第1話 転移先は日本でした①
公爵令嬢セレスティア・ルーデンベルク。
この名を知らぬ者は王都にほとんどいない。
幼い頃から医療、薬草について学び、6歳にて熱病を治す薬を開発。
10歳の頃に立ち上げた商会は王国全土に支部を広げ、莫大な利益を生み出している。
王太子の婚約者として、最難関の王立学園にも主席で入学し、常にトップの座を譲らなかった。
だからこそ——私は多くの者に憧れられ、同じ数だけ、妬まれてきた。
比べられ続けた王太子でさえ、私の隣に立ち続けることを諦めたのだ。
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「セレスティア・ルーデンベルク、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーも終盤に差し掛かってきた頃、私、セレスティア・ルーデンベルクは婚約者である王太子にそう告げられた。
「承知いたしました。」
私は微笑み、ドレスの裾を持ち上げて優雅に一礼する。
「皆様は引き続きパーティーをお楽しみくださいませ。ご機嫌よう。」
ザワつく会場を後にしながら、私は聞こえてくるささやき声を背中に受け流す。
「セレスティア様に非があるはずがない」
「殿下、やはり耐えられなかったのね……」
外に出ると、従者であるアルベルト・クラウスが待っていた。
忠実、黒髪で顔も整っている。そして、私が密かに想っている相手だ。アルと呼んでいる。
「アル、私婚約破棄されたわ。」
「それはおめでとうございます。これからどうしましょうか?」
「そうね……領地に戻って、ゆっくり過ごそうかしら。ずっと我慢していた甘いものも食べたいわ」
「お供いたします。いつでも、どこまでも」
そんな会話をしていると、足元に金色の魔法陣が光った。
「っ、お嬢様!」
アルの手に触れた瞬間、私は意識を手放した。