第11話 再会①
人通りの少ない道を歩いていた。
(少し遠回りだったかしら……)
スマートフォンに気を取られた一瞬の隙。
すっと影が現れた。
「ねえねえ、星羅ちゃんでしょ? 一緒に帰らない?」
「1人じゃ危ないよ? ちょっとだけ、付き合ってよ」
(……同じ大学の)
軽くあしらって通り過ぎようとしたが、彼らは並ぶように歩幅を合わせてきた。
「何、警戒しすぎじゃない?」
「そんなに固くならなくていいのに」
ぐい、と腕を掴まれた瞬間、覚えていた護身術の構えを取ろうとしたが、重心がずれた。
(っ――失敗した!)
距離をとる間もなく、もう1人が回り込む――
そのときだった。
「彼女には、指一本触れさせません」
静かで、でも妙に耳に残る声。
ふと目をやると、路地の奥に――誰かがいた。
切れ長の瞳、薄い唇。姿勢ひとつで周囲を支配するような気配。
でもその瞳は、光を孕んでいなかった。
(え……アル……?)
いや、違う。この世界に彼がいるはずない。
でもその男は、あまりに似ていた。
輪郭、髪の色、立ち方、そして何より――
私を守るときの“目”。
「は? なにお前」
男の1人がにじり寄るが、彼はそのまま無言で近づいた。
「いや、お前に関係ねーだろ。邪魔すんなよ」
その手がこちらに伸びた瞬間、“それ”は起きた。
男の手首を掴み、ひねる。
もう1人の足元に素早く入り込み、膝を蹴り崩す。
全て一瞬。音すら、ほとんどなかった。
「っ、痛っ、……!」
倒れ込んだ2人を見下ろし、男――彼はゆっくりと笑った。
「正当防衛ですから、通報されても大丈夫ですよ?」
その声には、かすかな冷たさと――異常なほどの優しさがあった。
そして彼は、私の方へ向き直った。
夜風が揺らしたコートの裾。月明かりがその輪郭を照らす。
「やっと見つけました……お嬢様。ご無事で、なによりです。」
(……アル、なの?)
さっきまで確信が持てなかったのに、その言葉だけで全てが繋がった。
「アル……?」
彼は一歩、近づく。
目が合った瞬間、逃げ場はもうどこにもなかった。
「ええ。遅くなって、申し訳ありません」
そして、ふわりと微笑んだ。




