第14話 【『二角ボーガル』討伐】
リョウの作戦はこうだ、
まず、氷魔法が使えなくても水系魔法を使える魔導士達に、即席で初歩の氷魔法アイスバレットやアイスランス等の氷魔法を覚えてもらう。魔法を発動する際には、リョウが魔法の威力を高める付与魔法をかける事にする。
次に、弓士の矢に氷魔法を付与しアイスアローにし、それを『二角ボーガル』に射かける。
その他の冒険者の武器のも一応氷魔法を付与し、万が一に備えておく。
『二角ボーガル』の死角となる後方の一か所に集中攻撃を加え、リョウが編み出した氷魔法『氷雷塊槍』も攻撃に加える。
これで『二角ボーガル』を弱体化させる事が出来れば、リョウが奴に触れて、そのまま『氷雪の荒野』に転移させる。
しかし、それでもあの巨体である、魔力量に絶対の自信があるリョウでも、転移を成功させられるかは分からない。毎度おなじみ、セイに魔力補助のサポート頼む事にした。
上手くいけば良いが、あの巨体にどこまで氷魔法と物理攻撃が効くかは、今の時点ではやってみなくては分からない。
だが、とにかく今はやるしかないのだ。時間がたてばたつ程被害が大きくなる。もうすでに、港と港湾設備、及び周辺の施設の半分以上は奴に飲み込まれてしまっている。
準備が整った所でリョウが檄を飛ばす。
「良いか! これから『二角ボーガル』の後方にお前らと転移する! 気を引き締めてかかれ! 命が惜しかったら絶対に奴の死角から出るなよ! 行くぞ‼」
「「「おお‼」」」
冒険者たちの雄たけびが上がった。
転移場所は『二角ボーガル』の死角になる真後ろ。リョウは、アイテムボックスから愛用の杖を取り出し、冒険者たちを転移させるための魔法陣を構築し、魔力を流した。
次の瞬間、全員リョウの思った通りの場所に転移する事が出来た。
「時間が惜しい! 魔導士、弓士、攻撃開始!」
イザークの号令の元、一斉に攻撃が開始された。リョウも、超強力攻撃魔法『氷雷塊槍』の詠唱を始めていた。魔導士や弓士が一点集中攻撃をしている場所に、美しい白銀の魔法陣が形成されていく。
しかし『二角ボーガル』も、ただ黙って大人しく攻撃を受けている訳では無い。当然、攻撃から身を守ろうと激しく暴れまわる。
『二角ボーガル』が動けば、死角の場所の真後ろも動く、それに伴い攻撃している冒険者たちも、死角から外れないように移動する。集中して攻撃が出来ないので攻撃の威力もそれ程無く、余り『二角ボーガル』に効いていないように見える。
その時である、リョウの詠唱が終わり魔法陣が完成した。魔法陣から、巨大な氷柱のような雷を纏った氷の塊が、『二角ボーガル』に突き刺さる。
耳をつんざくような不快な叫びをあげる『二角ボーガル』。
イザークは今が好機と、さらに攻撃の指示を出す。
「魔導士、弓士は引き続き氷魔法で攻撃をしてくれ! その他の者も氷魔法を付与されている武器で、あいつに打撃を与えてくれ! リョウとセイはあいつを転移させる為の準備に入ってくれ! 皆あいつの死角から出るなよ! 絶対に死ぬな‼」
尾びれの付け根辺りに、巨大な氷柱が突き刺さった状態で暴れまわる『二角ボーガル』が、急に反転して冒険者たちの方に向かった。
リョウは、このままこの状態だと、ここに居る全員が『二角ボーガル』に飲み込まれてしまうと、とっさに考え『二角ボーガル』に飛び移りながら、
「セイ! 奴を転移させる! 力を貸してくれ‼」
「分かった! 僕の魔力全部使っても良いから、あいつをやっつけよう‼」
「ああ‼ やってやる‼」
リョウとセイ二人は『二角ボーガル』に掴まり、転移の魔法を発動させた。
一瞬の出来事だった。今まで暴れまわっていた『二角ボーガル』など居なかったかのような、静かな気配が場を占めた。
「やったのか⁉」
「リョウは無事に、『氷雪の荒野』に『二角ボーガル』を転移させる事が出来たのか⁉」
「ああ!…………確認できない事がもどかしい‼」
それぞれの思いを口にしているが、リョウとセイがどうなったのか分からない今、討伐が成功したどうか微妙な所である。
一方、『氷雪の荒野』に転移して来たリョウとセイは、転移と同時に『二角ボーガル』から飛び降り離れた。近くにいると、苦し紛れに荒れ狂う奴の巻き添えになってしまう。
安全を確保した場所に移り、寒さ防止の魔法を自分達にかけて、二人とも使い切った魔力の補充にハイポーションを飲みながら、『二角ボーガル』を観察する。
「寒さに弱いって本当なんだね!」
「そうだな、ここに転移で連れて来た途端に動きが変わったのが分かったからな」
「寒いの苦手なんて、まるで兄さんみたいだね!」
リョウは憮然とした表情で、
「五月蠅い‼」
と、セイに言い返していた。
寒さゆえか、次第に『二角ボーガル』の動きが鈍くなった様に見えてきた。
リョウは、今がチャンスと氷属性の魔法を次々に発動する。セイも負けじと、氷魔法を付与した愛用のバスターソードで、切りかかる。
しばらく二人での攻撃が続いていたが、とうとう『二角ボーガル』の最後の時が来た。一際大きな叫び声を上げて、動かなく無くなった。
あれ程の巨体と、それに伴う無秩序な捕食。何故、奴はその様な行動を取るのか。原因が分かれば、この先また『二角ボーガル』が現れた時の対策に、大いに役立つ事になるだろう。リョウは今後、『二角ボーガル』を少し研究してみるのも良いかと思った。
「ところで、こいつは食えるのか?」
「えっ‼ 食べるの⁉」
「見た目、角の生えたクジラだからな。クジラは高級品だぞ! そして、美味いらしい!」
「…………兄さんって、いつの時代の人?」
「…………」
セイの突っ込みに、食い意地が張ってしまっていたリョウは、沈黙で答える。
「うっうん!…………まあ、いったんアレッドカに戻って、こいつをどうするか話し合った方がよさそうだな」
あからさまに話題を変えるリョウに対しセイも、
「そうだね、皆も心配しているだろうしね!」
と、あまりからかってもかわいそうなので、その事に触れないようにした。
アレッドカにでは、二人がどうなったか気が気では無く、苛立ちが頂点に達しようとした時リョウとセイが転移で戻って来た。
「おい‼ あいつはどうなった⁉」
食い気味に聞いて来るイザークに、リョウは2~3歩後退りながら、
「ああ、無事に息の根を止める事が出来た! 討伐完了だ‼」
その一言に集まっていた人々が口々に喜びの声を上げる。
「おおーーー‼」
「やったぜーーー‼」
「ああ、もう! 死ぬかと思ったぜ‼」
「ホントだぜ‼ 生きていられて良かったよ!」
ただ一人アルスラは、自分の腹心のヴィーゴを失った消失感で、素直に喜ぶことが出来ない。
その上、島々や港の被害の大きさや人的被害も多く出ており、そして肝心の、貴重なお宝や高く売れるはずだった女奴隷も失い、金銭面での損失が計り知れないのである。
密売品や奴隷の件はともかく、島や港の被害をこれからどうするかによって、アルスラの政治家としての資質が問われる事になるだろう。
一応、民衆による選挙で宰主に選ばれているので、こうなると次の選挙での対応次第では、再び宰主の選ばれるのはかなり厳しい事になりそうだ。
アルスラは、冒険者たちに囲まれて、喜びを分かち合っているリョウに目をやり、
(ヴィーゴを失った今、俺の片腕になり得るものは、シャギーしかいない! どんな手を使ってでも、絶対にあいつを俺に付かせて見せる‼)
身勝手な欲望をリョウに対して抱いていた。
かたやリョウは、皆と喜び合いながらも、例の証拠の品々をどうするか考えていた。
(さて。アルスラはどう動くかな? あいつの動き次第で、俺達もどう動くか考えなければいけないな。あいつには悪いが、奴隷売買組織と密売品組織、どちらも徹底的に潰させて貰う‼)
どちらの組織も、共和制を取るこの国にとっては必要の無い物だ。特に、奴隷制度はセイの事も有るので、これ以上悲しむ者が増えてはならないと、絶対に廃止させると強くリョウは考えていた。
リョウとアルスラ。二人の相反する考えが、この先新たな火種となっていくのであった。




