第16話 【『二角ボーガル』解体とそのお値段は?】
イザークの元に戻ったリョウは沈鬱な表情で、
「すまん。アルスラと少しこじれてしまった。時間を空けて、また行って来るから少し待ってくれ」
あまりにも気落ちした様子のリョウに、イザークも声をかけるのをためらってしまう程だったが、どうなったかを聞かなければ次に進めないので、
「何があった?」
「…………なにも、ただ意見の相違があっただけだ…………ハァ、もうお互い子供では無いと言う事だ」
空を見上げながら、ため息一つ付いたリョウだった。
あの頃は良かったと思い出に浸るにはまだ早い。かと言って、もう過ぎた去った過去の事であるのも事実である。
リョウは気持ちを変え、明るく振舞いながら、
「まあ、とにかく撤収しようぜ。みんな、家に帰りたいだろうからな!」
「ああ、そうだな!」
今回討伐に関わったイエロキー・ブラクロック両冒険者達は、宿に戻りそれぞれ荷物をまとめながら、今回の『二角ボーガル』討伐をについて語り合っている。
そんな様子を見ながらリョウは、これからどうなって行くのか見当も付かない思いに囚われていた。
(奴は、何故ああも俺にこだわる? 俺が『記憶持ち』だからか? それとも…………分からない。本当に奴の考えている事が分からくなってしまった)
子供の頃は、お互いに考えている事が分かり合える程だったのに、何が二人の道を分けてしまったのか?
ただ、リョウが共和制度をアルスラに話したあたりから、二人の間が少しづつ変り始めて来たのかもしれないとリョウは思う。
結局、リョウ自身が蒔いた種なのだと気付いたが、もうすでにお互い分かり合える事が無い状態だと思うと、アルスラを兄のように慕っていたので寂しさと悲しさが増していた。
その頃アルスラは、宰主として『二角ボーガル』による被害の後始末に追われていた。
次々に的確な指示を出す辺りは、さすがに民衆から宰主として選ばれるだけの事はあるが、ここぞと言う時に相談する相手が居ない。ヴィーゴを失った痛手が大きい。
そう思うと、どうしても恨みつらみがシャギーに向いてしまう。
(シャギー! お前が俺についてくれさえすれば、俺がこんな苦労をしなくて済んだはずだ‼ お前のその頭脳があればこんな状態もすぐに何とか出来たはずなのに! 俺にその力を貸す気はないのか⁉…………なぁ、シャギー‼)
翌日の朝、アレッドカ冒険者ギルドの仮のギルドマスターなったと言う男が、リョウ達が泊っている宿にやって来た。
「昨日のそちらからの提案を受け入れると、アルスラ宰主が申しましたので、詳しい話をしたいと思いますが、いかがでしょうか?」
イザークがこちらの代表として話をする事にし、リョウはオブザーバーのような立場で、イザークの横に座っていた。
「では改めて『二角ボーガル』の解体作業と、素材の売買についてこちらで考えた事をお話ししますので、何か不明な点があればその都度聞いて下さい」
と、イザークが経緯を説明したが、ギルマス代理は特に深く考える素振りも見せずに、
「分かりました」
と、簡単に答えていた。
話し合いは順調に進んだ。概ねリョウの提案通り、『氷雪の荒野』に解体士を派遣して、その場で解体と素材の鑑定などを行い、買取金額を決める事にした。買取の分配は、被害の当事者であるアレッドカが半分。残り半分を、イエロキーとブラクロックで山分けする事になった。
しかしアレッドカの今の状態では、魔物の解体士を多数ブラクロックに派遣する事は難しいらしく、ベテランを一人行かせる事にしたとギルマス代理に告げられた。
「素材の鑑定師を派遣しなくても良いのですか?」
そうリョウに訪ねられたギルマス代理は、
「…………ああ、そうですね。失念していました。では、鑑定士も一人加えます」
そう答える彼にリョウは、
(大丈夫なのか? こいつがギルマス代理で)
と、他人事ながら心配になった。
じつは、アルスラは行政人事のほとんどを、ヴィーゴに丸投げしていたので、各部署に責任者と呼べる者が居ないのである。
ヴィーゴの独断で全てが行われており、自分より優秀な者や逆らう者は皆淘汰され、結局、彼の意のままに動く者しか残らなかった。その結果、ヴィーゴが居なくなった途端に人材不足に陥り、冒険者ギルドも組織そのものが成り行かなくなってしまったのである。
そのせいでアルスラの負担はかなりのものなり、各部署の人事はお粗末なものになってしまっていた。
アレッドカの行政が破綻するのも、時間の問題と思われる。
イザーク達とアレッドカのギルマス代理の話し合いで、『二角ボーガル』の解体は一月後に『氷雪の荒野』で行われる事に決定した。
人員は、リョウがそれぞれの国に転移で飛んで運び、全員がそろった所で解体を始める事になる。
『氷雪の荒野』はロザリード辺境伯領に接しているので、リョウはシャギーリース辺境伯として、解体作業を見届ける事になった。
『氷雪の荒野』に接している領境近くに、即席の小屋を建てて解体作業員の宿舎に充てた。寒さが厳しい場所なので、小屋に魔物除けと防寒の為の魔法陣も書き加えておいたので、粗末な割には快適な小屋になっている。
「ご先祖様が『二角ボーガル』を『氷雪の荒野』で仕留めたから、今回もあのデカ物をここに持ってきたけど、…………そのおかげで俺に余計な仕事が増えたよ、ハァ~」
「フフフㇷ……きっと、兄さんのご先祖様も同じようにぼやいていたかもね!」
リョウのぼやきにセイが笑いながら突っ込んでいた。
シュテハンとマルクスは『二角ボーガル』の巨大さに目を見張り、
「…………あれを、お前が仕留めたのか?」
「まあ、俺一人でやった訳じゃ無いけどな。止めを刺したのが俺だっただけだ」
「ハァ…………まあ、お前の事だしな」
シュテハンは、シャギーリースの相変わらずの規格外に呆れ、マルクスは、
「お館様! 貴方の代わりは居ないのですから、どうか危険な事はおやめ下さい!」
と、また別の心配をし、憤慨していた。
そんなこんなで、三か国の冒険者ギルドの解体士たちが協力し合って、その巨大さにも関わらず『二角ボーガル』の解体はひと月程で完了した。
『二角ボーガル』の素材の買取金額は、当初の予想を遥かに上回り、白金貨で25.000枚程になった。日本円で2千5百億円である。
最初の取り決め通りに半分をアレッドカに、残りをブラクロックとイエロキーで分配した。
『二角ボーガル』は、その巨体全てに価値があり、廃棄になった物は、胃の中にあった未消化の内容物位だった。
素材としても優秀で色々な物に加工でき、肉も美味で、シャギーリースは試しに少し肉を分けてもらい食べた所、美味しさのあまり『二角ボーガル』肉の虜になってしまった位である。まるで、霜降りの高級和牛のようだと感想を述べていた。
『二角ボーガル』の素材や肉は、それぞれ買い取った業者らで競売にかけられ、買取価格を上回る金額で売られていった。その事によりアレッドカではかなりの利益を上げ、『二角ボーガル』による被害の復興に大いに役に立っていった。
アルスラは驚異的な手腕で人材不足を克服し、あの『二角ボーガル』の目を覆いたくなるような被害にも関わらず、以前にも増してアレッドカの繁栄に尽力した宰主として名を上げていた。
しかし人材不足は本当に深刻で、復興があらかた過ぎても、まだ政務に滞りがおきていた。
「ハァ……やはり、優秀な者が居ないと言うのは辛いな……………………こうなったら、意地でもシャギーを取り込んでやる‼ 覚悟しとけよ! シャギー‼」
懲りないアルスラの陰謀が、リョウを待ち受けるのだった。




