第43話 猫カフェへ
キャンパスの一角、木漏れ日が揺れるベンチに私は朝日ちゃんと並んで座っていた。隼人さんはいつものように隣でニコニコと私を見ている。
「あのね、星羅ちゃん」朝日ちゃんが声を低くして言う。
「最近、ほとんど家にいるって聞いたけど、外の空気吸わないとダメだよ。気分転換も必要だから！」
「……そうだよね」
隼人さんは無言でこちらを見ていた。
「ねえ、早乙女くんも来てよ。猫カフェ」
朝日ちゃんが提案する。
彼は眉を寄せたけれど、ゆっくり頷いた。
「……わかった。同行します」
□
木のぬくもりを感じる入り口をくぐると、静かな音楽と共に猫の温かい気配が包み込む。
店内はまるで別世界。猫たちがゆったりとくつろぎ、時折しなやかに動く姿が心を和ませる。
私たちは三人、ソファに座り、初めは静かに猫を眺めていた。
すると、黒い毛並みの小さな猫が、まっすぐ隼人さんの足元に歩み寄る。
隼人さんが驚いたように目を見開くと、私は微笑んだ。
彼はそっと手を差し伸べる。
猫は躊躇いなく手のひらに頭をこすりつけた。
「……似合いますね」
「そうですか？」
黒猫はまるで知っているかのように隼人さんの腕の中で丸まり、気持ちよさそうに目を閉じている。
「……こんなこと、久しぶりです」
隼人さんの声は静かで、どこかほっとした響きを帯びていた。
茶色の猫が私の膝に跳び乗り、あたたかい毛皮の感触が伝わってくる。
朝日ちゃんは鮮やかに猫じゃらしを振り、子猫たちを楽しませている。
私たちは自然と笑い合い、緊張がゆるんでいくのがわかった。
一匹の白い猫が隼人さんの腕に飛び乗り、ゆっくりと丸くなった。
隼人さんは静かに撫でる。
その光景を見て、私はそっと息を吐き、柔らかな笑みを浮かべた。
猫の温もり、静かな空間、そして隣にいる隼人さんと朝日ちゃん。
私はこの時間を大切にしたいと思った。
（こんな日が、もっと続けばいいな）
心の中でそう願いながら、猫たちの柔らかい毛並みに触れた。
助手席に乗ると、ふと隼人さんが横目で私を見る。
「やっぱり、俺も来て良かったです」
「……そうですか？」
「はい。星羅さんが笑ってるところ、見られましたから」
車が動き出す。窓の外では、街の灯りが少しずつ増えていく。
