表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/66

第57話 対面

 大学の正門をくぐった瞬間から、私は周囲の視線を意識していた。春の陽射しはやわらかくて、木々の緑も鮮やかに揺れているのに、どうしてだろう。空気が少しざわついている気がする。


 横を歩く隼人さんは、相変わらず落ち着いた雰囲気だった。長身で整った顔立ちに、涼しげな目元。シンプルなシャツとジャケットだけなのに、まるで雑誌のモデルみたいに見える。そんな人と並んで歩いていることが、夢みたいで――でも、現実なのだ。


「星羅さん」


「はい」


「足元、段差がありますよ」


 ふいに差し出された手に、私は少しだけためらってから、自分の手を重ねた。すると、彼は当然のようにそのまま握り締める。大学の正門を入ったばかりの場所で、こんなふうに。


 周囲の学生たちが、驚いたようにこちらを見ているのが分かった。小声で「ねえ見た?」「手つないでる……」なんて囁きが聞こえてきて、顔が熱くなる。


私は思わず視線を落とし、彼に引かれるまま講義室へと歩いた。


 ――どうして、こんなに堂々としていられるんだろう。


 私は「高嶺の花」なんて言われることがある。背が高く、顔立ちが整っているから。でもそれはただの外見で、実際は誰かに強く求められるわけではない。近づきにくい、声をかけづらい、そういう壁のような存在だった。だからこそ、隼人さんのような人が私の隣にいると、余計に周囲の目が集まる。


 廊下を歩いているときも、講義室に入ったときも、何人もの視線が私たちを追ってきた。


 そして、昼休み。


「星羅さん、一緒に食べましょう」


「……はい」


 キャンパスの芝生広場。ベンチに座ると、隼人さんが手早くお弁当の袋を開けて、私におにぎりを差し出した。まるで当たり前のように。


「今日は鮭にしました」


「…!ありがとうございます」


 そのやり取りを、近くにいた女子たちがじっと見ていた。三人組。ちらちらとこちらをうかがい、何か言いたげにひそひそ声を交わしている。


 ――いやな予感。


 するとそのうちの一人が、思い切ったようにこちらへ歩み寄ってきた。


「あの……少し、いいですか?」


 私に向けられた声。


「はい……?」

「えっと……その、早乙女さんと、どういう関係なんですか?」


 背後から「そうそう、気になってたの!」ともう二人が追いついてきて、私を取り囲むように立つ。彼女たちの視線は真剣で、少し刺すようだった。


「いつも一緒にいるみたいだから……」

「まさかとは思うけど、本当に、恋人とかじゃないですよね?」


 私は言葉に詰まった。嘘はつけない。けれど、簡単に口にしていいのか――。


 そのとき。


「恋人です」


 低く、はっきりとした声が背中から届いた。振り返ると、隼人さんが立ち上がっていて、私の背中にすっと手を回す。


「俺と星羅さんは、恋人同士です」


 一瞬、女子たちの目が大きく見開かれた。信じられない、という表情がはっきり浮かぶ。


「……そんな、嘘ですよね」


「早乙女さんが、こんな……」


「ありえないです!」


 次々と投げかけられる言葉に、胸が苦しくなった。否定されているのは、まるで私自身の存在のようで。けれど隼人さんは微動だにしなかった。


「嘘じゃありません。俺は彼女しか見ていません」


 きっぱりと断言する声に、女子たちが言葉を失う。彼はさらに、私を抱き寄せる腕に力を込めた。


「時間を邪魔されるのは、不快です」


 淡々とした口調なのに、背筋がぞくりとするような冷たさを含んでいる。三人は小さく声をあげ、押し黙ってしまった。


 私は慌てて彼の腕を軽く叩き、小声で囁く。


「隼人さん……怖がらせてます」

「構いません。俺の気持ちは揺るがないので」


 その顔は笑っていた。けれど、笑顔の奥には独占欲が光っていて――見ているだけで息が詰まりそうだった。


 結局、女子たちは何も言えなくなり、足早に去っていった。残された私たちの周囲には、ざわざわとした空気だけが漂っている。


 私は思わず深呼吸した。


「……隼人さん」

「はい」

「本当に、恋人って……」

「事実ですから」


 即答だった。私が動揺しているのをよそに、彼は当たり前のように言う。


「星羅さんが不安なら、何度でも言います。俺はあなたの恋人です。あなたのすべてを、俺が独占します」


 静かな声なのに、胸の奥まで響いて離れない。周囲のざわめきなんて、もう耳に入らなかった。


 気づけば私は彼の胸に顔を埋めていた。抱きしめ返す腕の温かさに包まれて、心臓の高鳴りを落ち着ける。


 ――周りがどう思ってもいい。彼がここにいる、それだけで。


 そう思えるほど、今の隼人さんは強く、そして優しかった。




「……ありがとうございます。嬉しいです。」




「ふふっ、俺も星羅さんと一緒にいれて嬉しいです。」



隼人さんが目を細めて笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ