転生したら保育園の園長だった
灰色の霧に包まれた暗黒の玉座――
「我が名は魔王マオ!全世界を恐怖に陥れる絶対の支配者――」
その威厳あふれる宣言が、光の眩しさで一瞬にしてかき消された。
目を開けると、そこは――なんだこの空間は!?
カラフルなマットが敷かれ、壁には虹色の飾りがぶら下がり、窓からは太陽の光がさんさんと差し込む。
床には小さな靴が散乱し、紙吹雪の残骸が舞っている。
そして、目の前には小さな人間たちが、全力で走り回っていた。
「……ここは……支配すべき世界では……?」
マオは立ち上がるが、手元には剣も魔法書もなく、代わりに胸元には「園長」と書かれた名札が揺れている。
「園長……?」
まだ夢か幻かと思っていると、床のマットから小さな声が響いた。
「園長さーん!早く来てー!」
振り返ると、3歳くらいの小さな女の子が、にこにこ笑いながら手を振っていた。
手には泥だんご。え、戦闘用かと思ったら――ただの遊びか。
「……人間どもを支配するのではなかったのか……?」
マオの心の中の宣言は、無邪気な園児たちの笑顔で瞬時に粉砕された。
園児たちはマオの黒いマントや赤い瞳にまったく怯まず、むしろ「おもしろいオモチャ」と思ったらしい勢いで駆け回る。
積み木を投げ、紙吹雪をかけ、時には床に転がって大笑い。
魔王にとってはこれが新しい“戦場”だった。
「耐える……しかないのか……」
唇を噛みしめ、マオは深く息を吸った。
そこへ、颯爽と一人の大人――保育士サクラが登場。
「園長、おはようございます!今日も元気な園児たちが待ってますよ!」
笑顔の裏に戦場司令官のような気迫を宿すサクラに、マオは思わず固まる。
「……園長、か」
マオは名札を指でなぞる。
「……世界征服より、こ、これか……?」
園児たちは次々にマオに絡み、砂場で泥をぶつけ、絵本を抱えて走り回る。
一瞬でも手加減を怠ると、泥まみれになりそうだ。
魔王の威厳も、ここでは紙屑のように軽い。
しかし、魔王はすぐに気づく――
この小さな戦場には“魔力”が最も重要ではない。
笑顔、忍耐力、そして絶妙なタイミングのユーモアこそが、ここでの最強の武器なのだ、と。
「……よかろう……この園児ども……覚悟せよ……」
魔王の声は低く響くが、園児たちは笑顔で「やったー!」と応える。
その瞬間、マオは悟る――
転生前の世界征服よりも、転生後の“笑顔守護”の方がずっと大変で、ずっと楽しいのだと。
こうして、最凶の魔王マオの保育園生活が始まった。
世界を恐怖で支配する日々から、泥だんごと紙吹雪の戦場へ――
その戦いは、魔王自身が想像する以上にハチャメチャで、予想不能で、そして爆笑の連続だった。




