第24話 熱
「あれ?星羅ちゃん、フラフラしてるけど、大丈夫?」
朝日ちゃんがそう声をかけてくれる。
「多分大丈夫。心配してくれてありがとう。」
「うん…。もうすぐ大学終わるからいいけど、帰ったらちゃんと休むんだよ?」
□
大学が終わり、電車の中で、身体が重たく、熱っぽさを感じていた。
「……なんだか、熱があるかも」
慣れない生活と気疲れ、季節の変わり目のせいだろうか。朝日ちゃんに「絶対に休んでね!」ともう1回言われたことを思い出しながら、私はふらふらとマンションの前にたどり着いた。
鍵を開けようとすると、すでに空いてるのか音がいつもと違っていて、一瞬戸惑う。
ドアを押すと、リビングに隼人さんがいた。シャツの袖をまくり、ジャケットは椅子にかけている。
「おかえりなさい、星羅さん」
「隼人さん、どうしてここに……?」
「今日の様子が少しおかしかったので、心配で、先に来てしまいました。」
彼の言葉はさらりとしたものだが、どうやって部屋に入ったのかと疑問に思う。
「お水をどうぞ。体温計も準備してあります。栄養ドリンクも買っておきました」
てきぱきと、丁寧に私に手渡す。
ふと、昔の記憶が浮かんだ。
昔、体調を崩して寝込んだ私の隣で、隼人さんは手を握り、何も言わずにそばにいてくれた。
その時も、彼の優しさは自然で、何の無理も感じなかった。
「熱、どれくらいありますか?」
隼人さんが体温計を渡してくれる。温かくて、でも冷たくも感じる彼の手の感触に、少しだけ安心した。
「38度ちょっと……」
「少し高いですね。今日は無理せず休みましょう。」
その言葉に、思わず涙がこぼれそうになる。
「ありがとう……」
「大丈夫、何かあったらすぐに言ってくださいね」
その後、隼人さんはキッチンで軽くおかゆと栄養のあるスープを作り始めた。私はソファに座りながら、その背中をぼんやりと眺めていた。
「昔は僕も、何もできなかった。でも、今は少しは支えられると思っています」
彼の言葉に、私は何も答えられなかった。ただ、胸の中がじんわりと温かく満たされていくのを感じるだけだった。
スープの香りが部屋に広がり、隼人さんがそっと差し出してくれる。
ゆっくりと口に含むと、ほっとした気持ちが広がった。
窓の外はすっかり暗くなり、街灯が光り始めている。
(彼と過ごす時間が、どんなに小さなことでも、私には大切なんだ)
部屋に戻りながら、熱にうかされた頭で、そう強く思った。
隼人さんは穏やかな微笑みを絶やさず、そっと私の手を握った。
「ゆっくり休みましょう。明日も僕がついていますから」
私は小さく頷き、安心した気持ちのまま目を閉じた。
昔から変わらない優しさに包まれて、夜は静かに深まっていった。




