第20話 【違法魔法薬の密造】
アルスラからの指示は、『ガディヤ』でリョウとセイ二人の自由意思を無くし、なおかつ魔法を封じ抵抗出来ないようにして、自分の元に連れて来いとの事だった。
そもそもアルスラは、リョウに頭脳的なブレーンを担ってもらいたいのであって、魔導士や剣士としてのリョウは必要ないのである。
セイの事は、リョウに対する人質の役割と、特級錬金術士として利用する価値があると考えている。
特級錬金術士は存在自体が少なく、このラドランダー大陸の四色大国でも、セイを含め3人しかいない。なので、特級錬金術士と特級魔導士が居るイエロキーは、色んな意味で優位にあると言えるのだ。
特級錬金術士は有意義な魔道具を作り出し、貴重な薬も作れる。こんな人材を個人で囲う事が出来るのである。アルスラにとってはリョウとセイ二人を手に入れる事が出来れば、もはや、世界を手に入れたも同然と考えても仕方の無い事だった。
「成程な、俺達に対する事は分かった。…………で、原因不明の病気は本当に流行っているのか?」
リョウのもっともな疑問に対して、ベーナは口ごもって答えようとしない。
「……………………。」
「何考えているかは知らないけど、言っちゃった方が身の為だと思うよ。どっちみち、法で裁かれるか、今ここで僕達にボコボコにされるかだからね」
またしてもセイが、容赦のない事を言ってベーナの顔を引きつらせている。
「…………病気なんてもんは流行って無い! 島の復興は順調そのものだ…………あの宰主は以前にも増して、島を豊かにしたよ!」
ベーナはやけくそ気味に答える。
「ふ~ん。だったら奴はなぜ、わざわざこんな汚い手を使ってまで俺達を手に入れたがるんだ? おかしいだろ⁉」
その問いにベーナは、答える。
「宰主が、自分の片腕と言えるヴィーゴの旦那を失ったからだよ。あんたをヴィーゴの旦那の後釜にしたいんだとさ」
「やっぱりね。あの人ってさ、兄さんに異状に執着してるよね。こんな大掛かりな事までするんだから」
「いい迷惑だぜ‼」
アルスラのしつこさに辟易するリョウ。
ポツリポツリとベーナが、今のアルスラの様子を話し始めた。
「…………ヴィーゴの旦那が居なくなった頃から…………なんか、いつもイライラしていて近づくのが怖かった。……まぁ、仕事はまともにこなしてはいたけどな。どうも、重要な事を相談する奴が居なくてイラついているみたいだった……」
リョウはそれを聞いて呆れながら、
「あいつは、いつまでたっても俺に頼るなぁ~。いい加減にして欲しいぜ‼」
「兄さんに頼らなきゃならない位、信用できる人がいないんだね。………ある意味、可哀そうな人なんだろうね」
「…………そうかもな」
そう考えると、アルスラは昔からあまり人を信用しない性格だったと、リョウは今更ながら思いだした。
気を取り直して、このおかしな場所の事をベーナに問いただす。
「で、この場所はいったいどういう場所なんだ? ただの『ルルナスの雫』の群生地だけじゃないだろ⁉」
「素直にしゃべっちゃた方が良いよ! 僕たちも暇じゃないから、何するか分からいからね!」
またしてもセイの容赦ない脅しに、ベーナは怯えながら、
「…………ここは…………『ガディヤ』の密造所だ。ここで『ガディヤ』を密かに作って、あちこちに販売している。『ガディヤ』を作るのに必要な物がすべて揃うし、『ビッグポイズンビー』が居るから人も寄り付かないし好都合なんだ。それと俺達には『ビッグポイズンビー』除けの香があるから、あまり危険が無いようになっているんだ」
急にベーナが、辺りを窺う様子を見せたと思ったら、切羽詰まった様子で怯えながら、
「頼む‼ 今しゃべった事はアルスラ宰主に、俺が言ったとは言わないでくれ!…………俺の女房に『ガディヤ』を使われ捕らえられ、人質にされているんだ‼」
その一言でリョウは、アルスラの汚いやり方に思わず声を荒げた。
「あいつは! 何て事しているんだ‼ ここまで落ちたのか! もう、本当に許せねぇ‼」
「これは、ちょっと酷いね! 人としてどうなのよって言う問題だよね!」
セイも負けじと怒りをあらわにしている。
ベーナは二人に助けを乞うかのように、
「もう一人の、ジルも似たようなもんなんだ。あいつは、妹が捕まっている。だから、頼む‼ 俺達がしゃべったって言わないでくれ‼」
と、まくしたてるかのように話した。
リョウは元々、アルスラに非合法な事を止めさせようと考えていたが、こうなると口で言ってもお互い水掛け論になってしまう可能性がある。
だとしたらこの際徹底的に、全ての闇組織を潰してしまった方が良いのでは無いかと考えた。
「心配するな! お前達の事をアルスラに言わねぇよ! だから、その事については安心して良いぞ‼…………そうだな、俺達はこれから『ガディヤ』の密造所を破壊する事にする!…………お前は一切何も見ていなし聞いてない事にしろ! 良いな‼」
リョウのとんでもない脅しのような提案に、ベーナは目を見開きガクガクと震えるように頷いていた。
そうと決まれば行動は早い方が良い。いつ、ベーナの片割れのジルが戻って来るか分からないからだ。
拘束をして転がしているベーナをそこに残し、リョウとセイは辺りに気を配りながら、『ガディヤ』を密造している場所に向かった。
密造場所には5~6人の、どう見てもまともな様子では無い錬金術士が、黙々と『ガディヤ』を錬金術で作っていた。恐らくあの働いている人間も、『ガディヤ』によって洗脳されていると思われる。それ程、異常な状態の場所だった。
「で、どうするの、兄さん?」
「あいつ等をどうにかしないと邪魔だな⁉」
「意識が混濁しているみたいだから、当身を入れて転移で外に出しちゃうとか?」
「…………まぁ、そうだな。…………あいつ等も、後々禁断症状が出るだろうから大変だな」
「…………そうだね…………」
アルスラの手段を択ばないやり方に、二人は静かな怒りを覚えていた。
特に、現場を仕切っているような人間は見当たらなかったので、二人はそのままそこに入って行った。
密造場所の中で作業をしている者達は、リョウ達がそこに入って来ても、気にする風でも無く作業を続けている。
セイが一人の目の前で手をヒラヒラと振って見せたが、何も感じていない様子だ。
「この『ガディヤ』と言う薬は、ここまで人を人で無い者にしてしまうのか⁉」
『ガディヤ』の吐き気を催すような効能に、リョウは怒りが収まらない。
二人は、作業をしている錬金達に手荒な事はしたく無いと思い、リョウが魔法で眠らせた。そしてリョウの転移の魔法で、イエロキーの冒険者ギルドに連れて行き、ムーンシャナーに事情を話し、一時的に保護してもらった。
その際、事情を聴いたムーンシャナーとアーノルドは、アルスラのやりようにかなり憤慨していた。
リョウはイエロキーから『ガディヤ』を密造していた場所に戻り、この場所をどうするかセイに相談する。
「さて、ここをどうするかだが?」
「いっその事、派手に燃やしちゃう?」
「…………ん~、やれるなら俺も派手にやりたいけどな、こんな狭い所で火を使ったら、一発で一酸化炭素中毒まっしぐらだぞ」
密閉空間での火の使用は厳禁である。
「…………あっ! そうか、そうだね。…………じゃあ、どうしようかなぁ~?」
「出来れば、もう二度とここを使う事が出来なくしたいんだけどな」
この場所が残っていれば、また何か良からぬ事に使われる心配がある。
「じゃあ、埋めちゃう? ほらこの間、悪ふざけで作った魔術具でさ、コンクリートモドキがあったでしょ? あれを使ってこの場所そのものを埋めてしまうんだよ!」
「良い考えだと思うが、ダンジョンでそんな人工的な事しても大丈夫か?」
「何かあった時は、その時何とかすれば良いじゃん‼」
「…………」
セイのいい加減さに、言葉を失くしたリョウだった。
かくして、方針は決まった。
リョウとセイは、以前作った魔術具を、密造場所の真ん中あたりで作動させ、その場を二度と使えないよう埋めてしまった。




