第8話 【検索ですって!】
話題を変えるためイースは、もう一つ気になる事があったので、
「そうだ、昨日から外ばかり見ていたけど、何かあるの?」
「ん?あぁ、……どうやって話を切り出すか色々考えていただけだ」
頬をポリポリかきながら、何か気まずそうにシャギーは答える。
ほっとした様子で、
「何だ、そうか。良かった!……シャギーが具合が悪くなって、機嫌も悪くなって、当たり散らされるかとビクビクしていたんだ」
日ごろの自分の行いのせいで、イースに心の負担をかけてしまっていた事に、
「あーーー、悪かった!」
と、率直に頭を下げた。
それを見たイースは、彼は本当に優しい人なんだと心が暖かくなり、柔らく笑って、
「でも、……ありがと。いつも気にかけてくれたんでしょ? いつものシゴキの後は体が楽だったもん」
と、言った。
初めてイースの笑った顔を見たシャギーは、驚きながらも、
「……気が付いていたのか? ん~お前にも分からない様に癒したつもりだったんだかなぁ~、俺も、まだまだだな」
と、こちらも自然な笑顔で答えていた。
「まずは、イースお前のステータスを確定しないとな」
この世界は、生まれて一歳からだいたい五歳までの間に、シホワロイト教の教会で鑑定の洗礼を受ける、その際現れたステータスに、魂の名前が刻まれており、その名が本当の名前になる。
それまでは、通り名の様なものを付けて過ごす事になっている。
洗礼を受けて初めて、自分のスキルやジョブが決まるが、洗礼を受けないと、スキルの発動やジョブの力を使う事が出来ないし、最悪の場合一生名無し職なしになってしまうおそれがある。
まれにスキルやジョブををいくつか持っている人はいるが、分かった時点で領主や国に取り込まれる事が殆どである。それ程まれな事なのである。
そうして、一つ一つ言葉に出して鑑定していき、全て鑑定し終わるとその人のステータスが確定する。
しかし、さっきの話でも分かるように、教会の鑑定の魔術具もそれを扱う人間の魔力量に左右されるので、完璧なものではなく、少ないとイースの様に不完全なステータスになってしまう事もある。
が、基本的な事が分かっていれば生活にそう支障が無いので、たいていの場合はそのままで一生を過ごす場合もある。
シャギーはイースの目を見て、一言【鑑定】と静かに言った。
途端に、二人の目の前にウインドが現れ、表示されていたものは、
・名前 イース (セイ)
・種別 人族 (日本からの転生者 一ノ宮誠人)
・ジョブ 錬金術師 両手剣士 剛力
・レベル 26/100
・HP 101/999
・MP 27/999
・攻撃力 21/100
・防御力 57/100
・俊敏性 29/100
・魔法属性 火 風 水 土
・スキル 筋力増強(2~10)
・固有スキル アイテムボックス(容量無制限 時間制限なし) 鑑定 検索
・称号 なし
シャギーは、表示されているすべての項目を口にし、
「これで、イースお前のステータスは確定した」
と静かに言葉にした。
腕を組みイースのステータス画面を見ながら、シャギーは、
「しかし、これは、どう解釈したもんかね。ジョブが三個に固有スキルも三か」
と独り言ちしていたが、一方のイースは他の事に夢中である。
「僕にもアイテムボックスがある‼」
「良かったな、鑑定のスキルもあるぞ」
それを見て、目を細めて微笑みながらシャギーは心の中で、
(まあ、少しは明るくなれたかな)
と思う。
ツッコミどころ満載のステータスで、最も気になる事の一つが、
「え~と、なんで名前が二つあるの?」
「ああ、それな、俺にも名前二つあるんだよ。さっき、姿変えをしただろ? あの姿になると、もう一つの名前が前に追加され、元に戻ると今の名前が先に表示されるようになるんだ」
訳が分からない、
「…………なんで?」
「…分からん。俺も姿変えを初めてしたときに、もう一つの名前が表示されるようになったからな。もう、そう言うもんだと思うしかないな。それと、二つ目の名前はどうも、俺とお前にしか見えないようだ。だから、万が一鑑定の魔術具で見られたとしても、その時の姿の名前しか相手には伝わらないだろう」
ジョブのうち一番最初のものがその人物の、最も適したジョブなので、
「ん~、…錬金術師か。魔法なら俺でも教える事が出来るが、…これは、ちゃんとした師匠につかなければ錬成する事ができないな」
「……えっと、どうなるの?」
師匠の当てなど有る訳ないイースは困っているが、幸いシャギーがこれから行こうとしている所が、錬金術にぴったりの所であると気が付く。
「俺の本当の行き先はアレッドカではなくて、イエロキーにしていたんだ。『魔力過多症』は口実だったしな。大賢者の話もでたらめだし」
シャギーのいい加減さにため息一つ付いて、
「ハァ……なんて言ったらいいのか。……でも何でイエロキーなの?」
「ここイエロキーは、魔術や錬金術の研究が盛んに行われているからな。俺は魔術を極めてみたいと思っていたからイエロキーの首都を目指していたけど、こうなってみるとイエロキーで正解だったな」
聖都サマリーアートに着いたら、イースの師匠を探してやろうと心に決めて、
「ここで錬金術の修行をする事になるな‼ がんばれよ!」
「他人事だと思ってる?」
「実際、他人事だぞ」
「んーーー‼」
頬を膨らませて怒るイースであった。
「あとは、この『検索』ってなんだろね?」
「なんだろなぁ? グー◯ル検索だったりして?」
「もう! 真面目に考えてよ‼」
「と言われてもなぁ……」
実際、『検索』のスキルを使ってみない事には分からない。
イースは、ある事に気が付いて、
「シャギーは、どうやって『百貨店』を使う事が出来たの?」
「ああ、その表示されている文字を触ったんだ」
「こう?」
ステータス画面を触るイースであったが、
「何にも起こらないけど?」
あきれ顔のシャギーが、
「いや、これは俺がお前のステータスを表示しているだけで、イースが自分でステータスを表示させて、触らないと効果が表れないんじゃないのか?」
「……そうかも」
「どうやって、ステータスを表示させるの?」
シャギーは、聞かれたくない事を聞かれ、言葉に詰まる。
「…………ああ、それはな……」
「何、その間は?」
「ちょっと言いづらいんだが、…傍から見たら厨二病みたいなことしないと、表すことが出来ないんだよ」
「えっ、でもシャギーは、さっき何もしてなかったよね?」
「さっきのはあくまで、お前のステータスを俺が【鑑定】しただけだしな。今は、慣れたから動作も言葉も無しで、ステータスを表すことが出来るようになんだが……」
シャギーも初めの頃を思い出して、
「慣れないうちは、恥ずかしくて一人で悶絶死しそうだったよ。……もっとも、ステータスが見えるなんて人には言えないから、人目に付かない所でやっていたけどな」
「…………えっと、教えてもらえるのかな?」
「…良いけど、俺を恨むなよ」
シャギーは、まるで特撮ヒーローの変身ポーズの様なアクションをしながら、
「ステータス オープン」と唱えた。シャギーのステータスが現れた。
唖然としながら、
「……これ、本当に必要なの?」
シャギーは自分のステータス画面を消して、
「俺も、何かほかに方法が無いかいろいろ試したけど、結局これしかステータスを表すことが出来なかったんだよ、観念してやってみろ!」
「ステータス オープン‼」
「出たな」
「出たね。……はぁ~ やりたくないよ~‼」