No.1 「第一回生徒会」
記録。
早乙女 嶺は、生徒会長となった。
「あああああああ......」
「何をそんなに絶望しているんですか」
「西園寺さん、そんなに私たちに入って欲しかったんですか?」
「ええ。今の慶高には、あなたたちが必要です」
「えへへへ」
「どうしてだ......」
「めそめそしてないで、早く生徒会室に行きますよ」
四月になれば、新しく一年生が入ってくる。
学年が上がると同時に、大きなイベントがあった。
さっそく、彼らは仕事をしなければならなかった。
「失礼します」
「わお、なかなかにオシャレですねー」
慶高高校は、偏差値69のいわゆるお金持ち高校だ。
早乙女 嶺と滝沢優子は、その高校の特待生。
「帰らせてくれっ」
「あははは、広ーい」
にはふさわしくない発言だ。
ドーン!
扉が勢いよく開けられる。
「すみません!遅れました!」
「え、いえ、皆今ちょうど来たところです」
「えっ」
「四時からですよ?」
「あ、へ?でも先生が」
突如現れた彼は、担任の先生から騙されていたのであった。
「全員揃ったことですし、始業式の準備をしましょう」
「待って待って。みんな名前教えようよ。ねぇねぇ」
「俺を見るな」
それぞれ、自己紹介が始まった。
「あ、はい。僕は会計の大倉大輝。生徒会は初めてです」
「私は滝沢優子。よろしくー」
「私は西園寺 柚葉。今回は、副会長を務めさせていただきます。こちらが......」
「早乙女 嶺だ。これは事故だ」
「あなたが早乙女さん。僕、同じ立候補者ながら感動しました。他者を圧倒するスピーチ。あの余裕。そして『もし選ばれたとして、尽力しても望む結果でなかった場合、私は生徒会へ立候補する権限を永久に放棄します』。あの覚悟。本当にすごい方なんですね。それに成績は学年トップ。すごすぎる」
「でしょう?彼こそ、生徒会長にふさわしい者です」
「なんでお前がそんな自慢げなんだよ」
「ではさっそく......」
滝沢が、自身の鞄から何かを取り出す。
「ゲームー」
滝沢は腕を上に伸ばし、カード掲げた。
「へ?滝沢......さん?」
「面白そうですね。やりましょう」
「君がナンバーワンだ」
第一回生徒会。カードゲーム。
「ルールは簡単なババ抜きです!ジョーカーを最後に持っていた人の負け。順番は、嶺さん、大倉くん、私、西園寺さんの順番です。じゃあ配りますね」
滝沢が、四人分カードを配る。
このとき、滝沢は不正をしていた。
早乙女 嶺との衝突を避けるべく、隣り合わせにならないよう先に順番を決定。
早乙女 嶺にジョーカーが渡れば、間違いなく西園寺を騙す。
そうなれば、滝沢はジョーカーを引くリスクが高くなる。
IQ135の滝沢が導き出した答えは、大倉にジョーカーを持たせること。
そして、それは早乙女 嶺を信用してのこと。
大倉を負け役に仕込んだババ抜きが今、始まる。
「では、会長からどうぞ」
「えい」
早乙女 嶺のカードが2枚減る。
「失礼します」
大倉のカードは1枚増えた。
「どれにしようなー」
滝沢のカードが2枚減った。
「これにします」
西園寺のカードは1枚増えた。
ここでも、滝沢による不正がされていた。
緻密な計算により、西園寺と大倉は自分の持っているカードを引きずらいようにしてあるのだ。
逆に、早乙女 嶺と滝沢はお互いにカードを引けないものの、最初からほとんど揃っている。
減っているのは、二人の運の強さだ。
早乙女 嶺の番。
彼が大倉のカードを引くと、大倉の顔は少し口角が上がった。
西園寺、滝沢は、その一瞬の綻びも見逃さなかった。
(早乙女 嶺にジョーカーが渡った可能性が高い......。引くのは私。集中しなくては)
(嶺さんがジョーカーを抜くのは想定外。だがしかし。こうなった場合、すぐに西園寺さんにジョーカーが渡る。西園寺さんの実力はまだ不明だ。強かれ弱かれ、保険の大倉くんがいる......)
早乙女 嶺は、自身の持ち手をシャッフルした。
これにより、取ったジョーカーを特定出来なくなる。
しかし、西園寺はジョーカーを引かなかった。
西園寺のカードが2枚減る。
そして、一周し早乙女 嶺がまたカードを取る。
早乙女 嶺のカードが1枚増えた。
早乙女 嶺は、シャッフルしなかった。
(揃わなかった。ということは、あれは私の欲しいカードである可能性が高い)
西園寺は、彼が大倉から取ったカード見張り、自分のターンのときにそのカードを抜いた。
しかし、これは大倉の招いた勘違いである。
大倉がニヤけたとき、早乙女 嶺はジョーカーを引いていなかった。
(あの早乙女 嶺が、カードをひそひそと抜いている。面白い......)
そして、今回はジョーカーを抜かれたからこそ、顔に出さないようにしていた。
(!?なぜ、このカードがジョーカー?先程抜かれていたのでは?私は目を離さなかった。間違いなく、これは今抜かれたカードだ。早乙女 嶺、何を......)
西園寺の動揺から、滝沢は異変を感知した。
(西園寺さんのあの動揺。ジョーカーを引いたんだ。でも、あれは大倉くんがニヤけていたカードじゃない。間違いなく、さっき引いたカードだ)
戦犯は大倉である。
(嶺さん、何したの?)
(いい。集中しろ)
(ま か せ ろ)
そしてこの二人、互いの目を見てコンタクトを取っている。
完全に協力体制。
西園寺と大倉のどちらかが敗北する。
はずだった。
(え、なんで......)
滝沢は、西園寺が新しく入れたところとは別のカードを抜いた。
しかし、滝沢はジョーカーを引いた。
西園寺は、隙をついてジョーカーの位置を変えていたのだ。
西園寺も一筋縄ではいかない。
しばらくして、早乙女 嶺が抜け、大倉も抜けた。
残るは西園寺と滝沢である。
(さっきから、全部ジョーカーの隣。私の目をしっかり見て......もしかして、私の目に映っているのを見て?)
西園寺は、目を閉じた。
(......表情がつかめない)
滝沢は、目に映るカードを見ていたのではなく、西園寺の表情からジョーカーを割り出していた。
目を閉じたことで、彼女は西園寺の探りがわからなくなり、反応をしなくなった。
ゆえに、どれがジョーカーか判断が出来なくなった。
しかし、西園寺には誤算があった。
今の彼女は、滝沢の行動が見えていない。
つまり、移動しなければ不正はバレない。
早乙女 嶺は大倉に、目を動かして「こいつのを見ろ」と指示した。
「僕、水筒取りに行きますね」
大倉は西園寺にバレないよう、さりげなく水筒を取りに行き、滝沢に取るべき方を水筒の向きで教えた。
「......お前の負けだ」
「な、なぜ......」
実は、早乙女 嶺は滝沢の不正に最初から気付いていた。
大倉を陥れる作戦を、狙いを西園寺にし、ジョーカーを移動させた。
そして、負けが西園寺になるよう、大倉の要らないであろうカードを抜き、信用のある滝沢をぶつけたのである。
滝沢によってコントロールされていたと思われたババ抜きは、全て最初から早乙女 嶺の掌の上たったのだ。
「西園寺の名が泣きます。もう一回」
「負けず嫌いー」
「まだ一五分しか経っていない。もう一回やろう」
「はい、会長」
「ニ......連敗?」
学校屈指の天才である滝沢と早乙女 嶺のタッグに敵うはずもなく、西園寺は二連敗した。
滝沢優子は勉強、音楽共に優れているお嬢様。
早乙女 嶺の頭脳は天文学的な数値、ユークリッド空間である。
「あ、もう時間ですね。帰りますか?」
「あぁ、そうしよう。滝沢、片付け手伝う」
「あーい」
「ちょっと待ってください」
西園寺が全員の手を止める。
少しだけ開けていた窓から、微かに冷たい空気が部屋に入り、全員の頬を撫でた。
「順番を決めたのは、滝沢さんですよね」
「は、はい」
「そして、隣でもないカードを引くわけでもない早乙女 嶺のことをずっと見ていた」
「な、なに」
「早乙女 嶺との衝突を避けるべく、先に順番を決定。そして、ずっとゲーム中にもコンタクトを取っていた」
「ギクッ」
「そして、最初のゲームでは大倉さんが移動したときに当たりを引いた」
「......」
「......やりましたね?」
「......違う」
「嘘が顔に出ていますね」
しっかりバレた。
「よし。もう帰ろう」
「そうだね......」
「皆さん、帰りはどちらですか?ご一緒しても......」
「いいよー」
「待ちなさい。仕事は」
「仲良くするのが仕事。以上!帰宅ー」
「こらっ、早乙女 嶺!」
※良い子は廊下を走らないことを推奨します。
「......早乙女さん。行ってしまいましたね」
「そうだね。私たちも帰ろうか」
「あ、聞きたかったんですけど、もしかして早乙女さんと同じクラスですか?」
「うん。そうだよ」
「トランプしてたときも、仲が良さそうだったので」
「そう見えたなら嬉しいな」
「明日!明日やる!」
「嘘おっしゃい!」
「本当に!」
早乙女 嶺と西園寺は、校門まで走った。
「で、逃げて来たのですか」
「仕方ないだろう?君の腕を作るんだからさ」
「同じ年齢の異性より私を選んだこと、感謝します」
「ふっ、ありがとう」
「なぜ貴方が感謝するのですか?」
「感謝してくれたから」
「すみません。よくわかりません」
「で、最初は頭でもよかったんだけど、いろいろ繊細なパーツが多くて。胴体もパーツは大きいけれど関節が多いから、先に練習がてら腕にする」
「お手伝いする事はありますか?」
「ないかな。あ、メッセージへのアクセスを許可するから、今度の食事断っておいて」
「承りました」




