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第25話  【アルスラ主宰の失脚】

 痛みと悔しさと怒りで、酷い顔になっているアルスラをリョウは無視して、隅で固まっている彼の部下達に目を向けて、

「もうアルスラは宰主として活動する事は出来なくなる。いや、俺が出来な無くする! だからお前らも早くこいつに見切りを付けた方が良い!…………それと、この先何かあった時の証人になってもらう事もあるだろから、身辺には気を付けろ」

 

 と言い、今度はアルスラに目を向け、

「あいつは、目的の為ならどんな手段でも何でもする。人の命を奪う事だって、平気でする奴だからな!」

 と、強い口調で彼らに忠告した。


 その言葉を聞いた部下達は、青い顔で揃って頷いている。


 そして最後に、痛みで苦しんでいるアルスラに目を向け、

「もう、お前と関わる事は無いだろう。さよならだ。アルスラ!」

 そう冷ややかに言い放ち、リョウとセイは転移でその場から消え去った。



 後に残されたアルスラの部下達は、その彼に目を向けたが、痛みと出血で意識が朦朧としているらしく、目の焦点は合って無く、うわ言めいた事をつぶやいている。


 彼らは、そんなアルスラを見ながら、これからどうするか話始めた。


「なぁ、あの人はあんな事言ってたが、アルスラ宰主をこのままにしておいて良いのかな?」

「だよな。確かに宰主は、あくどい事を散々やって来たけどよ、このアレッドカをここまでの大国にしたのも宰主だからな」

「…………それに、このケガで放置したら最悪死んでしまうんじゃないか? そんな事になったら、俺達も同罪だよな」

「だな! おい! 急いで宰主を医者に見せるぞ!」

「分かった! 俺は医者を呼んで来るから、お前らは宰主の止血だけでもしておいてくれ!」

「おお。まかせろ」


 そう言って一人が医者を呼びに、残った者達でアルスラをベッドに運び、応急手当てをした。



 幸いと言って良いのか分からないが、命に別状は無かった。ただ、右手首から先は、魔力銃の暴発により、永遠に失う事になってしまった。


 アルスラ宰主が大けがをしたと言う事は、瞬く間にアレッドカ中に広まって行き、そのケガの原因は、アルスラ自身の非道な行いが関係していると言う事も、同時に広まって行った。


 こうなってしまっては、もう誰一人としてアルスラに付いて行く者は居ないと思われたが、彼の情婦であるゾフィヤだけは彼と共にいた。

 ケガの影響で高熱が続き、思うように動く事が出来ないアルスラの側で、かいがいしく世話をするゾフィヤ。


 確かにゾフィヤはリョウことシャギーを愛していた。しかし、今、この状態のアルスラを見限る事はゾフィヤには出来なかった。何度も肌を合わせた男であり、彼の孤独な悲しみを理解しているからだ。

 思えば、心底信頼できる味方は、後にも先にもシャギーしかいない、不器用で寂しい男なのである。


 高熱も収まり、普通に話が出来る様になったアルスラは、自身の側で彼の世話を焼くゾフィヤに、

「…………あいつの所に行かないのか?」

「あいつって?」

「シャギーだ‼」

「何で、私が彼の所に行かなきゃいけないのよ? 今さら、昔の女ですって言ったって、彼は迷惑でしょ? だって、彼には若くて綺麗な貴族の奥様が居るんだし」

「貴族は、側室が持てる! あいつの側室になれば、もっと良い生活が出来るだろ⁉」

「嫌よ! 貴族の側室なんて堅苦しいのは私の性に合わないわ。……ホント、あの短気なシャギーが貴族の生活なんか、良く我慢してるわよね⁉ 呆れちゃうわ!…………それに、だいたい私は、私を一番に思ってくれる男じゃなきゃ嫌なの! 私って、すっごく我が儘なんだから‼」


 そう我が儘ぶっている彼女に、アルスラは何と表現したら良いのか分からない、複雑な感情を抱いていた。



 アルスラがそう言う状態なので、政務に滞りが起こっていても仕方の無い事だった。役所の機能がマヒし、『二角ボーガル』と『魔海人』の被害の復興も、また進みが遅くなってしまっている。


 そんな時、アルスラの代わりに動いて活躍している人物がいた。あの、リョウ達がいまいちと思っていたギルドマスター代理である。

 彼は、ディランと言う現役のA級冒険者であるが、彼以外のパティーメンバー全員が『二角ボーガル』の餌食になってしまったと言う、悲しい経歴の持ち主なのだ。


 ディランは、アレッドカの首都トラルーシュの冒険者ギルドに所属する、A級冒険者パーティー『暁の閃光』のリーダーを任されていた。

『暁の閃光』はトラルーシュの海に『二角ボーガル』が現れた時、真っ先に駆け付け討伐隊に加わった。しかし、その討伐隊は、S級やA級の8パーティー総勢45名からなる精鋭ぞろいだったが、3名を残し、ほぼ全滅と言って良い程の大きな被害を受けた。

 その生き残った3人のうちの一人が、ディランだったのである。


 彼は、リーダーの自分が生き残ってしまった事を悔み、その当時は生きる屍と言って程憔悴していて、傍から見ても痛々しくて声をかける事が出来ない程だった。


 しかし『二角ボーガル』を討伐しない限り被害は広がるばかりな事に気付き、冒険者ギルドでヴィーゴをサポートするような仕事を請け負った。

 その、ヴィーゴも『二角ボーガル』の被害に遭い命を落としたが、その事によって、ギルマスの仕事を引き継がなくては、トラルーシュの冒険者ギルドが成り行かなくなってしまうと彼は考え、ギルマスの代理を受ける事を承諾したのだった。


 3か国合同の『二角ボーガル』討伐は、リョウ達の活躍で無事に終わり、ディランはその後の『二角ボーガル』をどうするかを話し合うために、リョウ達が泊っている宿屋に出向いて行った。


 その時のディランの胸の内は、正直言って、イエロキーにもブラクロックにも、良い印象は無かったのだ。

 自分達アレッドカの者を、蔑ろにしているように見えていたからだ。

 実際は、そんな事は無かったのだが、トラルーシュの被害があまりにも酷かったので、2か国が手を抜いていて被害が拡大したように見えてしまっていたのだ。


 なので、宿での彼のリョウ達に対する態度はおざなりになり、彼らにいまいちな人間と思われてしまったのである。



 そんなディランだったが、ギルマス代理としての仕事はキッチリこなしており、街とギルドの立て直しに貢献していた。


 だが、またしても『魔海人』出現により、彼は苦境に立たされてしまう。


『魔海人』の数が尋常では無く、戦うにしても冒険者や傭兵、国の常駐兵を合わせても、被害を押さえるには人数が少なかった。

 そこで彼が考えたのは、もうこの際だから戦わずに防戦しながら、住民を安全な所に避難させる作戦に舵を切ったのだ。


 その様子を、アルスラから『魔海人』討伐を託された、リョウが目にしたのである。

 そして、その時の彼に対するリョウの評価が、後のディランの運命を大きく変える事になるのだった。



 イエロキーに戻って来たリョウは、ギルマスのムーンシャナーに連絡取り、アレッドカでの事を詳しく報告し、そして、急ぎマミーナリサ女王と直接話せるようにつなぎを頼んだ。


 暫くして、城から連絡が来た。

 いつもならば、あの転移の小部屋に呼ばれるのだが、今回に限って正式にクジョウ・リョウスケ準公爵として、城に登城するようにとの達しが来た。


「何でだよ⁉ 面倒くせぇな~!」

「ほら! つべこべ言わないで、早く用意しないと時間に間に合わないよ!」

「そうですニャ、次はこれを着て下さいニャ。早くするですニャ~!」


 面倒くさがっているリョウにセイは発破をかけ、ミーニャと共にリョウに貴族の正装を着させて、追い立てる様に転移させた。


ちなみに、本日のリョウのコスプレは準公爵としての指名だったので、黒を基調とした高級なフロックコートにした。黒の絹糸で上品な刺繍が施され、ボタンや飾り紐などの小物は銀色である。


(ハァ~。こう、何回も場数を踏むと、着慣れて来る自分が怖いわ!)

心の中で、嘆息するリョウだった。


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