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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第3章

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第56話 安心

 大学のキャンパスは、今日も活気に満ちていた。新学生たちは授業やサークルに向かうため、あちこちを行き交っている。芝生の上では友達同士でお弁当を広げているグループもいて、その光景はどこか眩しい。


 私は、その中を隼人さんと並んで歩いていた。並ぶだけで、視線が集まるのが分かる。胸の奥が少しざわめくけれど、隼人さんはまるで気にした様子もなく、自然に歩調を合わせてくれる。その姿勢は堂々としていて、むしろ私の方が落ち着かなくなるくらいだった。


「次の講義、空きコマですよね?」


「……はい」


「じゃあ、カフェに行きましょう。人が少ないところ、知ってます」


 隼人さんは軽く言うけれど、その提案はなんだか特別な響きを持って聞こえてしまう。隣で歩くだけで視線を浴びているのに、二人でカフェに行くなんて――周りから見れば完全に“そういう関係”だと思われても仕方ない。


「……隼人さん、そういうの、噂になったら……」


「噂になったところで、俺はどうでもいいです。星羅さんが一緒にいる、それだけで十分ですから」


 さらりと返されて、私は言葉を失った。ずるい。こんなふうに平然と、真っ直ぐなことを言うなんて。頬が熱くなるのをごまかすように前を向くと、視線の先で女子学生の数人がこちらを見ているのが分かった。目が合った瞬間、彼女たちは小声で何か囁き合い、すぐに視線を逸らす。


 ――やっぱり、見られてる。


 分かっていたことだけど、実際にそうなると、心臓が落ち着かなくなる。けれど、私の隣を歩く隼人さんは何も変わらず、穏やかな表情を崩さない。その横顔を見ると、少しだけ安心した。


 カフェに向かう途中、講義棟の前の広場を横切る。昼休みということもあり、たくさんの学生でにぎわっていた。私は周囲の気配を敏感に感じ取りながら歩いていたが、隼人さんがふと手を伸ばし、私の手を取った。自然すぎる仕草に、一瞬息が止まる。



彼は握った手を緩めようとしない。周りの視線が突き刺さる気がして、顔が熱くなる。けれど、彼の手はあまりに温かくて、振りほどこうなんて思えなかった。


 広場のベンチに腰掛けていた女子学生たちの視線が、痛いほどにこちらに注がれる。小声で

「やっぱり早乙女さんだよね……」


「誰?あの子……」


「めっちゃ綺麗じゃない?」

と囁く声が耳に届いてしまう。聞こえないふりをしても、胸の奥がざわついた。


 でも、隼人さんの表情は変わらない。私の隣を歩きながら、何事もないように前を向いている。それが不思議な安心感を与えてくれる。――まるで、どんな視線も声も関係ないと示しているみたいに。


 カフェに入ると、思った通り静かだった。キャンパスから少し外れた場所にあるその店は、学生よりも近所の人がよく利用する落ち着いた雰囲気の場所。席につくと、ようやく私は胸を撫で下ろした。


「……本当に、堂々としてますね」


「そうですか?」


「周りの視線とか……全然気にしてないように見えるから」


 彼は少しだけ笑みを浮かべた。 「俺にとって大事なのは、周りの目じゃないです。星羅さんがここにいる、それだけで十分ですから」


 まただ。平然と、こんなことを言う。思わず下を向き、カップを持つ手に力が入る。顔が赤くなるのを隠すように、そっとマグに口をつけた。温かいラテの香りが広がり、気持ちが落ち着く……はずなのに、心臓は早鐘のように鳴っていた。


 そのとき、隣の席に座っていた女子学生たちが、わざとらしく声を潜めて話し始めた。


「ねぇ、やっぱりあの人……早乙女さんだよね?」


「うん、間違いない。かっこいい……でも隣の子、誰?」


「初めて見た。モデルみたい……。でもなんで一緒にいるの?」


 声がはっきり聞こえるほど、抑えているつもりの小声。胸の奥がきゅっと締め付けられる。でも、私はカップを両手で包んだまま、何も言わなかった。ただ、隼人さんがどう反応するかが気になって、横目で彼の横顔を盗み見る。


 ――けれど、隼人さんは微動だにしなかった。まるで耳に入っていないかのように、落ち着いた顔でラテを口にしている。


 私はその姿に、ふっと笑いそうになった。そうか、この人は本当にどうでもいいんだ。周りの声なんて。私と一緒にいる、それだけで満足している。


 そう思った瞬間、胸のざわつきは少しずつ和らいでいった。代わりに、温かさが広がっていく。視線や噂に怯える必要なんてない。彼が隣にいてくれるだけで、私は大丈夫なんだ。


「……なんだか、不思議です」


「何がですか?」


「周りがざわついてるのに、隼人さんが隣にいると、安心するんです」


 私の言葉に、彼は少しだけ目を細めて笑った。その笑顔は優しくて、どこか独占欲の影を宿しているように見えた。けれど、その影さえも、今の私には心地よかった。


 カフェを出たあとも、私たちは自然に手をつないで歩いた。キャンパスに戻るとまた視線が集まったけれど、不思議と怖さはなくなっていた。むしろ、胸の奥が温かく満たされているのを感じる。隼人さんと一緒にいる――その事実が、私に力をくれるから。


 そうして歩く私たちを、陰から見つめる視線があったことに、私はまだ気づいていなかった。

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