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第15話  【相反する思い】

「イザーク! あの『二角ボーガル』をどうする? ざっと見た所だけでも、有意義な素材になりそうな部位が結構あったぞ!」

「本当か? だとすると、今回の遠征費用を賄えるかも知れ無いな」

「…………まあ、もっとも、依頼主のアルスラ宰主次第だけどな」


 と、リョウとイザークの二人は、爪を噛みブツブツと独り言を言っているアルスラに目を向けた。


「とにかく、『二角ボーガル』を持って来るにしても、この惨状を何とかしないと、ここで暮らしている人たちが困るだろう?」

「まあそうだな。…………だが、それは他国の、それもいち冒険者がやる事じゃ無いんじゃないか? この国の行政と、この国の冒険者ギルドの仕事だと俺は思うんだが、イザークはどう思う?」


 リョウの問いかけにイザークは、確かにそうだと思い至った。『二角ボーガル』との戦いがあまりにも常軌を逸していたので、他国だと言う事を失念していた。

 ここで、他国の人間がむやみに口を挟むのは、内政干渉と取られ兼ねない。援助の申し出があってこそ、力を貸せると言うものである。


 ここで、リョウがある提案を出してきた。


「例えばだが、『二角ボーガル』は今『氷雪の荒野』に有るんだが、あそこなら寒さが厳しいので腐敗するのを防げるから、暫くの間そのまま置いて置く事も可能だ。もしくは、アレッドカ・イエロキー・ブラクロックの代表者が『氷雪の荒野』に行って、その場で解体作業をする。と、言う手も有る」

「成程。要は考え次第と言う事だな?…………リョウ。お前はあの宰主と面識が有るんだよな? だったらお前がその提案を、宰主にしてくれるか?」


 リョウは、一瞬、嫌な顔をしたが、

「…………分かった、話をしてみる。その間イザーク、お前は帰還に向けての撤収作業をしておいてくれ」

「了解だ!」


 リョウとイザークの話し合いが終わり、それぞれ動き出した。イザークは冒険者たちの所に、リョウはアルスラの所に。



「アルスラ、チョッと話が有るんだが、今、良いか?」

「ん? ああ俺もお前に話が有るからちょうど良い」


 お互いに、腹の探り合いのような目をしながら、


「あの『二角ボーガル』の事なんだが、良い素材が沢山取れそうなんだ。で、それを売って、その売り上げをこの港の復旧の資金にしたらどうかと思ってな」

「成程。…………あれはそんなに売れそうなのか?」

「まあ、詳しく調べないと何とも言えないが、俺の見た所では素材としても食材としても高く売れそうだ」


 リョウのその言葉にアルスラは、瞬時に胸算用をした。

 それは、素材を高く売る。その手伝いをシャギーにさせる。なし崩し的にシャギーを自分の元に引き入れる。

 上手くいくかは分からないが、シャギーは基本お人好しだと、頼まれれば嫌と言えない性格だとアルスラは思っている。


 しかしリョウは、もう以前のリョウでは無い。アルスラの思惑は分かっている。自分をブレーンに加えて、組織の活動をさせる気だと。

 だが、自分は前世の日本での記憶が有るので、犯罪に手を貸す事は絶対にしたくは無い。逆に、あの組織の壊滅を考えている位なのだから。


「で、解体作業の事なんだが、今、このアレッドカは『二角ボーガル』の被害の痛手が大きいからな、解体作業用の人員は討伐に参加した国で募って、『氷雪の荒野』に送りそこで解体するってのはどうだ?」


 アルスラは考える素振りを見せ、

「そうだな…………俺は、島々との行き来の為に港を早急に復旧させなければならない。だから、ここを動く事は出来ないからな…………その、お前の提案だとこちらとしても助かるが……」


いまいち、決断しきれない様子を見せるアルスラに対しリョウが、

「まあ、俺もあれをここに持って来るよりは、向こうで解体した方がいろんな意味で良いからな」

と、自分もその方が助かると言ったそぶりを見せる。


 しかしアルスラは、リョウの言葉の利点が分からず問い返す。

「…………例えば?」


 リョウは指を一本ずつ立てながら、

「そうだな………『氷雪の荒野』は極度に寒さが厳しい、なので素材の腐敗を遅らせる事が出来る。それと、こっちに持って来るにしても、バラした方が持って来やすい。そして、あのデカ物をここに持ってきても復旧の邪魔になるだろ?」

 と説明した。


 リョウの言葉に一応納得はしたが、今のアレッドカの状態ではどんな者でも、復旧の為の貴重な戦力である。だから、当然と言うか余分な人員を割く事は出来ない。


「シャギー‼ ギルマスのヴィーゴを失った今、アレッドカの冒険者ギルドは機能しないと思ってくれ。だから、解体作業の人員を出す事が出来ない! なので、俺を助けると思ってお前がアレッドカの代表として、その作業に加わって欲しい‼ 頼む‼」


 アルスラの言いたい事は分かるが、それは相手がリョウで無ければ可能だったかもしれない。

 

 リョウの立場は、イエロキーのS級冒険者。イエロキーの準公爵。イエロキー女王の子飼いの冒険者。ブラクロックの辺境伯。ブラクロック国王の友人(国王がそう思っている)。

 冒険者家業はともかくとして、貴族としての立場はそれに伴う義務がある。おいそれと他国の代表などには成りえない。

 

 だから、とてもじゃないが、アレッドカのギルドの事まで面倒見切れない。それに、リョウはそんな下心満載のアルスラに加担するような事は絶対にやりたく無い。


「…………申し訳無いがそれは出来ない。俺は、ブラクロックとイエロキーの貴族としての立場があるからな。何んでもないただの冒険者だったら、お前の申し出を受ける事が出来たかもしれないが、アレッドカの代表になるのは無理だな」


 二つ返事で受けると思っていたシャギーが、断った事に思わず大声になってしまった。

「…………お前‼ それは親友に対して冷たいんじゃないか⁉ 困っている俺を助けてくれても良いだろう‼」


 そのアルスラの身勝手な言葉にカチンときたリョウは、

「ハァ⁉ どの口がそんな事言ってるんだ⁉ この間の事忘れたとは言わせねぇぞ‼ 親友と言う割にはずいぶんな事してくれたじゃねぇかよ⁉」

 言葉も荒く言い返した。


 そのリョウの言葉を、心底分からないと言った表情のアルスラは、

「何をそんなに怒っている? あれは、お前の為を思ってやった事だぞ」


 それこそアルスラが何を言っているのか分からないリョウ。そのアルスラの汚い手口を正当化しようと言う言動に益々言葉が荒くなる。

「…………俺の為だと‼ どこの世界に親友に薬を飲ませ、既成事実を作らせようって言う奴が居るんだよ⁉ 聞いてあきれるぜ‼」


「そうでもしなきゃ、お前は貴族なんぞと言うつまらん物から逃れられんだろ。だから、俺がお前の居場所と作ってやろうとしたのに逃げやがって、俺の行為を無にしやっがってよ! なぁ、シャギー! お前にゃ貴族なんか似合わねぇよ。そんなもんさっさと捨てて俺の所に来い‼ また、以前の様に一緒に楽しくやろうぜ!」


 リョウとアルスラは、こうまで考え方すらかみ合わない程完全に、道が違えてしまっていた。


 リョウの考え方の根底には日本での道徳観念があるので、アルスラのような金の為なら何をやっても良いと言う考え方は受け入れられない。

 それに、なりたくてなった辺境伯では無いが、偽善だと言われようが、やると決めたからには領民の為に最善を尽くしたい。


 そんなリョウは、冷めた目をアルスラに向けて、

「俺は、俺の出来る事をやっているに過ぎない。似合うか似合わないかの問題じゃ無いんだ。…………今の話は聞こえなかった事にする。お前も、今やらなきゃならない事に専念しろ!…………『二角ボーガル』の事はまた後で聞きに来るから、それまでに考えておいてくれ!」

 そう、吐き捨てる様に言って、その場を後にした。


 後に残されたアルスラは、暗い表情でリョウの後姿を見つめ、

「…………なぜだ! なぜシャギーは俺を拒む‼ 俺は、俺は、ただお前に側にいて欲しいだけなんだ‼ 何がお前をそうさせているんだーーーー‼」

 そう叫んで来た。


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