第1章 第1話「拳と笑顔と冒険者ギルド」
「……うぅ……あれ? 俺、生きて……ないよな?」
目を覚ました場所は、やわらかな草原の上だった。
見上げた空はやたらと澄み切っていて、どこか現実味がなかった。
(ここが……異世界、グランフィーナ帝国……!)
女神の言葉を思い出す。
経験値10倍、ドロップ100%、お金100倍、鑑定スキル、マジック袋――
この俺、小鳥遊リクは、チートを持った転生者。
……でも、それはナイショだ。
「え、ちょっと待って。ステータス画面ってどう開くの!?
“メニュー”とか“ステータス”って言えばいいの!?!?」
返事はなかった。
代わりに、
茂みの奥から「ガァァッ!」という咆哮とともに飛び出してきたのは――
牙が生えた、黒いウサギみたいなモンスター。
「ちょ、おまっ、近ッ!! 武器も魔法も使えないんだけど!!」
その瞬間だった。
バギィィィィンッ!!!!!
轟音とともにモンスターが吹き飛んだ。
風が渦巻き、視界の中心に、拳を突き出す少女が立っていた。
銀色のショートカット。
腰には小さな袋。腕には重そうなグローブ。
そして、目が合った瞬間に、こう言った。
「なにやってんのよ。死ぬ気?」
「え、ええ!? ……可愛い!? てか強ッ!!」
「アンタ、どこから来たの?見ない顔ね」
「えっ……えーっと、旅の途中で、道に迷ってたというか……」
「ふーん、ま、どうでもいいけど。
ほっとくと死にそうだから、町まで連れてってあげる」
それが、俺――リクがこの世界で出会った、
最初の仲間だった。
名前は――アリス。
このときは、まだ知らなかった。
彼女が、この世界でとんでもない秘密を抱えていることに。
***
アリスの案内でたどり着いたのは、草原の先にある小さな町。
石造りの建物と、騒がしい声が響く広場の中――
アリスが指差したのは、大きな木の看板だった。
【冒険者ギルド ミルティ支部】
「ここが冒険者ギルド。登録すれば、依頼を受けてお金が稼げるわ」
「おおっ、まさに異世界テンプレ……っていうか、
アリス、さっきから慣れすぎじゃない!?」
「そりゃ、私、ここに通ってるし。
とっとと中入って、登録してきなさいよ」
ギルドの中はにぎやかだった。
剣士、魔法使い、弓使い、いろんな冒険者が酒を飲み、依頼書を見ていた。
受付に並ぶと、
お姉さんが笑顔で声をかけてくる。
「はい、登録ですね。ステータスカードをどうぞ!」
渡されたカードを手に持つと、ふわっと光が走った。
名前と職業、そしてスキルの“見える範囲”が表示されるらしい。
【小鳥遊リク】
【職業:冒険者(仮)】
【スキル:一部非公開(登録者の同意により非表示)】
「……あれ?俺のスキル、全然出てない……?」
「へぇ……なんか怪しいね。
ま、隠しスキルでもあるのかも? そういうの、たまにいるし」
(よかった……転生者であることも、チート持ちなのも、バレてない……!)
「目立ちたくなかったんだけど……逆に目立ってない!?」
あっという間に周りの冒険者たちがざわつき始める。
「新人でスキル非公開!? 絶対何か持ってるだろ!」
「ヤバい奴の予感しかしねぇ!!」
「さすがに笑うわコイツ!」
「……だから言ったじゃない。目立つって」
アリスがため息をつく。
「うぅ……ツッコミどころ多すぎて、まだ転生一日目なんですけど……」
(でも……転生者ってことだけは、絶対バレちゃだめだ)
――こうして俺は、冒険者としての第一歩を踏み出した。
次の目標は、クエストをこなしまくって、
この異世界でチートパワーをブチかますこと!
でもその前に――
アリスの拳、マジで容赦ないんだけど……。
次回:初依頼でまさかの大騒動!? 鑑定スキルが光るッ!