第9話 【イースとハンバーガー】
ステータス画面を表示する事が出来たので、
「とりあえず、『検索』のスキルの所を触ってみろよ」
「うん」
イースが『検索』のスキルの場所を触って現れたのは、
「……これは、まんま◯-グル検索だな」
「さっきの話で、こうなっちゃったとか?」
何でこんなスキルが有るのか謎である。
検索画面が出たからには、何が出来るか確認した方が良いだろうと思い、
「何を調べる事が出来るんだ?」
「でも、キーボードが無いよ。……あっ!ここにマイクの絵があるから、音声入力かな?」
「じゃぁ、何か聞いてみろ」
とりあえず、
「ん~、イエロキー聖教国の聖都は?」
《サマリーアート》と表示され、
二人そろって、
「おお‼」
「じゃぁ、神奈川県の県庁所在地は?」
《横浜市》と表示されて、
またも二人そろって、
「おおおおぉ‼‼」
シャギーは興奮して、
「これは良い‼ このスキルは錬金術士に持って来いなスキルだな!」
「どう言う事?」
「錬金術を行う場合、術者は『森羅万象を理解していなければならない。』と言われる位、物事に精通していなければならないんだよ」
一般的に錬金術士は、様々な要素を錬金術の術式に組み込む。その時に何を知っているか、何を理解しているかで、錬金術の成功不成功が変わってくる。なので、このラドランダーの知識と、前世日本の知識、どちらも調べる事が出来るこの『検索』と言うスキルは、錬金術士にとっては打って付けなのである。
「良かったな、こんな良いスキルが有って」
「うん、これもシャギーのおかげだよ」
と、嬉しそうに笑い返すイースの顔を、眩しそうに見るシャギーであった。
ふと、シャギーは窓から見える太陽を見上げ、
「もうこんな時間か、昼飯にするか?」
「えっ、昼ご飯食べるの?」
この世界は、基本、朝と夜しか食事をしないのである。
「まあ、今まではそうしていたが、これからは昼飯も食って、お前のその細っこい身体を何とか丈夫にしないとな!」
イースは『光の聖剣』に居た時、朝夕どころか、まともに食事がもらえない事も度々であった。シャギーは、無理やり食べさせるいじめを装って食事をさせていたが、本人にその気が無いと食べた物も、吐き戻したり身に付かなかったりで、結局効果が無かった。
「もしかして、以前、僕に無理やり物を食べさせていたのは?」
「…あぁ…まぁ、少しでも栄養が取れたらなって思ったんだけど、逆に、お前に辛い思いをさせってしまったようだな」
「…………そうだったんだね。分かっていれば、もう少し食べる事が出来たかな?」
「まっ、過ぎた事だ。それよりこんな物食うか?」
シャギーが、アイテムボックスから取り出した物に、驚き興奮して、
「…………‼‼ ビッグ◯ック。コーラだーーー‼」
「遠慮しなくていいから、どんどん食え! おかわりもあるからな」
しばらくして、
「いや、食えって言ったけど……そんなに一気に食って大丈夫か?」
「……もう、おなか一杯。動けないよ~!」
「ハンバーガー3個に、Lサイズのポテト、コーラにシェイク。どう見ったって食いすぎだろ⁉」
「ん~ 気持悪い~ 吐きそう~」
「ハァ、……これは、胃腸薬が必要だな」
ため息をついて、胃腸薬を取り出すシャギーであった。
二人で前世のファストフード堪能した後、
「今度は、俺のステータスを見せるから」
シャギーは、「ステータス オープン」も口にしないし、もちろん変身ポーズもしないで、ステータスを表示させた。
「なんかズルい!」
「さっきも言ったが、慣れればこんな事なんでもなく出来るさ」
シャギーのステータスは、
・名前 シャギー(リョウ)
・種別 人族(異世界からの転生者 九条僚佑)
・ジョブ 聖魔導士 片手剣士
・レベル 69/100
・HP 571/999
・MP 663/999
・攻撃力 73/100
・防御力 67/100
・俊敏性 77/100
・魔法属性 全属性魔法(+魔法作成)
・スキル 魔法付与(人・物すべての物に全ての属性魔法を付与できる)
・固有スキル 百貨店 マジックボックス(容量無限 時間制限なし) 鑑定
・称号 賢者
ステータスを見たイースは、
「……すごい数字だね。それに、称号があるし。賢者って……」
「ダンジョン攻略を仮病でパスした時に、集中して魔術具の製作や魔法陣の解析をしていたら、気が付いたら賢者の称号が付いていたんだ」
シャギーは言う、
「その称号が付いてから、魔力の扱いが楽になったし、使う魔力量も少なくなったんだよ」
「へぇ~。すごいね」
「しかしなぁ~、それからずっと、魔法を解析したり、研究したくてたまらないんだよ。…………まぁ、第一ジョブが聖魔導士だしな」
実際、『光の聖剣』に居た時も時間があれば、メンバーに知られないように、魔法の研究を日常的にしていたが、賢者の称号が付いてからは、暇があると魔法の解析をしたくなる。もちろん旅の途中もやりたかったが、人目が有るので出来ず、禁断症状みたいな気分である。
イースは、再び恥ずかしい変身ポーズで、自分のステータス画面を出してみているうちに、少しおかしな事に気付いた。
防御力を指さし、
「僕のステータスで、防御力が他と比べて高い気がするんだけど、何でだろう?」
シャギーは、当時を思い出すように、
「多分、それはあの時の俺のシゴキのせいじゃないか?」
「?」
「あの時、お前に剣の修行と称して、実は剣のさばき方を教えていたんだ。少しでも生き残れる可能性を上げたかったからな」
「そうだったんだ…………」
申し訳なさそうに、
「少し……いや、かなりハードになってしまったがな」
「……うん、いつも終わった後は早く死んでしまいたいと思ってからね」
その言葉に、自分がどれだけイースの心を傷つけていたか、シャギーは沈痛な思いになる。
「………すまなかったな。でも、正直に言ってお前の防御はかなりの物になったしな。最近はお前の相手をする時に、身体強化の魔法を自分に2倍掛しないと、お前の相手が出来なかったからな」
「…えっ、そうなの?」
「そうさ、俺も正直きつかったよ。結構息も上がっていたし、腕もしびれていたしな。まぁ、何でもないふりは頑張ってしていたけどな」
くすくす笑うイース。
シャギーは、イースの腰にあるナイフに目をやり、
「ちょっと、お前のそのナイフ、かしてみろ」
「そう言えば、このナイフもシャギーがくれたんだよね?」
「護身用にと思ってな。ただ、一見すればただの錆びたナイフだが、これには隠ぺいの魔法を付与してある」
「えっ、⁉」
「まあ、見てろ」
隠ぺいの魔法を解くと、そこには薄青く光るきれいな小剣が現れた。
「これは、俺が『光の聖剣』に入る前に、一人でダンジョン攻略した時に手に入れたもんだ」
まだ、半人前とも言える年齢で、しかも一人でダンジョン攻略をするのは、正気の沙汰ではない。
「まぁ…、手に入れたのは良いけど、半死半生な目にあったし、かなり無茶をやらかした自覚はあるんだ」
小剣をイースに渡し、それを見つめながら、
「でも、これ程の物を手に入れられたのは良かったよ」
「何なの?」
「これは、オリハルコンでできた小剣だ」
それを聞いたイースは、驚き、慌てて、
「‼…えっ、そんな貴重もん、僕が持ってる訳にはいかないよ! 返すよ!」
とシャギーに返そうとするが、
「いや、お前が持ってろ。これからこの先、これがイースの命を守ってくれる事になるかもしれないからな」
「でも、……」
なおも返そうとするイースに、シャギーは、優しくそして力強く、
「持ってろ。今まで持ってたんだしな!」
「……うん。分かった、大切にするよ‼」
シャギーの優しさを、小剣と共に受け取ったイースであった。




