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転移先は日本でしたが、あまりにも楽しいのでスローライフを目指します!~従者(ヤンデレ)がついてきたので一緒に幸せになる~  作者: 雨宮 叶月
第1章

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第4話 転移先は日本でした④

着替えて、スマートフォンと財布を持って外に出る。

白いシャツにスカート。記憶の中では“普通”の格好だが、足元を見ながら歩くのはまだ少しぎこちない。


ビルの隙間を吹き抜ける風が頬をなでた。

顔を上げると、空が視界いっぱいに広がっていた。


オレンジ色に、静かに青が混ざっていく。境界線はあいまいで、やわらかく、にじむように美しい。


「……綺麗」


言葉が自然と漏れる。


記憶として知っているはずなのに、目の前の光景には心を奪われた。




歩いているうちに、見慣れない明るい建物にたどり着く。

自動で開く扉に少し驚きながらも、一歩踏み出す。


「……わあ……!」


思わず声が出た。

コンビニ——記憶の中の知識より、ずっと色と匂いに満ちている。


整然と並ぶ商品、どこか甘く、香ばしい匂い。

あらゆる“日常”がこの空間に詰め込まれているようだった。


棚の一角で目に留まったのは、三角形の不思議な包み。

「おにぎり」——名前も形も可愛らしい。


(……小腹も空いてきたし)


迷った末に、二つ。

“おかか”と“ツナマヨ”という種類を選んで、レジというものへ向かう。


「いらっしゃいませ~」


笑顔の店員に軽く会釈しながら、財布から紙幣を出す。


この世界のルールに、私は少しずつなじみ始めている。

不安よりも、今は——この不思議な新しさが、楽しかった。


家に戻り、テーブルの上にそっとおにぎりを置く。


海苔はごはんをふんわりと包み、見た目にも整っている。


「いただきます」


静かに息を整え、一口かじる。


ふわりとしたごはん。しっとりとした海苔の香ばしさ。

そして中からとろりと現れた“おかか”の塩気と旨味。


「っ……おいしい……!」


思わず、口元を手で押さえる。

味覚が、じんわりと幸福に満たされていく。


なんてやさしい味。こんなに単純なのに、なんて複雑で、なんて……あたたかいのかしら。


「これが、“普通の食事”……?」


王宮の晩餐とは違う。商会での特注スイーツとも違う。

これは、誰かのためじゃなく、自分が食べたいから食べている味。


涙がこぼれそうになる。


「まさか……おにぎりで感動するなんて……」


誰もいない部屋の中、少しだけ笑ってしまう。

知らない世界、知らない食べ物、知らない日常。でも、それが今は、愛おしくてたまらない。



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