表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

男女の友情は成立するかで揉めてたらおっぱい揉んでた


 ――月曜日。


 ほんのり塩素の匂いが漂う部室で、向かい合って座る。


「あーあ、なんで練習がない日にこんなとこ来なきゃいけないんだか」


「仕方ないだろ。練習計画を立てるのは部長のやらなきゃいけない仕事だ」


「……不正解」


「は? どういう意味だよ」


「正論が必ずしも正解じゃないってこと。いい加減お勉強以外のことも覚えなよカタブツ」


「カタブツだと⁉ 俺はカタブツじゃない……堂島だ!!!」


「名前間違えたんじゃないからアホ!」


「テメェの方がアホだろうが!」


「「ぐぬぬぬぬぬぬ……ふんっ!」」


 睨み合い、やがて視線をそらす。


 正面に座る赤髪の女――赤星とはいつもこうだ。

 中学から些細なことで喧嘩して、同じ水泳部ということもあってその頻度は思春期時の親より多く。


 しまいには高校も同じで、さらには男子部長と女子部長になったもんだから、未だに喧嘩は頻発している。


「……はぁ、そんなんだから彼女がずっといないんだよ」


「お互い様だ」


「あ?」


「あ?」


 ダメだ、やっぱりすぐにカッとなってしまう。

 ……どうしても、赤星にだけは。


「そういえば、あかねちゃんと高山くん付き合ったらしいよ」


「へぇ、あの二人が」


「やっぱり、男女の友情は成立しないんだ」


 赤星が頬杖をつく。


「いやいや、成立するだろ。あの二人は昔から幼馴染で、友情って言うにはちょっと特殊だ」


「はぁ? それでも友達は友達じゃん」


「友達っつーか幼馴染だ。話聞いてんのか?」


「聞いてますけど。というか、聞いてあげてますけど!」


 赤星が不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ってか、堂島は成立すると思ってんの? 男女の友情……とか」


「当たり前だろ」


「……フッ」


「なんだその人を馬鹿にすることに特化した息の吐き方は」


「だってそうでしょ? カタブツの堂島が男女の友情に幻想抱いてるとか、めっちゃウケるし」


「ウケねぇからカタブツじゃねぇから」


 昔からこいつ、俺のこと面白くないだのカタブツだの言いやがるんだよな。

 どこかカタブツなんだ。ちょっと頭が硬いだけだろ。物理的に。


「そういう赤星はどうなんだよ」


「成立するわけないじゃん。男女だよ? 一歩踏み込んじゃえば崩れるような脆いもんでしょ」


「へぇ、よく知ってるな? 生まれてこの方、誰一人として付き合ったことがない、そういう経験もないお前がなぁ?」


「っ! そ、そういう堂島こそないでしょ⁉ ってか女子と話すらマトモにできないくせに、成立するとか断言しちゃうの笑えるんだけど。どういう冗談なわけ?wジョークすら面白くないんだけど!」


「くっ……だ、だから! 成立するって言ってんだろ⁉ これは間違いないんだよ! 学校にもいんだろ⁉ 仲いい男女が!」


「どうせすぐ付き合うか、どっちかが告白して気まずくなるから! そういうもんなの男女の関係って!」


「なわけねぇだろ! 男女の友情は成立する! 間違いない!」


「はぁ⁉ 根拠ないくせに何マジに言っちゃってるわけ⁉ 成立しないから! ほんとに! マジで!!!」


 狭い部室に、俺たちの言い争う声が響き渡る。


 だんだん声に熱が入っていって、暑くもなってきた。

 でも、絶対に退くわけにはいかない。退くわけにいかないのだ。


「それはお前が世の中を知らないだけだ! なんも知らないくせに、知ったような口利くんじゃねぇ!」


「っ! 堂島もしんないでしょ⁉ 常識もあわせて!」


「常識ないのはテメェだアホ!」


「アホっ……!」


 顔をどんどん赤くさせる赤星。

 

 俺は知っている。

 コイツの怒りのボルテージがマックスになったとき、こうして顔が真っ赤になることを。


「色んな男女の関係を見て、学んでから出直してくるんだな世間知らず少女漫画脳女(笑)」


「っ! この……!!!」


 バン! と机を叩き、赤星が立ち上がる。



「じゃあ、これでも男女の友情は成立するって言えるわけ⁉」



 赤星が俺の腕を強引に取り、引き寄せる。

 その直後、確かにあの効果音が聞こえた。






 ――ぽいんっ。






「ッ⁉⁉⁉⁉」


 手のひらに感じる、柔らかな感触。

 想像していた通り小ぶりだが、間違いなくアレだった。


 そう――おっぱいだ。


「ななななななななにして……!!!!」


 赤星が俺の手を無理やり自分の胸にあてている。

 そして俺は、赤星の胸をがっしりと掴んでいた。


 もちろん、胸を触るなんて初めてのことである。

 つまり、脳が激しく揺れていた。


「……こ、これでもまだ言えるわけ?」


 赤星が顔を真っ赤にして、口先を尖らせながら呟く。


(赤星の小さな胸……でも、今は半端なく大きく感じる……じゃないじゃない!)


 無意識のうちに、視線だけじゃなくて思考すら胸に持っていかれていた。

 これが真の万乳引力か……。


「あ、あたしの胸ばっか見て……成立してないじゃん」


「っ! …………別に」


「は、はぁ?」


「……見てないし、今の状況でも成立してるって言えるし」


「な、何言ってんの? ……あたしの胸触って興奮してるくせに」


「し、してねぇわ! こんなちっさい胸で!」


「ッ!!!! この……!」


 怒りに震える赤星。



「こ、これでもまだ言えるわけ⁉」



「っ⁉」


 赤星がまたしても強引に、もう片方の腕を胸に押し当ててくる。

 

 両手で赤星の胸を揉んでいる状況。

 いや、揉まされているという状況。


(な、なんだこれは……柔らかすぎる……!!!)


 体が石になったみたいに硬直して動かない。

 って、何胸に意識持ってかれてんだ俺は! バカか! マジでバカか!!!


「ど、どうよ」


「どうってなんだよ……アホ」


「アホじゃないし! わ、私の胸両手で触って興奮してる方がアホでしょうが!」


「興奮してねぇから!」


 断じて? 別に? してないし?

 いや、ほんとにしてない。というか、するわけにいかない。


「早く認めたら? 体は正直みたいだけど?」


「……別に」


「っ! 私の胸触っといて別になわけないでしょ!」


「……しょ、所詮赤星だし」


「はぁ⁉ つ、強がんのもいい加減にしたら?」


「強がってねぇし」


「強がってるから!」


「強がってねぇから!」


 ありふれた部室で、胸を両手で揉まし、揉まされの男女が二人、言い争っている。

 きっと人類史を振り返っても、このような場面はなかったと思う。

 

 初出しに違いない。


「くっ……」


「…………」


 お互いに顔をそらし、事態は硬直する。


(は、早く認めろ……引くに引けないでしょ……)


(は、早く諦めろ……認めたらただのエロい奴になるだろうが……)


 それに、俺はどうしても男女の友情は成立すると主張しなければいけない。

 特に、赤星に対しては……。


 お互いに出方を伺い、意味が分からない状況のまま沈黙が流れ。


 そして――





「なぁ、知ってる? 最近黒瀬と太一付き合ったらしいよ?」

「マジかよ! まぁお似合いだったしなー」






「「ッ!!!!!!!!」」


 部室の前を通る足音と話し声。

 

 この状況を見られたらマズい、と思い慌てて動き出す。

 しかし、赤星も同時に動き出したがために、さらなる混乱を生み。


「きゃっ」

「うわっ」


 体勢を崩す赤星を咄嗟に庇おうと机に身を乗り出す。

 その結果、ガシャン! と大きな音を立てて、二つの椅子ごと倒れ。


「「っ⁉」」


 地面に倒れ、赤星に覆いかぶさるような体勢になる俺。

 顔が近づき、くっつく寸前だった。


「なっ……」


 至近距離で目が合う。

 

 赤星は顔を真っ赤にさせ、瞳をうるうるとさせていて。

 意識せざるを得ない。

 さっきまで胸を両手で触っていたわけだし。ほんとに。


「か、顔あっっか」


「そ、それはお前もだろ……」


「何それ。い、意識してんじゃん……あたしのこと」


「それは……」


 言い訳が思いつかない。

 この状況で誰が頭をフルに回転させられるというのか。


「……ねぇ、堂島」


「な、なんだよ」


 赤星が妙にしおらしく訊ねてくる。



「男女の友情が成立するんじゃなくて……私のこと、女として見れないってこと?」



 弱々しく吐き出された赤星の本音。


「――それはねぇよ!!!」


 思わず、俺も本音で返していた。


 だって赤星が、今にも泣きそうな顔をしていたから。

 コイツにそんな顔はさせたくない。


「俺はお前のこと…………女として見てるに決まってるだろうが……」


「っ! 堂島……」


 ここまで言ってしまったら、全部言うしかない。


「……でもお前、中学のとき言ってただろ? 俺とのこと同級生の奴にからかわれたとき、ただ部活が一緒なだけの奴だって。だから俺は、お前の気持ちを尊重して、成立するって思って、ずっと……」


「……なにそれ。カタブツのくせに女々しい」


「う、うっさいなぁ」


 確かに、赤星の言う通り俺は女々しい。

 

「……バレバレだし」


「はぁ?」


「あたしの胸揉んで、めちゃくちゃ動揺してたじゃん」


「してねぇから! だ、誰がお前の小さな胸で……」


「こ、これから成長するし! ってか、小さいって言うならはぁはぁ言って興奮しないでくんない⁉」


「興奮してねぇって言ってんだろアホ!」


「アホは堂島だアホ!」


「このヤロォ……」


「――でも」


 唐突に、赤星が俺の頬に両手を添え、顔を近づけた。







 ――ちゅっ。







 音がして少し経って、唇に柔らかい感触を感じる。


「っ⁉」


 やがて赤星が唇を離すと、そっぽを向いて心底恥ずかしそうに言うのだった。



「男女の友情は成立するって、まだ言える?」



「…………どうだろうな」


「なっ……! アンタまだそんなこと言って……!」


「――ただ」


 赤星の言葉を遮り、じっと目を見る。


「……ただ、俺と赤星の間では……成立しない、かもな……」


 そう言って、今度はこっちから顔を寄せた。


 ほんと、コイツはどこまでもムカつく奴だ。


 …………ほんとうに。



 おしまい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ