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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第3章

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第41話 番外編 手料理

翌朝、私はキッチンに立っていた。


 エプロンをつけて、冷蔵庫を開ける。


「……うわ、すごい」


 そこには整然と並べられた新鮮な食材たち。高級スーパーの匂いがする。


 やっぱり、隼人さんの家はすごい。なんでもある。


 でも、ちょっと緊張する。


「……さて、何を作ろう」


 彼に言われた「条件」は、私の手料理だった。



 久しぶりにキッチンに立つ手が、少し震える。


(でも、作りたい。ちゃんと、心を込めて)


 包丁を取り、玉ねぎを刻む。慣れた手つき……と言いたいところだけど、案の定、涙が出る。


 涙をぬぐいながら、次はにんじん。


 せっかくなら、彼が普段食べていないような、やさしい味にしたい。


 だから私は、家庭的な「クリームシチュー」を選んだ。



レシピを思い出しながら、ゆっくりと煮込む。


 部屋に、やさしい匂いが広がっていく。


 それだけで、少しだけ安心した。




「……ただいま」


 隼人さんの声が、玄関から聞こえた。


 私はエプロン姿のまま、キッチンから顔を出す。


「おかえりなさい、隼人さん」


 彼が驚いたように目を見開いた。


「……星羅さん?」


 私がコトン、とお玉を置いて、にこっと笑うと、彼は少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。


「……その格好、似合ってます」


「え、あ……ありがとうございます」


 なんだか、お互い照れた空気になってしまって、笑ってしまう。


「夕飯、作ってみたんです。……あまり上手じゃないかもしれませんけど」


 私は、テーブルに並べた皿を示す。


 白いシチュー、焼きたてのパン、サラダに、ほんの少しだけレモンの効いたドレッシング。


 家庭の味を、丁寧に揃えた。


「……すごい。これ、全部?」


「はい。手作りです。手、切りそうになりましたけど……なんとか」


 彼は驚いたように笑い、椅子を引いた。


「では、ありがたくいただきます」


「どうぞ」


 手を合わせて、ふたりで「いただきます」を言う。


 その瞬間が、なぜかとても愛おしく思えた。


 隼人さんは、スプーンを手にとり、シチューをひと口。


 その瞬間、ふわっと表情がほどけた。


「……やさしい味だ」


「本当ですか?」


「はい。こんな味、久しぶりです」


 彼はふっと笑う。




 私のつたない手料理が、彼の心を少しだけほぐしたのだとしたら、それだけで、作った意味がある。


「……良かった。隼人さんが食べてくれて」


「これからも食べたいです」


「え?」


「たまにでいいので。帰ってきたら、星羅さんの作った料理がある……そんな生活、想像したら、悪くないなって思いました」



「……じゃあ、また作ります。もっと上手くなります」


「楽しみにしてます」


 その声に、自然と笑みがこぼれた。


 シチューは、ゆっくりと空になっていった。



 食後、キッチンを片付けていると、背後から隼人さんが近づいてきた。


「今日はありがとうございました。……本当に、美味しかった」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」


 ふと、彼の手が私の髪に触れた。


 やさしく、そっと撫でるように。


「あなたが誰かに狙われていることも、俺が守りたいと思う気持ちも、何も終わっていない。でも、少しだけ、前に進めた気がするんです」


 私は、静かに彼の手を見つめる。


「私も、そう思います。何もかも一気には変えられないけど……でも、私も変わりたいって、ちゃんと願えるようになった」




 外は、夏の夜。


 星が、静かに灯っている。


「……次は、何がいいですか?」


「そうですね。……カレーとか、どうです?」


「……シンプルですね」


「でも、きっと特別になりますよ」


 その言葉に、胸がきゅっとなる。



 想いが、今日、またひとつ深くなった。

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