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第27話  【新制アレッドカ ディラン宰主誕生】

 いつもの部屋に、静かに優しいコーヒーの香りが漂う。


 リョウは綺麗な所作で、フレーバーコーヒーを女王陛下の前に置いた。

 その香りの良いコーヒーを楽しみながら、マミーナリサ女王は話を始める。


「今回の件、ご苦労様でした」

「いえ、陛下に労いのお言葉をかけて頂けるような、大層な事はしていませんので、お気遣いは無用ございます」

「ですが、友を一人失ったのですから…………」


 マミーナリサ女王は、今回の事でリョウが、親友だったアルスラと決別した事に心を痛めているのだ。


 リョウとしても、幼い日のアルスラとの思い出は大切だったが、二人が成長するにしたがって意見の衝突が顕著になり、今回再会した時にはもうすでに、関係の修復や改善は不可能な状態になっていた。なので、こう言う結果になってしまったのも、致し方の無い事だと割り切っている。


「…………それこそあいつとは、私が15歳の時アレッドカを離れる際に、すでに決別していたようなものですから、どうかお気になさらずに…………それに、死に別れてしまった訳では無いので、生きてさえいれば、会おうと思えば会う事は出来ますから」

「そうですか、分かりました」


 この後、リョウとアルスラに関する話は、この二人の間で交わされる事は無かった。



 その後、イエロキー・ブラクロック・ロブルアの三か国は、丁度真ん中の位置にあるブラクロックに関係者が秘密裏に集まり、各国に密かに巣くう闇組織の事で話し合いを行った。その際、リョウが手に入れた証拠類が非常に役立ち、各国の末端組織を壊滅に追い込む事になるのであった。



 今回の騒動の大本おおもとであるのアレッドカでは、アルスラ宰主に対する不信が国中に広がって行き、新たな宰主を求める声が日に日に大きくなって行った。

 そこで、新たに宰主を決める国民による選挙が、役所及び各ギルドが協力し合って行われる事となったのである。


 アルスラ自身も、もう自分に求心力が無い事を分かっていたので、何も言わず宰主の座を降りた。その際、彼に付き従っていたのは彼の元情婦で、今は妻となったゾフィヤただ一人であった。


 アルスラとしては、すぐにでもアレッドカを出て行きたかったのだが、宰主の仕事の引継ぎなどがある為、宰主選が終わるまでは出国などは認められるはずも無く、無為な日々を過ごしていたが、犯した罪の多さから警吏に掴まり収監される事になってしまった。

 裁判は行われる予定ではあるが、宰主選が済むまでは時間も人手も余裕が無い状態なので、結局牢でも無為な時間を過ごす事となった。


 そうこうしている内、新たな宰主を決める選挙が行われ、自薦他薦を含め10人以上が立候補したが、断トツ一位で当選したのは、あのギルマス代理のディランだった。


 その真摯で真面目な性格と人あたりの良さ、裏表なく人と接し仕事の手際も良い。元々、冒険者をしていた時から人望は有ったのだが、『魔海人』が現れた時の彼のその行動が決め手となった。その時の彼は、『魔海人』に襲われ自分が犠牲になるかもしれない事が分かっていてもなお、人の先頭に立って尽力した事は多くの人が目にしていて、今回他薦での立候補となり当選したのである。



 引継ぎの為に、今は罪人になって収監されているアルスラを宰主邸に呼び出し、ディランは彼と話をする事にした。


「アルスラ宰主…………」

「宰主はお前だ。俺はもうただの…………フッ……いや、犯罪者のアルスラだよ」

 ディランの問いかけに、アルスラは自分を卑下するように笑い、返事をする。


 何処でどう間違ってしまったのかと自問自答したが、アルスラには初めから答えは分かっていた。

 昔、シャギーの忠告に耳を傾けていれば、こんな事にならなかったのでは無いか。そうしておけば、今もシャギーはここで自分の為に、その知恵と力を貸していてくれたに違いないと。


 だが、当時のアルスラは、自分がやっている事に自信があったのだ。たとえそれが人道に反する事であっても、後々それがこの国を豊かにするのであれば、許されると思っていた。

 しかし、実際はこうして自分はみじめな犯罪者として糾弾され、宰主の座を追われたのである。


 ディランは真摯な表情でアルスラに話しかける。

「私は、あなたを尊敬していたのです。…………いえ、私だけではありません!多くの人があなたを救国の士だど思っていたはずです! なのに、なぜこのような事をなさったのでしょうか? 正直、私には信じられません⁉」

「フッ、今更な言葉だな。…………俺は、この国を豊かにする為の手段として、ああいった事をしたに過ぎない。例えそれが人道に反しても、金があれば国が富むと信じていただけだ」


 アルスラの子供時代は、まだアレッドカも王政だった。イエロキー・ブラクロック・ロブルアの三か国はもうすでに大国として名を馳せていたが、アレッドカは未だ中規模に毛が生えた程度の国だった。

 それも、貴族たちが自分の利益の為に、それこそアルスラが行っていた事以上の、非常な事を国民に対して行っていて、貴族同士のいがみ合いや潰し合いで、国政は正直破綻寸前になっていたのだ。

 ただ、アレッドカにはダンジョンが無数にあり、その収益でどうにか国としての体制が保たれていたに過ぎない。


 そのような暗い時代のアレッドカで、アルスラは子供時代を過ごしていたので、いつかこの国をラドランダー大陸一の大国にすると言う野望を、いつしか彼が夢に見る様になっても仕方の無い事だった。


 そんな時、運命は彼に手を差し伸べた。シャギーと言う、彼の片腕になるべき存在が現れたのである。


 彼の考え方や行動は、アルスラが今まで思いもしなかった事ばかりで、まさに目から鱗が落ちる思いがしたのである。

 驚愕だったのは、あの厄介物のラナチクから砂糖を作り出し、国の経済を一変させた。その稼いだ資金を元に貴族たちを懐柔し服従させ、果ては共和制度等と言う、国民主体の政治体制を提唱したのだから。


 その頃になって、アルスラはシャギーが記憶持ちでは無いかと疑うようになっていく。


 シャギーはその頃11歳で、そんな年頃の子供が、その様な難しい事を考え付くとは思えないからだ。前世の異世界の記憶を持っていると考えると、その突飛な発想が出来る事に納得が出来たのである。

 そう思い彼を問い詰めると、あんのじょう記憶持ちだったのだが、シャギー自身は自分がいかに年に似合わない異常さであるか自覚が無く、アルスラから見ると非常に危なっかしく思えたのだ。

 で、呆れながらもシャギーに、もっと自重して行動しろと、注意をしたアルスラだった。



 数日後、無事に宰主としての引継ぎも終わり、ここに第2代アレッドカ宰主ディランが誕生した。


 彼は精力的に政務をこなし、国民に対しては、

 〔今は、非常な時なので国民の皆には、苦労や嫌な思いをさせる事になるかも知れ無いが、耐え忍んでどうか協力をして欲しい〕

 と頭を下げて頼んむ姿に、国民は好感を持ち、彼に協力する事を惜しまなかったのである。



 一方、アルスラは正式な裁判が行われ、傍聴人が引いてしまう位多い罪状が、次々に明らかにされて行った。なので、審議が長期間にわたり行われ、結審したのは裁判が始まってから1年も経った頃だった。


 そして、喧々諤々の末に決まったアルスラの判決は、アレッドカ国民の身分をはく奪の上、国外退去となったのである。

 ある意味、温情の有る判決だった。過激な者達は死刑が妥当だと強固に主張したのだが、反面、この国のあり様の根幹を作った功績が有るのも、確かな事である。それゆえ死刑だけは免れたのだった。



 アレッドカ西の国境門都市セノイーバ。その、国境門を外からそれぞれ見上げる二人の人物がいる。アルスラとゾフィヤだ。


 二人は何を思い、何を考え、門を見上げているのかは、伺い知る事は出来ないが、アルスラは振り向き、静かにゾフィヤに声をかける。


「…………行くか?」

「ええ……」


 言葉少なく頷きながら、二人は門から離れ、四色街道を北に向かって歩き始めた。


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