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第33話  【魔王討伐依頼 新たなる試練】

 魔族の王。いわゆる魔王である。


 リョウは黒狼帝に魔王を倒せと言われたが、到底受け入れる事は出来ない。と言うか、不可能だと思っている。

 力の差は歴然で、あのディールとでさえ雲泥の差がある。

 こうまで差が有るとなると、もう、悔しいとか言う感情を抱く気にもなれ無い。


 ましてや、あのディールの遥か上の存在の魔王である。

 正面切って正直戦う事など考えられない。目が合っただけでも、命が無くなりそうだと思う。


「確かに、私は魔族といささか係わりが有りますが、今の私の力ではあの者にさえ足元にも及びません。ですので、とてもとても、魔王討伐などは無理でございます」


 とリョウは言ったが、次の黒狼帝の言葉に度肝を抜かれた。


『ああ、あ奴か。確かに今のお前ではあ奴には敵わぬであろう。ああ見えてもあ奴は、魔族軍の三死将の一人だからな』

「は?」

『あ奴は、魔王軍三死将が一人『愉楽ゆらくのディール』と言って、魔族の中でも魔族の王の次に、力が有ると言っておるのだ』


 それを聞いたリョウは、

(何てこったい‼ 俺はとんでもない奴と関わっていたと言う事か⁉ ハァ~、道理で手も足も出ないはずだ…………)

 と、驚きつつも納得もした。


 しかし今更ながら、あの時に命を奪われなかった事に心底安堵するリョウである。



 何とも言えないこの状況の中、四人は何を話して良いのか分からず、ただお互いを牽制するように見合っていたが、そんな時、黒狼帝が独り言の様に話を始める。


『……………………しかし、あれはギャンギャンと煩い。静かに話も出来ぬ』


 黒狼帝は、結界にひしめき合っている魔物の群れに煩そうに目をやり、


ね』


 と、たった一言、言った。

 大きな声を出すでも無く、かと言って静かな声で諭すようでもない、しいて言えば体に付いた埃を払い落とすかのような、何事も無いような無造作の声だった。


 だが、次の瞬間驚くべき事が起こる。結界の外にいた無数の魔物達は一瞬のうちに全て霧散したのだ。


「「「「…………………………………………‼‼」」」」


 そこに居た四人は驚愕で、口をパックリ開け目が点になりなってしまい、そして、信じられない常識外の出来事に、誰一人として声を出すのを忘れたかのようになってしまった。


 だが、いち早くリョウが正気を取り戻し、

「黒狼帝様! その様な凄い力をお持ちなら、私などに頼らなくとも、ご自身の力で魔族の王を倒す事がお出来になるのでは無いのですか⁉」


 あれだけの力を見せつけられれば、誰だってそう考えるだろう。

 たった一言で『氷雪の荒野』を埋め尽くす魔物を消し去ったのだから。


『そうだな。力に関して言えば、お前の言う通りだと我も思う。しかし、我は、この大陸を守護する五色帝神ごしきていしんであり、この黒色の地を守護している。それゆえ、この地を離れる事が出来ぬのだ。他の帝神達も同じ事ゆえその地を離れる事は叶わぬ。我らとしても、力無き人間にこのような事を託すのは心苦しいのだが、致し方無いと思っておる』


 リョウは、

(いや、チョッと待てってくれよ! 致し方無いって、何だよそれは! そんな事させられるこっちの身にもなってくれよーーー‼)

 自分自身でも良く分からないが、声に出して抗議するのはなぜか憚られるので、心の内だけで抗議する。


 しかし、それで気が収まるかと言われても収まる訳では無いが、それよりも自分が選ばれた理由をリョウは知りたくなった。

「黒狼帝様のお考えは分かりましたが、何故私なのでしょうか? もっとふさわしい者が居ると思うのですが…………」

 と、問う。


 黒狼帝は言う。

『この地に住まう者達の魂には無い物を、お前達記憶持ちの魂にはある。それが、お前を選んだ訳ではあるが、もちろん、そこの薄金を纏う者の魂にもある』


 皆の目がセイに向く。

 今まで、他人事の様にリョウと黒狼帝の話を聞いていたセイが、まるでとばっちりを受けたかのように嫌そうな表情で聞き返した。


「…………僕ですか?」

『そうだ、お前だ。それなる赤を纏う者と共に我ら帝神の力を授ける。その力を持ってして魔族の王を倒せ』


 その黒狼帝の言葉には、異を唱える事が出来ない圧倒的な何かの力を感じ、くしてリョウとセイは、魔王討伐をする事が決定したのだった。


『では二人に我の力の一部を授ける。ここに参れ』


 もうこうなってしまっては出て行かない訳にもいかず、リョウとセイは黒狼帝前に出て跪く。

御前おんまえに」


『うむ』


 と、黒狼帝が頷いた途端に、リョウとセイは黒い光に包まれる。黒が光るとは不思議な事であるが、そう表現するしかない光だった。

 その光は、二人にとって温かく心地良く、しかもなぜか懐かしい気さえ感じたのであった。


『これで、我の黒の力の一部を授け終わった。五色帝神全ての力を授けられれば、お前達は魔族の王とも戦うにふさわしい力を得る事になるだろう。しかし、魔族の王を倒さぬ限り、また再び魔物達が押し寄せる事となるだろう。お前達がかの王を倒すまでは我がこの地を魔物から守る。心置きなくかの王を倒すがよい』


「ははっ‼」

 圧倒的な力と存在には、もはやただ従うしかないとリョウとセイだ。


『我の次は。東の青の地に青獅帝せいしていの元へ行け。そこで、新たなる力と、試練がお前達を待っている』


 その一言を残し、現れた時と同じように唐突に気配もろ共、黒狼帝は消え去った。



 辺りには、何とも言えない気まずい雰囲気が漂っている。

 真っ先に声を上げたのはアサール国王だった。


「リョウよ! あれはどう言う事だ⁉」

「どうって言われても、俺に分る訳無いだろ⁉ 訳が知りたいんならあの黒狼帝とやらに聴いてくれよ‼」


 実際、リョウだって何がなんやら訳が分からないこの状態を、自分が望んだ訳じゃ無い。正直、誰かが変わってくれるなら、速攻で変わってもらいたい位なのだ。


「まあ、俺に言えるのは、さっき黒狼帝が魔物から守るって言っていたけど、あんたもそれなりの準備をしておいた方が良いって事だよ」

「?」

「だ・か・ら! 万が一に備えろって事だ‼ 他人任せの国王じゃ民がついてこないぞ!」

 人差し指を国王の鼻に充てて、言葉を一つ一つ区切りながら彼を諭す。


「おお! そうだな。分かった。王宮に戻ったら早急に準備を始める!」

 

 例え黒狼帝が魔物達の相手をしてくれると言っても、国王としても国を守ると言う気概を見せろ、リョウは言っているのである。


 ふと、アサールのさっきからの態度で気になった事があるリョウは、

「ところで、あんたはこの国の建国から代々連なる王様だろ? 黒狼帝の事知らなかったみたいだな? 何ぜだ?」 

「なぜと言われても、知らない物は知らないと言うしかないだろ?」

「ハァ~。戻ったら、書庫かなんかで調べて見ろよ。羊皮紙のような古い書類に書かれてるかも知れ無いぞ」


 無知の知。

 知らなかったら調べろ。


「おお、分かった。それも早急に行うとしよう……………………」


 と、もの言いたげなアサールがリョウを見る。

 その視線を受けて訊ねるリョウ。


「何だ?」

「すまんが、王宮に送ってくれ。俺は、ここから一人で王宮に戻る事が出来ない」

「…………分かったよ」


 一つため息をついて、リョウとアサールは転移で消えた。

 と、思った所すぐにリョウ一人が現れた。

「えっ? 兄さん、やけに早いけど、どうしたの?」

「どうもしないさ。あいつを王宮のいつもの部屋に放って来ただけだ」

「放るって……」

 自国の国王に対する扱いがザツなリョウに、呆れるセイだった。



 次は、アルスラの事である。

 黒狼帝はこの地を魔物から守ると言っていたが、アルスラ達をここに置いて置くべきか、領都の屋敷に移すか、


「アルスラ。お前はどうしたい? ここに残るか、領都のロザリーに行くか? どうする?」

「…………少し考えさせてくれ。あの、黒狼帝とやらが確実にここを守ってくれると言うのなら、ここは居心地が良い場所だ。だが、もし何かあったら俺達は命が無くなる。俺は良いが、ゾフィヤとルーナは助けたいからな…………だから悩ましい」


 確かに、ここにはめったに人が来る事が無いので、身を隠して生活するには打って付けではある。しかし、危険と背中合わせなのも正直な話である。


「領都行き、俺達がアレッドカの人間にアルスラだとバレれば、お前にも迷惑が掛かるし、このブラクロックにもいられなくなる…………」


 二律背反のアルスラだった。



 結果として、アルスラはここに残ると決めた。

 あの、魔物を一瞬で消し去る黒狼帝が守ると言った。リョウが、結界は頑丈だと言った。

 なので、アレッドカの人間がアルスラを記憶から消し去るには、もう少し時間が必要だと思うアルスラは、ここに残る決心をしたのだった。


 その、アルスラの思いを受けてリョウは、この領境にアルスラ達が残るのを了承した。


今回で『アレッドカ共和国』と『アルスラ主宰の野望』編は完結になります。

次回からは『ロブルア神皇国』と『海底神殿』編を始めます。

8月中頃(お盆過ぎ)を予定しています、次編が始るのを楽しみにお待ちください。


暑い日々が続いていますが、皆様、体に気を付けてお過ごし下さい。

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