第31話 【就職決定と一大事】
領境の小屋は、小屋と言うには大きすぎるし、屋敷と言うには規模が小さい。しいて言うなら、豪農の母屋と言った規模であり、風情であった。
家の周りも、辺鄙な所であるにも関わらず比較的綺麗に整えられていて、生垣も有り庭のようなものまであった。
『二角ボーガル』の解体は長期にわたって行われていたので、解体職人の中には休みに、シャギー達の前世で言えば、ガーデニングのような事で時間を潰していた者達が居たらしい。
職人達は、それぞれが得意な物で時間を潰していたので、こんな場所には不釣り合いな物が多々あったりした。
今は手入れをされていないので形が崩れているが、蔓花で作られたアーチや、動物の形に刈り込まれたであろう低木等々。
それを見たアルスラは尤もな感想を口にした。
「何で、こんな物があるんだ?」
「ああ、何でも魔物解体職人たちによる趣味だそうだ」
「そいつらは、こんなもの作る余裕がある程暇だったのか?」
「時間的余裕は余り無かったみたいなんだが、俺が7日に1度は必ず休日を入れろと指示した結果、休みの日にこんなもの作るようになったみたいだな」
「そんな休みを入れる位なら、休みなしでトットと終わらせた方が効率が良いだろ?」
「考え方は人それぞれだ。俺は、俺が良いと思った事をしただけだ。その結果、けが人も病人も出さずに作業を終わらせる事が出来たからな」
シャギーは、僚佑と言う前世の記憶が有るので、体と心を休める為に、どうしても週休制度は採り入れたかったのだ。
その結果が、庭造りになったようだ。
一通り家の中も外も見て回った所で、シャギーはここでの仕事の内容を説明する。
「ここで、お前にやってもらいたい事は、領境結界の見回りと『氷雪の荒野』の監視だ」
「…………領境の見回りと言うが、相当距離が有るんじゃないのか? 俺にそれを見て回れと言うのか⁉」
驚くアルスラの言う事は尤もである。このロザリード辺境伯領の端から端まで結界が張られているので、それを見て回れと言うのは無理がある。特に、冬が長いこの国で最北の場所の領境。寒さと雪がとんでもない事になる。
そんな嫌そうな表情のアルスラを見て、シャギーはニヤッと笑い、
「まあ、普通に考えれば無理だろな。そこの所は俺に考えが有るんで心配するな」
と言ったが、その笑いを見たアルスラは、逆に不安感が増したようになってしまった。
「そんな顔をするなって。まあ、俺の話を聞けよ! ここの結界はデカい魔石が等間隔に10個設置してあって、それらを起点に結界が幕の様に張ってあるんだ。なので、その結界の為の魔石に異常が無いかを見回って欲しい。で、ここからが肝心だ。この10個の魔石の側には転移の魔法陣が設置してある。もちろん、今は俺の魔力でしか起動させる事は出来ないが、お前がこの仕事を了承してくれるのなら、お前の魔力で動かせるように魔法陣を書き換える。それにこの見回りも正直言って、1年に1度位で良いんだ。何故なら、ここ700年ずっと放置されていたもんだからな。正直、ほおっておいても良い位なんだ。だから、ここでの仕事は主に『氷雪の荒野』の監視だな。それも、結界を補修した今となっては、魔物の侵入はほぼ考えなくても良い位だと俺は思っている」
仕事の内容は理解できたアルスラだったが、
「まあ、仕事の事は分かったが…………これだけデカい家を俺と身重のゾフィヤの2人で住むのか? チョッと無理があるぞ?」
アルスラの当然の疑問に、シャギーは用意していた答えを口にする。
「このままここで住めとは言わねぇよ。第一、余分な部屋が有りすぎる。お前が要らないと言った部屋は減築するさ。それと、お前がここに住むと言ってくれるなら、家の雑用をする下男と家の中の仕事をするメイドを用意する。…………そうだな、こんな場所なんで、メイドは子供を取り上げた経験がある者を探すよ。後は、何か希望があれば、俺に出来る範囲で希望に沿うようにする。……ああ、それと、家の中と外に魔物から身を守るための地下壕も作るつもりだし、家を守る為の結界と防寒の結界も、もっと強力にするつもりだ」
この場所の過酷さを除けば、正直言ってアルスラ達にとって至れり尽くせりな条件である。彼の性格から言えば、当然考えるのは「何か裏がある」と言う事だ。
「何を考えている! 俺に何をさせようって言うんだ!」
そのアルスラの不信感一杯の強い言葉に、アッサリ答えたのは、今まで黙って二人の話を聞いていたセイだった。
「大丈夫だよ! 兄さんは何も変な事は考えていないよ。…………だって、兄さんだもん‼」
その、分かったような分からないようなセイの言葉の裏を、アルスラは正確に理解が出来た。
基本、シャギーは気を許した者には甘いのである。
口と態度でアルスラに厳しく接してはいるが、この男を何とかしてやりたいと思っている事を。
「成程。君の言う通りだな」
「でしょ⁉」
「…………?」
シャギー自身だけが、分かっていなかった。
かくして、アルスラは〔アルス〕とゾフィヤは〔ソフィー〕と名を変え、領境の監視人としてこの場所に居を構える事となった。
家の改造と魔法陣の改良などがあったので、本格的に住み始めたのは、二人がロザリードの館にシャギーを訪ねて来てから2月が過ぎていた。
ここに住む際に、シャギーはアルスラに約束したように、下男のベンと、ベテランメイドのハーナを連れて来てくれ、正直非常に有難かった。
もうすぐ、ゾフィーは出産の時期を迎える。人手は、無いよりあった方が良い。その上、出産に詳しいい者なら猶更である。
転移の為の魔法陣は、アルスラの魔力で動かすようにしてあるが、結界魔石の有る場所と領都に有る屋敷だけに通じる様に改良されていた。しかも、領都の屋敷に行く時には、通信用のミニ転移陣で何日の何時頃行くと、事前に連絡しておかなければ、魔法陣が起動しない仕掛けになっている。
それ以外の場所に行くのであれば、自分の足で自力で森を抜けなければなら無いのである。それは、戦闘経験も殆ど無く、体力的に非力なアルスラにとって、ほぼ無理な事だった。
結果、二人にとって、他者と接触する事も出来ないが、他者の悪意に晒される事も無い、静かな生活が出来るようになったのである。
アルスラが領境の監視人となってから早半年が過ぎ、ゾフィヤも無事に可愛い女の子を出産した。
子供が生まれて、これ程性格が変わってしまうのかとシャギーが驚く程、アルスラは親バカな父親になってしまっていた。
残念ながらシャギーの所は、未だ子供には恵まれていない。
嘘か真かは定かでは無いが、一説によると夫婦仲が良すぎても子供が出来にくいとかなんとか…………。
この日リョウとセイは、ブラクロックの王都ホラストロイズの中心街に来ていた。
アサール国王に至急来て欲しいと連絡を受け急いで来たが、何の事は無い街へのお忍びの供に付き合えとの事で、現在に至っているのである。
「うむ! やはりお前達と街に繰り出すのが一番楽しいぞ!」
(いや、俺は勘弁して欲しいって! 何かあったらただでは済まないからな‼)
(やっぱり、この王様って〔◯れん坊将軍〕みたいだよね)
お忍びとはいえ、相手は国王陛下であるので、護衛はリョウ達だけでは無く、目立たぬように結構な人数が彼らに付いている。
そんな、三者三葉の思いをしていた時である。リョウのマジックバッグもどきからアラームが響きだした。
リョウはここの所忙しい日々が続いていて、女王陛下や国王陛下と言った高貴な方々からや、ギルマスとかシュテハンと言った、親しい人からの連絡を家で受け取る事が難しくなっていた。
なので、手紙の転送先をアイテムボックス(取り出しはマジックバッグもどき)に変更し、尚且つ届くとお知らせアラームもどきが鳴るようにしてあるのだ。
差出人は、領境のアルスラだったが、筆跡も乱れだ殴り書きだ。
内容は、〔助けてくれ‼〕ただ一言だ。
それを見たリョウは、瞬時に領境に転移した。
が、手紙を見ていたのはリョウだけでは無かった。セイは良いとしても、アサール国王もその手紙を覗き見ていたのだ。
リョウが転移をするその瞬間、セイと何とアサール国王もリョウに掴まったのだ。
そして、3人共が領境に転移してしまい、リョウは頭を抱える事になってしまった。




