第23話 【一時休戦…………しかし】
その頃宰主邸では、アルスラが次々に入って来る報告に、頭を悩ませていた。
「…………これは、いったい、どうしたら良いんだ⁉」
あまりの被害の多さに、さすがのアルスラもどうしたら良いか判断出来ずにいる。
こう言う時こそシャギーの助言が欲しい。いつもいつの時でも、的確な意見をしてくれていた。
それでも、忙しく指示を出しながら、そんな事を考えていた時だった、目の前にシャギーが転移して来たのだ。
「シャギー! お前! やっぱり俺の所に戻って来たんだな⁉」
絶妙のタイミングで現れたシャギーに、喜びを隠し切れないアルスラだったが、
「…………ハア? 何を訳の分からない事言ってる⁉ 魔海人の討伐が終わったからそれを伝えに来ただけだ‼ 寝言だったら寝てから言え!」
「…………」
リョウのバッサリ切り捨てる様な冷たい言葉に、アルスラは二の句がつけな付けなかった。
「何だその酷い言い方は! 俺がこんなに大変な思いをしているんだぞ、少しはお前も手伝え‼」
「それが、宰主としてのお前の仕事だろうが! 何で、ただの冒険者の俺が手伝わなきゃいけないんだよ‼」
呆れたように言い返したリョウだったが、今は非常事態なのでアルスラの仕事を手伝う事にためらいは無い。しかし、頼み方と言うものがあるだろうと思う。
ましてや『魔海人』の討伐に協力し、殲滅したにも関わらず、ねぎらいの一言も無い。
そのうえ、いきなり手伝うのが当たり前のように言われては、その気も失せると言うものである。
その時セイが、リョウの気持ちを察したかは分からないが、
「そんな事急に言われても、兄さんだってどうしようも無いんじゃないの? それに、本当に手伝ってほしいんなら、ちゃんとした頼み方があるでしょ⁉ そんなのは小さい子供達だってわかる事だと僕は思うけどね! それにさ、『魔海人』をやっつけたのに、そのお礼だって無いよね‼」
と、ご立腹な様子で至極当然の事を言った。
そのように言われてしまえば、アルスラに反論できるはずも無い。正直、今は猫の手も借りたい位なのである。
アルスラにとっては屈辱ではあるが、唇をかみながら絞り出すような声で、
「すまなかった。魔海人の事をすべて任せてしまったが、『ブラット』に魔海人の討伐をしてくれた事、感謝する!…………ついでと言う言い方は悪いと思うが、シャギー、お前の力を借りたい! 協力してくれ‼」
と、人に頭を下げる事が大嫌いなアルスラが、リョウに頭を下げた。
(こいつ、頭を下げたぞ‼ プライドが高くあれだけ人に頭を下げるのを嫌がっていたのに……まぁそれだけ、現状が大変なんだろうな。俺が力になれるかどうか分からんが、昔のよしみだ、手伝ってやるか!)
「しょうがねぇな! 俺にどれだけの事が出来るか分からねぇが、手伝ってやるよ」
自分に頭を下げているアルスラに対し、リョウはしぶしぶ手伝う事を約束した。
その日から、アルスラとリョウそしてセイも巻き込んで、大量の事後処理をこなしていった。
まだ『二角ボーガル』の件もすべてが終わった訳でも無かったのに、今度は『魔海人』の被害である。アルスラにとって、本当に踏んだり蹴ったりな状況だった。ましてや、片腕と言えるヴィーゴを失っているのだから。
そのヴィーゴの代わりと言っては語弊があるが、リョウとセイの協力は、アルスラにとって想像以上の成果があった。リョウは、アルスラの問いにアドバイスをし、書類も的確に処理して行った。
とりわけ嬉しい誤算だったのは、セイがアルスラの思っていた以上に使えると分かった事である。
前世では、まだ高校生だったセイだが、ここラドランダーでの政治経済は、その高校で習う様なレベルだったので割かし簡単に、それこそ、高校の授業の復習をしているような錯覚を覚えながら、手伝いをしていた。
(え~? こんなもんで、この世界の政治や経済が動いているんだ? 大丈夫なのかな? この世界は?)
ラドランダー大陸の、未来を心配するセイだった。
そんな忙しい日々の中、リョウは大量に回って来た書類に目を通していたが、その中になぜか人身売買の書類や、密売品売買の闇ルートなどの闇組織に関する書類が、大量に混ざっていたのである。
どうやら、アルスラのミスで重要機密に分類されるべきものが、リョウの手元に回って来たらしい。
そっと、アルスラを窺い見たが、リョウを信頼しきっているようで、書類に埋もれながら、部下に次々指示を出していて、こちらを気にもしていないようだった。
(これは…………大変だぞ! この書類は闇組織を壊滅させる為の重要な証拠になる!)
リョウはアルスラやその部下達に気付かれないように、アイテムボックスからコピー用紙を取り出し、魔法でその書類のコピーを作る。その際、真新しいコピー用紙では違和感があるので、魔法でこの世界の紙のような状態に加工を施し、
(…………【複写】…………。これで良しっと!)
アルスラには悪いが、以前ヴィーゴから手に入れた密売品の品と、この書類を然るべき者に渡して、闇組織を壊滅に持ち込むだけである。
そんな事になっているとは思っても居ないアルスラは、いかにこのままシャギーとセイをここに留めておけるかを考えていた。
情に訴えてもダメだった。策略を持ってしても、シャギーに裏をかかれ失敗した。もうアルスラに残されている手は無いと言って等しい。
(で、あるならばいっそ…………)
暗い情念だけがアルスラの心を支配していた。
リョウとセイがここ宰主邸で、手伝をしている間の食事をアルスラは提供しようとしたが、リョウとしてはいつぞやのコーヒーに睡眠薬を入れられた件があったので、食事に関しては自前で用意した。もちろん、休憩している時のお茶や仕事後の酒なども自前である。
食事は、リョウの『百貨店』で好きな物を買って食べる事は出来るが、アルスラの目が有るので、誤魔化すために町の食事処に食べに行っていた。
そんなある日の仕事終わり、アルスラの部下達がまだ仕事の片づけをしている最中に、彼がおもむろに話しかけて来た。
「なぁ、シャギー! たまには、一緒に食事をしても良いとは思わないか?」
「食うのは構わないが、お前の出した物は食わんぞ」
「ハッ? …………なぜだ?」
「お前! 忘れたとは言わせないぞ! 俺を捕える為にコーヒーに一服盛っただろうが! あの事があったからお前の出す物は、いっさい食わんと決めているんだよ!」
アルスラはリョウの強い口調に、薄ら笑いを浮かべ呆れたような仕草で、
「疑り深い上に根に持つ奴だな⁉ そんな前の事忘れろよ! 飯は楽しく食った方が良いだろ?」
アルスラの性格は、まるで『喉元過ぎれば熱さを忘れる』を地で行っているようだ。
「…………ハァ~。もういい! お前の考え方に俺は付いて行けん! お前とは金輪際一緒に飯など食うもんか‼」
そんな、アルスラとリョウのやり取りをアルスラの部下達は、固唾を飲んで見ている。
リョウが強い口調でアルスラを拒否をし、セイと共にその場を離れようとした、その時である。
突然、この世界では聞こえるはずが無い音が響き、リョウの顔すれすれを何かがかすめて行った。
「ダァーーーーン‼」
防大生だった僚佑はそれが拳銃の発砲音だとすぐに気付き、振り向きざまにアルスラを見た。
彼は、両手で拳銃のような物を持って構え、リョウ達を狙っている。
「…………何だそれは⁉」
リョウの当然の問いに、うっすらと笑っているアルスラは、
「これか? これは『魔力銃』と言う物だ。昔、お前が話していた『拳銃』なる物を、俺は錬金術士に作らせてみた。お前が言ってた『火薬』と言う物を作る事が出来なかったんでな、その代わりに魔力で弾を打ち出せるようにしたものだ。なかなかうまく作れ無くて、完成するのに随分時間がかかってしまった。その上、結構な人数の錬金術士も犠牲になったしな」
まだ、シャギーがここでアルスラと共に、気の合う仲間として過ごしていた時、『記憶持ち』の話の中で、何気なく話した『拳銃』の話をアルスラは覚えていて、実際に作ってしまっていた。リョウとしては痛恨の極みである。
あの時は、二人がこれ程対立し合うとは思いもしなかったから、問われるまま気軽に前世の話をしてしまっていた。
こんな事になるのが分かっていたら、切れ者のアルスラに拳銃などと言った、危険な物の話をしなかっただろう。
後悔先に立たず、である。
そんな状況に置かれたアルスラの部下達は、迂闊に動く事も出来ず、一塊になって恐怖で青ざめていた。




