第28話 復帰
「星羅ちゃああん!」
朝日ちゃんが駆け寄ってきた。大学に戻ると、ほんの少しだけ、以前と空気が違って感じた。けれど、朝日ちゃんの笑顔がその違和感を打ち消してくれる。
「元気?無理してない?辛かったらいつでも言ってね!」
「ありがとう。」
「……って、えっ?」
朝日ちゃんの視線が私の胸元で止まった。慌てて隠そうとしたけれど、すでに遅かった。黒い石が、小さく光っている。
「それって……ネックレス? え、え、待って……それ、まさか早乙女くんから!?」
「……うん」
「ちょ、え? え?? デ、デートでもしたわけ!?」
「……ただの気分転換だよ」
「でもさ、その石……ブラックダイヤモンドじゃん。しかも……」
朝日がスマホをいじり始めた。
「やっぱり……石言葉……いやいやいやいや!!!」
「どうしたの?」
「……おそろいとか、つけてないよね?」
「……つけてる」
「うわあああああああぁぁぁぁぁ」
□
(ちょっと、さすがにこれは重くない?)
気になって、私は講義後、早乙女くんの元へこっそり向かった。
「早乙女くん、ちょっといい?」
「……七瀬さんですね。どうかしましたか?」
星羅ちゃんがいないときの隼人くんは、どこか冷たくて、怖い。
「星羅ちゃんに……ネックレス、あげたよね。あれ、ちょっとやばくない? ブラックダイヤモンドって……」
「……どういう意味ですか?」
「いや、だって……不滅の愛とか、意味重たすぎるし……大学でそんなのつけてたらちょっと目立つし……」
「それが、どうかしましたか?」
彼の瞳がすっと細くなった。笑っているようで、笑っていない。
「彼女に相応しいものを贈っただけです。意味も、彼女に合ったものを選んだつもりです」
「……でも、それって……ちょっと怖いよ?」
「七瀬さんに、僕の気持ちが理解できますか?」
「……え?」
「あなたが彼女にどれだけ近づこうと、彼女の本当の姿も、孤独も、強さも、弱さも……全部知っているのは、僕だけです」
その声は静かで、まるで冷たい水のようだった。
私は、何も言えなかった。
早乙女くんの表情から、いっそ恐ろしいほどの“本気”を感じたから。
「えっと、ごめんね?」
そう言ってその場から逃げる。
(早乙女くん、マジでヤバイ人だな…)