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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第3章

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第60話 歪み

 昼休みの中庭は、いつも通り学生たちの声で賑わっていた。芝生の上で談笑するグループ、ベンチでお弁当を広げる子、スマホを眺めている子……。その中の一角で、私は朝日ちゃんと並んで腰を下ろしていた。


「やっぱり、外で食べると気持ちいいね」


 朝日ちゃんがにこやかに言う。私も頷いて、手作りのお弁当箱を開けた。少し緊張した心が、彼女と一緒だと柔らかくほどけていく。


「最近、早乙女くんと本当に仲いいんだね。」


「う、うん……」


 耳が赤くなる。彼の名前を出されると、どうしても落ち着かなくなってしまう。


 そんな空気を切り裂くように、甲高い声が響いた。


「あなたが、篠原星羅さんね?」


 顔を上げると、目の前に立っていたのは、一人の女子学生。きらびやかなアクセサリーにブランド物と思しきワンピース、そしてつんと顎を上げた態度。周囲の学生たちが思わず視線を向けるほどの存在感だった。


「……え?」


 思わず声を漏らす。私はこの人に見覚えがなかった。


 けれど彼女は、最初から私を知っているように睨みつけていた。


「本当に、こんな地味な子が……? 笑わせるわ」


 言葉の鋭さに、胸が痛んだ。隣で朝日ちゃんがすぐに姿勢を正す。


「ちょっと、いきなり何なんですか」


「私は社長令嬢よ。早乙女隼人くんには、私みたいな人が相応しいの」


 自信たっぷりに名乗りを上げる。その言葉に、中庭の空気がざわめいた。


「なのに……どうしてあなたみたいな子が、隼人くんの隣にいるの? おかしいでしょう?」


 次々と浴びせられる罵声に、体が固まる。返す言葉が見つからない。視線が足元に落ちて、喉がからからに乾く。


「あなたなんか、ただの邪魔なのよ!」


 その瞬間、彼女の手が伸びてきた。胸を軽く突き飛ばされる。体がよろけ――


「星羅ちゃん!」


 朝日ちゃんがすかさず支えてくれた。腕を掴まれ、転ぶことは避けられたけれど……心臓が強く脈打っている。何が起きたのか理解できず、ただ呆然とする。


「……何するんですか?」



「そうですよ!」


 朝日ちゃんの声は鋭く強かった。周囲からも驚きの声が漏れる。それでも彼女――自称社長令嬢は怯むことなく、勝ち誇ったように顎を上げていた。


「これ以上、隼人くんの前に出ないで。あなたに居場所なんてないの」


 吐き捨てるように言い放つと、踵を返して去っていった。その背中を、誰も追えなかった。残された空気は重く、視線が一斉に私に突き刺さる。


 私は……声を出せなかった。胸の奥に冷たいものが広がって、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。



 その夜。俺はパソコンの前に座り、ネット掲示板やSNSを眺めていた。そこには昼間の出来事を断片的に書き込む投稿が、いくつも並んでいる。


『キャンパスに社長令嬢名乗る女出現w』 『篠原ちゃんに突っかかったってマジ?』 『あの子、前から早乙女くんにガチ恋って噂あったよな』


 スクロールしながら、俺はため息を吐いた。くだらない。


「七瀬さんが言ってた『社長令嬢』ってこの人のことか…なるほど」




 呟きながらマウスを握る。七瀬さん――星羅さんと仲のいい人物。たまに情報共有をする。その口から出た「厄介なファン」の話が、ようやく繋がった。


 俺は画面に映る彼女の写真を見つめる。パーティーか何かで撮られたものらしい。ドレスを着て、作り笑いを浮かべている。


 社長令嬢を名乗り、星羅さんを罵り、突き飛ばした。


 ……星羅さんに触れた。


 胸の奥に、暗い熱が渦を巻いた。許せない。笑って済ませられることではない。



「あーあ、覚悟がないなぁ、俺の星羅さんに触れるなんて。」


 独り言のように呟き、口元が冷たく歪む。


「……面白い」


 俺の声は低く静かだった。その裏に隠しきれない怒りと、そして――歪んだ愛が滲んでいた。

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