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第30話  【領境結界の管理人って、どう?】

 セイの提案は、シャギーにとって渡りに船だった。


『二角ボーガル』の解体作業用に立てた建物だったが、急ぎで建てた割にはしっかりした建物で、魔物除けと防寒の為の魔法陣を施してあるし、取り壊してしまうには惜しいと常々思っていたのだ。


 中は、大人数の解体作業の者達が寝起きする為に作られた家なので、全体的に大きめに作らてはいるが、居間と台所、トイレ、風呂もちゃんとあり、その他に、主寝室に出来る少し大きめの部屋もある。

 後は、優に10人が寝起きできる大きめの個室が10室あるが、使わないのならば減築してしまえば良いだけである。


 しかし、問題が無いわけでは無い。

 領都と離れすぎていて、行き来がままならない場所だからだ。ハッキリ言って、それが一番の問題と言って良いのである。


 緊急事態が起こった時、すぐに対処が出来ない。例えば『氷雪の荒野』から魔物が大挙して現れたとか、この前の様に領境の結界に不具合が発生したとか等々。


 まあ連絡方法は、以前リョウが開発したミニ転移陣で、手紙を送れるからそれ程困る事は無いが、もし急病になどなった場合医者の手配をどうするかが問題になってくる。


 しかし、今ここで名案が浮かぶ訳では無いので、とりあえずこの領境での監視人と言う仕事をアルスラに、提案してみる事にした。



 入り口脇の応接室に戻ると、アルスラとゾフィヤはまたも膝を付いていた。


 その様子を見たシャギーは、とても嫌そうな表情で言葉を荒げる。

「だから! それはやめろ! お前らはそうする事で満足だろうが、やられる俺は非常に不愉快だ‼ 今度また同じような事をしたら、ここからたたき出すぞ!」


 誠意を表すのに良かれと思った行動がシャギーの癇に障り、逆に不興を買ってしまい失敗したとアルスラは思ったが、

「ホントに、そう言う事をするのは止めてくれよな。ただでさえ、貴族になってから他人に頭を下げられて、辟易してるのに。…………まあ、正直言って、お前の事は許せんが、そう言う事はして欲しくは無いんだよ」

 本当に嫌そうに、そう言うシャギーの甘さは健在だった。


 アルスラであれば、そこはたとえ親友と呼ばれる存在であっても、自分に不利益をもたらすとなれば、キッチリけじめを付けさせるが、シャギーはそこの所が緩いのである。


「すまない。気を付ける」

「ああ、そうしてくれ」


 短いやり取りだが、以前の気安い雰囲気が漂う。


 シャギーは手に持っていた首輪をアルスラに見せて、

「これからこの首輪をお前に付ける。これにどんな機能を付けたかを教える事は出来んがな。まあ、ただ、色々工夫はしたんで覚悟しとけ! ああ、それから、これは俺の魔力でしか外せないから、無理に外そうとしない方が良いぞ」

 と言いながらシャギーは、アルスラの首に従属の首輪を嵌めた。


 元よりアルスラは覚悟をしていたので、それをすんなり受け入れる。


「何か違和感は有るか?」

「…………特には、無いな」


 従属の首輪の付けごごちを聞くシャギーにアルスラは、

(シャギーは、やはり甘ちゃんだな。こんな物の付けごごちを聞いて来るなんて)

 シャギーのその従属に関する感覚が少しズレていると、今さらながら思うのである。



 アルスラへの従属の首輪を嵌め、その件が片付いた所で今度は仕事の話に移る。


「仕事の件だが、お前に丁度いい仕事があった。ただし、かなり過酷な場所になる」

「過酷? 俺は良いが…………そんな所に身重のゾフィヤは連れては行けん! 贅沢言える立場じゃない事は重々分かっているが、もっとゾフィヤの事を考えてくれ!頼む!…………出来れば彼女に負担をかける仕事は勘弁してほしい!」


 自分自身はどうなっても良いが、愛する女が安心して子供を産める環境がほしい。

 以前のアルスラだったら、例え愛している女でも、目的の為なら一つの駒として使う事にためらいは無かっただろうが、こう、身を崩して底辺を彷徨ったせいか、ゾフィヤは彼にとってかけがいの無い存在になっていた。


 なので、そんな所に送られてはたまらないと焦ったアルスラを、シャギーはなだめるようにしながら話を続ける。


「まあ、話を聞けよ」

「しかし…………」

「断るのは、俺の話を聞いてからでも良いんじゃないか?」

「…………分かった。話してくれ」

 アルスラは一応、話だけは聞く態度になった。


 そして、シャギーは先ほどセイに提案された事をアルスラに話始める。


「この間の『二角ボーガル』をここの『氷雪の荒野』で解体しただろ? その時、作業員が寝起きする為の家を領境に急造したんだ。まあ、場所が場所だけに、いい加減な物を建てる訳にはいかないんでな、結構しっかりした物を建てた。その上、魔物除けと防寒の為の魔法陣も組み込んである。でだ、解体も無事に済んだし、今度はその建物をどうするかと言う事になってな、取り壊すには勿体ないと思っていた所に、お前が来たと言う訳だ」

「そこに、俺達が住めと言うのか?」

「早い話、そうだ」

「しかし、以前誰から聞いたか忘れたが、『氷雪の荒野』とは魔物の巣みたいなの物だと聞いたぞ。そんな所に彼女を連れて行きたくない!」


 アルスラの『氷雪の荒野』への拒否感は、かなり強いようだ。普通に考えても『氷雪の荒野』のような人も住めないような場所に行きたがる者は居るまい。

 そんな場所にシャギーは行けと言っているので、アルスラの拒否は当然だと思う。


 しかし、彼にお構いなしにシャギーは説明を続ける。

「まあ、その認識は間違ってはいないが、正解でも無いな。確かに魔物はよく出現するが『白の魔森』程では無いぞ」

「どう言う事だ?」

「ここロザリードの初代辺境伯がとんでもない人物でな、領地をその魔物達から守る為に、『氷雪の荒野』と領境を分ける大規模な魔物除けの結界魔法を張ったんだ。そして、その結界は700年たった今でもちゃんと機能している」


 シャギーはアルスラを安心させる為に、初代ロザリード辺境伯の偉大さをほんの少し大袈裟に言ったが、ここでセイがそれをひっくり返してくれた。


「でもこの間、綻びが出来ちゃったけどね」

「セーーイーー! 言わなくても良い事言うんじゃねぇ!」

 アルスラを安心させる為の情報なのに、余計な事を言うセイを叱るが、セイも何故かむきになって反論する。

「ホントの事じゃん! それが元で兄さんが御領主様を、やらなきゃならない羽目になったんでしょ⁉」


 二人のやり取りを見ていたアルスラは、セイがシャギーをいかに大切に思っているか、分かってしまった。

「…………なんか、色々複雑な事情があるみたいだな」


 さすがにシャギーも観念したようで、

「確かに、さすがに700年も経てば、どんなに凄い術者の魔法でも綻びは出ると思う。しかな、逆を言えば、700年たってようやく綻びが出たとも言えるんだぜ」

 良いのか悪いのか判断に困るような事を言った。


 だが、アルスラはその結界がそのままの状態であると思ってしまい、

「しかしその状態では、いかにお前の魔物除けの魔法陣が家に施されていても、俺は安心できない!」

「心配するな! その綻びは、全て俺が直した。この先700年とは言えねぇけど、2~300年はその領境の結界は保つさ!…………まぁ、その代償が俺の領主就任になったんだけどな」


 もう、その結界は自分が修繕したので彼に安心しろと言ったのだが、つい言わなくても良い事まで言ってしまい、セイに速攻で突っ込まれる

「え~! 領袖の事はマリアー…………ムグムグ」

「余計な事、言うんじゃねぇ‼」

 慌ててセイの口をふさぐシャギー。

 マリアーナを泣かせてしまった事は、彼にとっての黒歴史なのである。


 挙動不審だったシャギーも、その場の空気を一掃するように、努めて明るくアルスラに話しかける。

「……と、とりあえず、その場所を見て欲しい。その時に詳しく説明するから」

「まあ、見るだけは…………って、ここからそこに行くまでどれくらいかかるんだ⁉」

 行くのは良いが、領境は字のごとく領地の端である。どうやって行くのか、また、どれくらい掛かるのか心配になるアルスラ。


 それに対して、シャギーはいとも簡単に答える。

「ん? 行こうと思えば今すぐ行けるぜ。なんてたって、俺には転移が有るからな」

「…………ああ、そうかい……」

 もう、何でもありのシャギーに、諦めの心境になったアルスラであった。


 と言う訳でリョウとセイ、アルスラ達三人は転移で件の領境の家にやって来た。ゾフィヤは身重の為、今回は領都の屋敷で、留守番と言う名の人質のような扱いになっている。


 初めて転移を体験したアルスラは、短い時間にも関わらず軽い乗り物酔いのような気分を味わい、顔色を悪くしていた。


「大丈夫か?」

「…………大丈夫だ」

「無理するな、顔が青いぞ」

「…………お前、いつもこんな事していてよく平気だな⁉」

「特に、何でも無いな」

「………………。」


 シャギーのあっけらかんとした態度に、言葉が出ないアルスラだった。


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