第7話 おいしいものを食べます!③
あれから数日、今日は“食べ歩き”に挑戦してみることにした。
数週間前の私なら、「下品」と眉をひそめていたかもしれない。
でも今は、すれ違う人たちが幸せそうに何かを頬張っているのを見るたび、自然と興味が湧いてしまう。
商店街を歩くと、揚げたてのコロッケ、湯気の立つ肉まん、甘いたいやき、ジュワッと音のする焼き鳥……
最初に目をつけたのは、たこ焼き。
「すみません、これ一つください」
受け取ったパックの上では、かつお節が舞っている。
ひとくち。
熱い。とろっとしてて、ソースが濃厚。外は香ばしくて、中はとろける。
「……っ、おいし……!」
周りに人がいたから声を抑えたけれど、思わず目を細めてしまう。
□
たこ焼きを食べ終え、商店街の角を曲がったところで、甘い香りが鼻をくすぐった。
(……クレープ?)
派手すぎないけど、なんだか目を引くお店。
メニューを見ると、「チョコバナナ」「いちごカスタード」「抹茶あずき」などが並んでいる。
「……チョコバナナ、ひとつください」
ほどなくして手渡されたクレープは、紙にくるまれていて、思ったより大きい。
端のほうから、クリームとチョコソースが少しのぞいている。
歩きながら、そっとかじってみた。
(……やわらかい)
もっちりした生地に、ふんわりと甘いクリーム。
バナナの優しい甘さが重なって、口の中がちょっと幸せになる。
「……これはこれで、いいかも」
食べていると、自然と気持ちがほどけてくる。
商店街のにぎやかな声。
すれ違う学生たちの笑い声。
あちこちから聞こえる「いらっしゃいませ」。
(なんていうか……馴染んできたな)
心の中が少しずつやわらかくなるような、そんな感覚。
クレープを食べ終える頃には、あたりもほんのり暗くなっていた。
ごみ箱を探して紙を捨て、深呼吸ひとつ。
「……しあわせ」
そう言って、私は小さく笑った。




