保育士たちの洗礼
園児たちとの泥だらけ戦争をなんとか切り抜けた魔王マオ。
まだ体中に砂や紙吹雪が絡みついたまま、昼食の時間に差し掛かろうとしていた。
そのとき、保育園の“恐怖の指導者”とも言える存在が現れる――
「園長、そこのマオさん。今の遊び時間、何を考えていたんですか?」
登場したのは、明るく元気だが恐ろしくしっかり者の保育士サクラ。
そして、もう一人の常識人保育士ケンジ。彼は眉をひそめて魔王を見つめる。
「魔王……園長……?」
マオはまだ泥だらけの姿で答える。
「その通りだ……私はここに……園児を統べるために……」
ケンジが眉をひそめる。
「統べる……じゃなくて、育てるんです!園長!!」
マオは一瞬、戦慄する。
“育てる”? 魔王としては未知の領域。
魔力を使えば一瞬で“成長”させられそうだが、それは絶対に禁止事項らしい。
「そして園児たちを叱るときは、恐怖ではなく愛で……」
サクラの言葉に、マオの脳内はフリーズ。
愛……? 恐怖で支配することしか考えてこなかった魔王には理解不能。
「……愛……か……」
魔王がつぶやくと、園児たちがこちらを見てにこっと笑う。
「園長、大丈夫だよ!怖くないもん!」
その瞬間、魔王の心の中で何かがカチリと音を立てた。
“支配”ではなく、“共感”や“笑顔”という新しい魔法が必要なのだと悟る瞬間だった。
サクラとケンジはさらに魔王を教育する。
「園長、給食の準備は園児たちと一緒にやるんです!」
「園児が泣いたらまず話を聞く。叱るのは最後の手段!」
マオは戸惑いながらも、園児たちと給食を配ることに挑戦。
スプーンを持つ手はぎこちなく、園児たちの食欲に圧倒される。
「……この生物たち……恐るべき成長速度……!」
心の中で小さくつぶやくマオ。
午後には、園児たちの遊びのトラブルに巻き込まれ、サクラに鋭いツッコミを浴びる。
「園長、そこの積み木、危ないですよ!」
「園長、紙吹雪は片付けてください!」
魔王は手に魔力を込め、つい暴走しそうになるも、サクラの鋭い視線で思いとどまる。
「……恐ろしい……この人間は……私よりも恐ろしい……」
魔王は思わず膝を折りそうになるが、園児たちはそんなマオの様子を見てさらに笑う。
こうして、魔王マオは初めて、保育士たちの鉄のルールに叩きのめされつつも、少しずつ適応していくことになる。
世界征服の邪悪な力ではなく、笑顔と忍耐力で園児たちを導く新たな戦場――
魔王の“ゆるふわ保育園経営日記”は、まだ始まったばかりだった。




