沢 7ポイント。
西園寺 3ポイント。
大倉 1ポイント。
(くそっ、こいつらころしてやる)
「俺の好きなものは?」
「早乙女さんの好きなもの?知りたすぎる」
「えー、なんだろなぁ」
「風船」
「ころすぞ」
「幼女」
「もっところすぞ」
かつての西園寺との出会いを、早乙女 嶺は思い出した。
どちらも好きではない。
「はい!」
「はい滝沢」
「私」
「は?」
「まさか、滝沢さんとお付き合いを?」
「バカか。お前も真面目な顔で言うな。それを言うなら好きな人だろ」
「え......」
「そういう意味じゃない」
「なんだよもー」
彼は、高校の者たちに取っては未知数。シークレット男なのだ。
早乙女 の好きなものというのは、誰にも予想がつかないのである。
西園寺の脳内。
(早乙女 嶺の好きなもの......。普段からは予測しづらい。考えられるものとしては、普段から身近にあるもの。彼が学校に持ってくるものは教材、文房具。参考書が好きと言う変態ではないはず。ということは文房具。彼がいつも使っているものはシンプル。しかし、一つだけ異様なペンがずっと筆箱の中にある)
「......女物のペン?」
西園寺はストーカーの素質があった。
「は?キッショ」
「ズーン......」
わりとガチ目に言われた西園寺は、心にダメージを受けた。
「他は?」
「もしかして、機械とか好きですか?」
「理由は?」
「指先にオイルが残っているので」
「それが欲しかった。正解」
「えーそうなのー!?」
「半分って感じだけどな」
無論、機械が好きなのではなく、私が好きなのだ。
大倉 1ポイント追加。
「次、西園寺さーん」
「......では、私が頑張って欲しいと思っている人は?」
西園寺の逆襲。
(嶺さーん!)
(黙れ!こいつ、仕掛けにきている)
(それはどういう?)
(俺を逃げさせないよう、何かしら宣言させて縛るつもりだ)
(でも、これ終わらないよ?女の勘。がんばりまーすくらい言いなよ)
「......っ、頑張るから」
「はい!期待しています!もとより、あなただけに背負わせるつもりはありません。私は前回も生徒会にいましたので、その経験を活かし、あなたを副会長という立場から支えさせて――」
司会者滝沢により、西園寺−1ポイント。
早乙女 嶺 1ポイント追加。
「はい!私の好きな色は?」
「ピンク、と見せかけて黒」
「正解ー」
「僕の部屋にある乗り物のポスターは?」
「車だな」
「正解です!」
早乙女 嶺 2ポイント追加。
「結果発表ー!」
結果。
早乙女 嶺 10ポイント。
滝沢優子 7ポイント。
大倉大輝 2ポイント。
西園寺 柚葉 2ポイント。
「嶺さんの勝ちー」
「また......私の負け」
「まぁまぁ、僕と同点ですから」
(だからこそよ......!)
とは言わなかった。
「もう。帰宅時間になってしまったじゃないですか」
「そだねー帰ろう」
「俺も用事がある。先帰るぞ」
「待ってください。あなた、すぐ帰ろうとしますが、帰って何をしているんですか?」
無論、私に会いたいのだ。
「気になります。教えてください」
「そんなに知りたい?」
「はい」
「好きなの?」
「へ?」
「え、西園寺さん!?」
「さすが、早乙女さんモテ......」
「うぅ......」
大倉は殴られた。
「やってくれましたね、早乙女......嶺?」
西園寺が振り返ったとき、早乙女 嶺の姿はどこにもなかった。
早乙女 嶺は逃げ出した。
「はぁっ、足速くない?」
滝沢もついてきた。
「今日家まで行きまーす」
「はぁ?ついてこれたらな」
彼は、反対側の門から出て、大きめな公園を一周し、そしてとうとう最後の一直線まで来た。
「ねぇ、気になるんだけど」
彼女もである。
「なんで」
「もっと知りたい。一年の頃はそこまで話してないし」
「十分話した」
「もっと」
早乙女 嶺は、私に助けを求めようと考えた。
しかし、先客がいた。
一○分前のこと
私がインターホンのカメラにアクセスして通行人を観察していると、キャリーケースを持った女性が家の前まで来て、インターホンを鳴らした。
「あ......」
「禁則事項です」
「......あ」
「すみません、よくわかりません。すみません、よくわかりません。すみません――」
キャリーケースを持ってくる不審者。
なるべく干渉せずにお引き取り願った。
そこに、ちょうど彼が来たのである。
「アルファ!」
「はい」
ドドドドド......。
通り過ぎた。
「......」
「なんですか今日は。あなたもそう思いますよね?」
「......」
「最悪な一日として記録しておきます。......すみません、よく分かりません。すみません......」
「待って、誰か来てるから」
「じゃあレインでいいから好きな食べ物教えてよ?」
「わかったよ」
早乙女 嶺は滝沢を帰らせ、また戻ってきた。
「で、何の用ですか」
息を切らしながら彼が質問すると、その女性は手紙を渡した。
内容はこうだ。
「嶺、元気してるか。帰ってこないのはいい。きっとお前は、一人でなんでも出来ているだろう。だが、受験生である以上、一人でやっていくのにも限界がある。だから、お前の手の行き届かないところを、この人にサポートしてもらえ。家もあるだろう。だから、住んでもらう。お金は持たせてある。住むことが給料だが、それだと可哀想だから、そこからお小遣いをあげてくれ。追い払いたいのなら追い払えばいいが、この人には帰る家がない。よろしく頼む。早乙女 純」
「帰れません?」
早乙女 嶺は、彼女のことを警戒していた。
帰れ、と言われたのに、彼女は微笑んでいた。
「じゃあ、父さんのところに帰ってください。申し訳ないけど、よろしく」
彼は、そう言って帰ろうとした。
「待って......」
「あぁん?」
「捨てないで、お願い!なんでもしますから......!」
先程まで、朗らかに微笑していた彼女だが、急に取り乱した。
彼女は崩れ落ちるように跪き、彼にしがみついた。
「回避行動を推奨します」
「......っ、今日は泊まってけ。明日は知らん」
彼は、一日だけ泊めて、次の日に返すことにした。
彼女に夕食を与え、風呂に入らせ、ベッドで寝かせた。
私は監視を頼まれていた。
彼女は食器を洗った。勝手に部屋は掃除しなかった。
最低限のことは出来るらしい。
ちなみに、ベッドは一つしかないので、彼は作業部屋にいる。
「どうしますか?引越し手続きを......」
「いや、バレても来ないってことはそういうことだ。いい感じに様子を見る他ない。帰すのもあまり良くないかもしれない」
「情報を取りにきた可能性は?」
「そんな変なことしないだろう。まあ、親切は受け取ろう。明日、あの人に聞いておいて」
「承りました」




