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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第3章

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第58話 答え

 昼下がりのキャンパスは、やわらかな風が吹いていて、初夏の気配を感じさせた。


 その日も私は隼人さんと一緒に講義を受けて、並んで校舎を出てきた。廊下を歩くだけで注目を浴びるのは、もう当たり前になりつつあった。けれど、まだ心臓が慣れない。ざわめきや囁き声が耳に入るたび、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


「今日、午後はスイーツ食べに行きませんか?」


「はい……一緒に」


 隼人さんは何事もなかったように笑う。その自然さに胸が温かくなるのと同時に――ふいに背後から聞こえてきた甲高い声に、私は足を止めた。


「早乙女くん!」


 振り向くと、二人の女子学生が駆け寄ってくるところだった。どちらも明らかに化粧も服装も気合いが入っていて、目立つ。


 一人が息を弾ませながら隼人さんの前に立ちふさがった。


「少しだけ……話せますか?どうしても伝えたいことがあって」


 そう言うなり、彼女は一歩踏み出し、隼人さんの腕に自分の手を重ねた。


「え……」


 私は思わず息を呑んだ。彼女はさらに距離を詰め、胸をぐっと押しつけるようにしながら、上目づかいで見上げている。


「ずっと好きだったんです。今日こそ伝えようと思って……」


 笑顔を作っているけれど、その目は真剣で、欲望に揺れていた。


 頭が真っ白になった。


 ――こんなふうに、堂々と……?


 体が固まり、声も出ない。ただ見ているしかできなかった。胸の奥に、冷たいものが広がっていく。


 だけど隼人さんは――。


「……無理」


 低く淡々とした声でそう言うと、彼女の手を軽く振りほどいた。まるで小さな埃でも払うように。


 次の瞬間には、私の手を取り、何事もなかったように歩き出していた。


「隼人さん……」


「行きましょう、星羅さん」


 彼の横顔は微動だにしない。


 振り返ると、残された女子の顔が驚きと屈辱に歪んでいた。けれど彼は一瞥もくれなかった。まるで存在していないかのように。


 私は歩きながら、胸が痛いほど締めつけられるのを感じていた。悲しさ、安堵、混乱――全部がぐちゃぐちゃになって。


「……怖い顔してますね」


 ふいに隼人さんが笑った。けれどその声は冷たく、鋭かった。


「俺は、誰にも触れさせるつもりはありません。星羅さんだけです」


 その言葉に、全身が熱くなる。嬉しいのに、泣きたくなった。


 ――私は、こんなにも独占されている。


 



数日後。


 今日は朝日ちゃんと一緒に昼休みを過ごしていた。彼女は私と違って飾らない雰囲気で、誰とでも気さくに話せる。けれど、時折こちらをじっと見つめる目は鋭い。


「最近、早乙女くんとよく一緒にいるね!」


「……うん」


「羨ましいっていうか、すごいなあって思う」


 彼女の声は明るいけれど、その奥に何かを探るような響きがあった。私は苦笑して誤魔化す。


 そんなときだった。


「あれ、早乙女くんじゃない?」


 朝日ちゃんが指さす方を見ると、少し離れた場所に隼人さんが立っていた。二人の女子学生が彼を囲むように話しかけている。


 遠目にも分かる、緊張と必死さ。片方の子は赤い顔で、何かを訴えるように言葉を重ねていた。


「……また、告白……?」


 小さな声が漏れる。胸がざわめいて、呼吸が浅くなった。


 隼人さんは静かに話を聞いているように見えた。けれど決して笑ってはいなかった。その無表情さが逆に怖い。


 そして――。


 片方の子が突然、泣き出した。肩を震わせ、顔を両手で覆いながら、その場にしゃがみ込む。


「……っ」


 喉の奥が詰まり、言葉にならなかった。胸が痛い。苦しい。


 私は一歩、そちらに踏み出しそうになった。けれど、その腕を朝日ちゃんが掴んだ。


「星羅ちゃん」


 低い声。振り向くと、彼女の目が真っ直ぐに私を射抜いていた。


「大丈夫。早乙女くんは、星羅ちゃんしか見てないよ」


「……でも……」


「分かるもん。あの視線、あの態度。全部、星羅ちゃんにだけ向いてる」


 真剣すぎる声に、体が固まる。



 あれ、でも……どこを見ているんだろう。視線が斜め上だ。


 朝日ちゃんは私の腕を掴んだまま、さらに強く言った。


「安心して。星羅ちゃんは愛されてる。誰にも割り込めないくらい、重く」


 その言葉が、胸に深く刺さった。


 ――重く。


 まるで、隼人さんの独占欲そのものを代弁しているようで。


 私は視線を戻す。泣いている子を背にして、隼人さんは淡々と立ち去ろうとしていた。誰にも触れさせず、誰の感情にも揺れず。ただ、私の方角へと歩き出していた。


 その姿を見た瞬間、涙がにじんだ。


「……隼人さん」


 心の中で呼んだ声は、誰にも届かない。けれど、彼は振り返らなくても分かっているような気がした。


 ――私だけを、見ている。


 その日の夜、私は隼人さんの胸に顔を埋めていた。



 彼は静かに髪を撫でながら言う。


「俺には星羅さんがいれば大丈夫。誰よりも、ずっと愛しています」


 冷たい声なのに、その腕は優しく強く、私を抱きしめていた。


「だって、俺が欲しいのは星羅さんだけだから」


 その囁きが、全身に染み渡る。


 胸の奥の不安が、溶けていく。彼に抱きしめられている限り、私は確かに「選ばれている」のだ。


「……ありがとうございます。私、信じます」


「ふふ。信じなくても、逃がしませんけど」


 笑いながら、彼はさらに抱き締めた。


 その強さに、苦しいのに、心地よくて――もう何も考えられなかった。

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