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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第3章

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第59話 撃ち抜かれ(隼人視点)

 大学に通うようになってから、もう何度こういう場面に遭遇しただろう。


 背後から駆け寄ってきて、突然腕にしがみつかれる。甘ったるい声で名前を呼ばれる。何度も耳にした台詞――「ずっと好きでした」「一度だけでもいいから食事を」……。


 だけど。


 そのすべてが、俺にとってはただの雑音だった。


 俺の腕に触れてきたその手も、押しつけられる体温も、何一つ響かない。心臓が跳ねることも、視線を奪われることも、微塵もない。


 俺が欲しいのは一人だけだからだ。


「……離せ」


 できるだけ感情を込めずに告げる。掴まれた手を軽く振り払うと、相手は驚いたように目を見開いた。拒絶されたことが信じられない、そんな顔。


「でも、私――」


 続けようとする声を無視し、俺は歩き出す。


 すぐ隣にいる星羅さんの手を、当然のように取って。


 その瞬間、胸の奥に静かに熱がこみあげてくる。周囲がどんな視線を向けてきても、どうでもいい。俺が欲しいのは、星羅さんだけ。


他の何も必要ない。


 


――そうだ。俺は本当にどうでもいいんだ。


 どれだけ告白されても、どれだけ体を寄せられても、心は一切揺れない。星羅さんじゃなければ、意味がない。


 俺は彼女に触れることしか望んでいない。彼女の声を、笑顔を、仕草を、全部俺だけのものにしたい。それ以外は、存在する価値すらない。


 時々思う。俺は異常なのかもしれない、と。


 けれど、もう構わなかった。


 ――狂気じみていようが、独占欲にまみれていようが、星羅さんだけは俺を受け止めてくれる。だから大丈夫。






 数日後の夜。


 星羅さんが俺の部屋に来て、講義のノートを広げていた。静かな時間。エアコンの風がふわりと髪を揺らし、ペン先が紙をなぞる音が心地いい。


 そんなときだった。


「……あれ?」


 星羅さんが首を傾げながら立ち上がり、洗濯しておいた衣類の山から一枚のシャツを取り上げた。


 それは俺が普段着ている大きめのシャツ。白地に細いストライプの入った、ゆったりしたサイズ感のものだ。



星羅さんがぱたぱたと隣の部屋に駆け込む。


 やがて、星羅さんはためらいがちにこちらを見た。…俺の服を着てくれてる。星羅さんにとっては大きめだからか、裾も太ももまで覆って、まるでワンピースみたいだった。


 そして、俺の視界が一瞬で奪われた。


 ――可愛い。


 呼吸が止まりそうになる。胸が痛いほど高鳴って、視線を逸らせなくなる。


 彼シャツ。


 言葉にすれば単純だけれど、実際に目にすると破壊力が強すぎた。無防備に俺のシャツを身にまとっている彼女の姿が、あまりに反則的で。


「……すごく、可愛いです」


 気づけば、言葉が漏れていた。


 星羅さんがはっとして顔を上げる。その瞳が大きく揺れて、頬がみるみる赤く染まる。


「えっ、え……ちがっ……これは、その、ちょっと羽織っただけで……」


「いいえ」


 思わず立ち上がって、彼女の肩をそっと掴んだ。


「そのままでいてほしいです」


「……え?」


「部屋着は、それにしてください。俺のシャツを着ている星羅さんが……可愛すぎて、もう目を離せません」


 言いながら、自分の声が震えているのが分かった。


 彼女は戸惑ったように瞬きを繰り返し、俺を真っ直ぐに見上げてくる。その視線が、驚きと困惑と、少しの喜びを混ぜ合わせて揺れていた。


 ――ああ、この表情を独占できるのは、俺だけだ。


 そう思った瞬間、心の底からぞくぞくと熱が沸き上がった。


「……隼人さん、そんな目で見ないでください」


「無理です」


 はっきりと答える。


「俺の目は、星羅さんしか映さないんです」


 言葉に合わせるように、彼女の腰へと手を回す。布越しに伝わる体温が、甘い痺れになって全身を包み込む。


 彼女は驚いたように肩を震わせた。けれど逃げなかった。


 そのことが嬉しくて、さらに強く抱きしめる。


「……本当に、可愛い」


「や、やめてください……そんなに見つめないで」


「無理です」


 同じ言葉を繰り返す。


 無理なんだ。本当に。


 彼女が俺のシャツを着て、俺を見上げてくれている。その姿が嬉しくて、愛おしくて、どうしようもない。


 俺はゆっくりと彼女の頬に指先を添え、その瞳を覗き込んだ。


「俺だけに、それを見せてください。他の誰にも、絶対に」


 彼女は息を詰めて、何も言えずにいる。


 その沈黙さえも、俺には甘美だった。


 ――俺は、やっぱり異常だ。


 でも、それでいい。


 星羅さんがこのまま、俺の隣にいてくれるなら。





 彼女は結局、俺のシャツを部屋着にしてくれた。恥ずかしそうに裾を揺らしながら、ソファに座る姿。


 その光景を、俺は一生忘れないだろう。


「……ありがとうございます。似合ってるって言ってもらえて、嬉しいです」


 小さな声でそう呟いた星羅に、俺は思わず笑みを零した。


「嬉しいのは、俺の方です」


 彼女の頬に触れながら、囁く。


「俺のシャツを着て、俺の隣にいる。こんな幸せ、他にない」


 星羅は驚いたまま、まっすぐに俺を見つめていた。


 その視線ごと、俺は抱きしめて離さなかった。


 ――もう二度と、誰にも渡さない。


 心に、改めて強く刻み込む。


 彼女が俺にとってすべてだ。

 他の誰かの想いも、視線も、言葉も、全部無意味。


 俺には、星羅さんがいる。


 それだけで、いい。

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