第12話 再会②
月の下、路地に2人だけが立っていた。
心臓の音だけが耳に響いている。
彼は変わらない笑みをたたえながら、私を見つめていた。
でも。
「どうして……」
声が震えるのがわかった。唇がうまく動かない。
「どうして、来たの?」
言った瞬間、目の奥が熱くなった。
「私、てっきり――あのとき、アルは……来られなかったんだと思ってたのに」
言いながら、自分でも驚いた。
私は、泣くような人間じゃない。
でも、涙は勝手にこぼれていた。
「ずっと……この世界で1人だと思って……!」
胸の奥に溜めていた言葉が、堰を切ったように流れ出す。
「 誰にも気を許せなくて、
なのに、全部1人でやらなくちゃいけなくて……!」
涙は止まらない。頬を伝っていく。
そんな私を、アルはただ、静かに見ていた。
感情を映さない瞳。
でもその奥には、燃えるような何かがあった。
「……お嬢様」
彼は、すっと手を伸ばす。
「泣かないでください。僕の大切な人が、そんなふうに涙を流すなんて……耐えられません」
指先が、私の頬をそっとなぞる。
温かくて、でもどこか冷たい――
まるで、永遠に私だけを見ているような、そんな触れ方だった。
「もう誰にも、触れさせません。僕がすべてを整えます。
どんな世界だろうと、どんな姿でも……あなたを守るのは、僕の役目ですから」
その言葉が、優しく、そして――恐ろしかった。
私はもう、知っている。
彼の「忠誠」が、どこか狂っていることを。
でも同時に、それが誰よりも――恋しくて、愛おしい。
泣きながら笑ってしまった自分が、少しだけ悔しかった。




