第29話 【従属の首輪】
セイの言葉に脱力していたシャギーだったが、
「まあ、お前の勘は良く当たるからな。俺も信じてみる事にするか」
と、シャギーも信じてみても良いかと考えた。
その言葉を聞いたアルスラが、シャギーに差し出した物がある。
従属の首輪だ。
「お前が、俺を信じたくない気持ちは分かる。だから俺にこれを付けてくれ!」
シャギーは奴隷制度に反対である。
アレッドカも新しい宰主が、最初に行ったのが奴隷制度の撤廃だった。
なので、仮にも親友だった男に従属の首輪を、自分に付けろと言われても、嫌悪感で言葉が荒くなる。
「アルスラ! 俺は、奴隷などと言う物は好きじゃ無いと、何度言ったら分かるんだ‼ そんな物、俺に寄こすな‼」
「しかし、こうでもしなきゃ、お前は安心できないんじゃないか⁉」
「…………」
確かに、アルスラにことごとく信頼を裏切らて来たので、おいそれと信じる事は難しい。だからと言って、従属の首輪を彼にはめるのには、物凄く抵抗があるシャギーだ。
「兄さん、チョッと」
と言って、セイが手招きして来た。
「何だ?」
「良いから、ちょっと来てよ!」
シャギーはセイに引っ張られるように部屋の片隅に行き、アルスラ達背を向け、用心の為に日本語で話をする。
〔とりあえずさぁ、あれ受け取って、あの首輪の機能を、兄さんの魔法で許容範囲にいじって、あの人に嵌めちゃえば良いんじゃないの?〕
〔…………ハァ?〕
セイの言っている事が、すぐに理解が出来ないシャギーだ。
〔だからぁ~、あの首輪はさ、逃亡防止の為の機能で、主人の命令に従わ無いと、奴隷に激しい苦痛が与えられたり、居場所が特定されたりするような機能が付いているんだよ。僕は、あまり詳しく知らないけど、契約魔法の一種らしいよ。兄さんだったら、魔法で苦痛の機能を無くしたりするのは、朝飯前でしょ?だからさ、兄さんの気に入らない所をチョコッといじって、あの人には何も言わないで付けちゃえば良いって事だよ。そうすれば、あの人も納得するんじゃ無いの?〕
〔セイはあの首輪の事に、やけに詳しいんだな?〕
〔…………忘れたの? 僕はずっとあれを付けてたんだよ…〕
この十年くらいはセイの事を弟として過ごしてきたので、シャギーはセイが元々奴隷だった事をすっかり失念していた。
〔あっ、すまん! 悪かった!〕
〔良いって。それだけ兄さんが僕の事、本当の弟だと思っていてくれてるって事だから、むしろ、嬉しい位だ!〕
成程、セイの提案には一理ある。
そうなると、苦痛を与える機能は削除して、位置情報とシャギーの魔力でしか外せないようにしておけば安心できると…………思ったが、こちらに害が無いのであれば、勝手に出て行ってもらっても全く構わないのだと気が付いた。むしろ、その方が良いとさえ思えて来た。
とすると、位置情報の必要性もシャギーの魔力による縛りも、要らないのかもしれない。
そして色々考えた結果、シャギーはアルスラの提案を受け入れる事にした。
「しょうがない。お前がそれで納得しているのなら、俺がとやかく言う事は無い。ただし、仕事の斡旋は少し待ってくれ。俺もすぐには仕事見つけなれないからな」
アルスラは小さくホッとため息をつき、首輪を差し出してきた。それを受け取ったシャギーは、
「悪いが今すぐこれをお前には付けない。この首輪の機能を確認してからだ。そんなに時間は掛からなから、ここで少し待って居ろ!」
そう言ってセイと共に部屋を出て行った。と、思った所、すぐに扉から顔を覗かせて、
「言っておくが、この部屋には脱出不可の魔法をかけたから、出られるとは思うなよ!」
と言って、今度は本当に行ってしまったようである。
後に残されたアルスラとゾフィヤは、互いに顔を見合わせて、
「俺達は、どこにも行く当てが無いんだから、出て行くなんて事はしないよな?」
「…………そうよね…」
ほんの少しの呆れを含んだ、二人の会話になってしまった。
シャギーは執務室に戻り、従属の首輪を調べ始めた。
なかなか厄介な魔法陣が組み込まれていて、解析が面倒くさい事になっている。
「…………ハァ……」
ため息をついたシャギーに、傍で手元を覗き込んでいたセイが、
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いわ! 何でこんなにややこしい魔法陣を組んであるんだ⁉ これを作ったのは誰だか知らないが、良い性格してるぜ! まったく‼」
複雑な、そして非常にいやらしい効果が発動するように、魔法陣が組んである。
まず、奴隷契約をした主人の魔力で奴隷を縛り付け、命令に逆らうと死なない程度の激痛が奴隷に与えらる。5回命令に背くと今度は首輪自体がじわじわと締まっていき、最後は首がねじ切れるように仕組んである。
奴隷を買った者も、高い金を出しているのでそう易々と死なれては困る。なので、新しく買った奴隷の中で、安くてあまり使い道か無いような奴隷を見せしめの為に、ワザと逃がして他の奴隷達の前で殺す、と言うような事をやっていた者もいたようだ。
後は、逃亡防止の魔法陣。これは、現代で言えばGPSのようなものだが、契約上の主人の許可が無い限り、一定以上の距離を離れると、これもまた首がしまってしまうようになっていた。
その魔法陣の仕組みを聞いたセイは、思いだした事があった。
「そうなんだ、どおりでどうやっても逃げられないはずだ」
「おっ、お前! 逃げようとした事あったのか⁉」
「僕じゃ無いよ。一緒にいた仲間の一人ががね…………逃げようとして、掴まって、それ以来会う事は無かったかな」
二人の話を黙って聞いていたシュテハンだったが、以前セイから直接、自分は以前奴隷だった事、そしてシャギーが奴隷から解放してくれた事を聞かされていたが、改めてその話を聞き、シャギーと同じように嫌悪の表情になってしまった。
「こんな物がいまだ有るなんて、私には信じられない‼」
「それだけ、あいつは奴隷の売買による収益を重視していたんだろうよ」
手元の首輪の魔法陣を書き換えながら、シャギーは投げやり気味に、嫌悪の表情でシュテハンに答えていた。
そして結局、首輪の機能は、シャギーの魔力でしか外せないだけにした。
このロザリードに不利益が出無い限り、勝手に出て行ってもらっても一向にかまわないからだ。
しかし、この首輪を知る者が見れば、従属の首輪と分かってしまう。それ自体が、アルスラにとっての枷になる。それを分かった上で、彼はこの首を付けると言ったのだ。
ようやく魔法陣の書き換えが終わったが、今度はアルスラに与える仕事を考えなければならない。
他の国々と同じように、アレッドカから流れて来た者に、アルスラだと分かってしまえば、結局石もて追われるようになってしまう可能性が高い。他者とあまり関わらずに、尚且つ、安心して子供を産み育てる事の出来る仕事。
シャギーは(そんなもん、有るか⁉)と心の内で叫んでいた。
「…………」
ここで、セイが何か言いたげな目をシャギーに向けて来た。
「何だ?」
「ん~。ちょっと…………」
「?」
言い淀むセイに、シャギーも疑問の視線をセイに向ける。
「言いたい事があったら言って良いぞ! 俺とお前の仲だろ?」
「フフフㇷ……。なんだかそれが一番怖いよね」
セイは、シャギーの言い方が、いつも通りなのが嬉しくてつい笑ってしまった。
「ん、あのね。…………ほら、『二角ボーガル』の解体作業の為に立てた、領境の作業小屋があったでしょ? あれを壊すのは勿体無いってこの間言ってたじゃない? だから、あの人にそこに住んでもらって、領境の監視人をやってもらえば良いんじゃないかと思ったんだ」
ナイス、アイデアだった。




