第3話 【イエロキー聖教国とロブルア神皇国】
チョコレートを食べた事のあるシャギーはともかくとしても、この様なお菓子を食べた事が無いクラウス将軍とネントレス子爵にも好評だったので、マミーナリサ女王はこのままこのチョコレートを、イエロキーの新たな産業として進めると決定をした。
甘い物とコーヒーとで一息ついた所で、ローランが話を進める。
「それでは、今後我がイエロキーでどのような事をなすべきか、考えをお聞かせて頂きたいのですが?」
「今後とは?」
ネントレス子爵の疑問について、マミーナリサ女王が口を開く。
「シャギーからの報告によりますと、北の魔族の国で新たなる魔王が誕生したとの事で、その影響で各国に異常な魔物の発生が起こっている様なのです」
イエロキーでは西の砂漠の『砂トカゲ』や『デザートドラゴン』。ブラクロックでは『氷雪鳥』やロザリードの領境結界での魔物の異常発生。アレッドカでは『二角ボーガル』や『魔海人』等々。恐らく東のロブルアでも、何かしらの事態が起こっているのでは無いかと女王は考えているようだ。
「『黒狼帝』は自身が『氷雪の荒野』からの魔物の侵入を守ると言っていたのですが、ブラクロックのアサール国王は『黒狼帝』に甘えるだけでは無く、自らも騎士や兵士を鍛えなおし、北の領境結界の警備を見直し、魔物の侵入から国を守るとおっしゃっておりました」
と、シャギーはブラクロックの今後の対策を口にしたが、本当は、
「『黒狼帝』に任せっきりにしてないで、自分でも何とかしろ‼」
と、国王に対して不敬と受け取られても文句が言えないような言葉で、発破をかけたと言う次第なのだが…………。
「成程、分かりました。では、儂は軍務を預かる者として、騎士と兵士を鍛え直し実力と編成を見直し、いつどこで何があってもすぐに対応できるように、備える事に致しますぞ!」
「それでは、私は新たなる情報を集める事に致しましょう」
「よろしくお願いしますね」
頼もし気に二人を見る、優しく微笑んだ女王陛下の声がした。
クラウス将軍とネントレス子爵は、シャギーに目を向ける。
「ロザリード卿はこれからどうなさるのか?」
ネントレス子爵の言葉にシャギーは、
「俺……うっうん! 私は、『黒狼帝』東に行けとに言われていますので、『ロブルア神皇国』に行く事にします。………その際にですが、女王陛下のお手を煩わせてしまうようで申し訳無いのですが、ロブルア神皇国の皇王陛下に親書を書いて頂けないでしょうか? クジョウ準公爵としてでもロザリード辺境伯としてでも、皇王に目通りを願うのであれば、親書が有るのと無いのでは全く違うと思いますので」
「分かりました。親書を書きましょう。ロブルアのアララギ皇王に、私が宜しく言っていたと伝えて下さいね」
ニッコリ笑いながらの女王の言葉に、なぜかそこに居た男4人は顔を引きつらせ、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
どう言った経緯か分からないが、イエロキー聖教国とロブルア神皇国は王家同士で、あまり仲が宜しく無いのである。恐らく、ロブルア神皇国の国教が『シホワロイト教』では無く『シイライシ教』だと言う事があるようだ。
シホワロイト教は、他宗教を信仰する事を認めているし排除する事なども無いのだが、長い間の信仰で、互いに行き違いや小競り合い等があった為、表面上は互いに友好的ではあるのだが、その他では、やはりわだかまりが有ると言う事なのだろう。
かたや、ロブルア神皇国の王家も、同じような理由でイエロキー聖教国の王家を、あまり良く思ってはいない様である。
ただ民間では、人の行き来などの交流が盛んに行われていて、経済的な繋がりはお互いに結構重要な国になっている。
「それはそれとして、ロザリード卿。おぬしは『五色帝神』全てから力を貰わなければならぬのであろう? 『黒狼帝』からは力を授かったのだろうが、他の『帝神』がどこに居られるのかご存じなのか?」
クラウス将軍の疑問はもっともで、
「いえ、分かりません…………ただ、『黒狼帝』が東に行けと言っていたので、行けば何かしらの手掛かりが有るのではと、俺は……私は思っています」
「成程のう。…………ロザリード卿、おぬし、もう自分の事を俺と言って良いぞ。いちいち言い換えていては、聞いてる方も鬱陶しいからな」
「…………も、申し訳ございません!」
ついうっかりの自分のミスを、素直に謝るシャギーだった。
「あと、ロブルア神皇国は、このイエロキーの次に歴史のある国なので、書物なり言い伝えなどが有るかもしれないと思ってます」
「そうですね。あの国には『姫巫女』が居ますから、その方からも話が聞けるかもしれませんね」
「『姫巫女』?」
マミーナリサ女王が口にした、聞いた事が無い『姫巫女』と言う言葉に反応するシャギー。
「ロブルア神皇国には、『姫巫女』と言う国を導くための聖女が居るそうです。その『姫巫女』がどのような力を持って国を導いているかは、ロブルアの絶対の秘密になっていて、私共でも調べる事は出来ませんでした」
と、悔しさをにじませたネントレス子爵が残念そうにそう言った。
「私が昔聞いた話では、『姫巫女』は『渡り人』では無いかと聞きましたが…………」
「『渡り人』?」
またしても、女王陛下から聞いた事の無い言葉が出て来た。
「私も詳しくは分からないのですが、何でも世界の壁を通り抜けてこちらにやって来る、異世界の人の事を『渡り人』と言うようですね」
「…………⁉」
(俺達のような転生者の他に、転移者もいるって事か。このラドランダーって言う世界は、いったいどうなってるんだ⁉)
この世界を取り巻く不快な疑問を、心の中で言ってはみたが、今はそれを深く考える時では無い。
いずれ、その疑問に対応しなければならない時がきっと来る。
そんな予感がシャギーにはあった。
「この後俺は、いったんブラクロックに行き、アサール国王からも親書を頂く事になっています。ロブルア神皇国に行くのはその後になります」
「アサール国王からも親書を貰うのですか?」
「念には念を入れての事です。もらえる物があれば貰っておけば、何かあった時に役に立つと思いますからね」
ローランとの会話を最後に、シャギーは女王陛下の御前を下がり、イエロキーの我が家に戻って行った。
「お帰り、兄さん。お疲れさま!」
ガックリ肩を落として、見るからに疲れ果てた様な姿のリョウに、セイはねぎらいの言葉をかけた。
「…………な、なんか、大変そうだね。行く時と今じゃ、10歳くらい年が違って見えるよ」
「ハァ~。俺は、肉体的な疲労は平気なんだけどな~、精神的な疲労はな~……とにかく疲れたよ」
お偉方に囲まれて、内密に重要な事を話し合うなど、神経をガリガリ削られる思いの話し合いは、リョウとしては出来ればしたくは無い。したく無いどころか、全力でご遠慮したいと思っている。
冒険者家業が長いので、気ままな暮らしが身についていて、正直に言わせてもらえるのなら、いまだに〔貴族なんてなりたくねぇーーーー‼〕と思っているリョウだった。
そんなリョウは、セイに言われるまでも無く、自分でも老けた様な気がしていたが、ミーニャの次の一言で一気に気分が上昇した。
「リョウさん。お風呂湧いてますにゃ~。ご飯の支度も出来てるです。今日は奮発してA5ランクの和牛のすき焼きにしたですにゃ~!」
「おお! やった! これは急いで風呂入って、ビールだな‼」
子供の様にすき焼きに喜ぶリョウを見て、セイは一言、
「現金な…………」
呆れていた。
風呂に入って、煩わしい事も汚れと一緒に流して来てしまったかのようにサッパリしたリョウは、ミーニャ特性すき焼きとキンキンに冷えたビールを堪能して、幸せな気分でその日を終わらせた。




