第13話 【ペテン師リョウ】
その頃ヴィーゴは2階の隠し部屋で、密売用の品々とそれにかかわる書類を、アルスラから預かったマジックバッグ詰め込んでいた。
「くそ! 品物が多くて時間がかかるぜ! モタモタしていたら俺が『二角ボーガル』に飲み込まれちまう! 急がなきゃいけねぇってのに‼」
ヴィーゴが絶対に確保しなくてはならない物を、やっとマジックバッグに詰め終わり階下に降りた。そこに居たのは『ブラット』リョウの片割れのセイだった。
「おい! あいつはどこに行った⁉」
「兄さんは一足早く、あの人たちを安全な場所に移動させに行ったよ」
「はあ⁉ なに勝手な事してやがるんだ! あの女たちは俺達のもんだ! 今すぐ連れて来い‼」
「って言われても、あの人たちをどこに連れて行ったか僕は聞いて無いよ。それに、僕は転移の魔法使えないしね」
地下に居た女達が奴隷だと言う事を、『ブラット』にバレると分かっていたが、こうもあからさまに邪魔をしに来るとは、ヴィーゴにとって腹立たしい事この上ない。
ふと、ヴィーゴはセイを見て何かを感じた。
「おまえ、どこかで会った事あるか?」
「昨日の夜に宿であったけど?」
「そうじゃねぇ! もっと前にだ! なんか、お前のそのしゃべり方に聞き覚えが有る気がする! 本当に俺と会った事は無いのか⁉」
「僕は、無いよ!」
確かにセイとしてヴィーゴに会った事は無い。会ったのは気の弱い子供のイースで、今は押しも押されぬ立派な一人前のS級冒険者である。あの時の様な屈辱にさらされれる事は無い。
しかし、こうして対峙していると、子供の頃の悔しさや怒りがフツフツと湧き上がるのが分かる。自分を玩具にしたこの男への怒りが収まらない。
今、この時が復讐するのに絶好の機会であるのは分かっている。だが、状況が状況なので実行するのは無理がある。
そんな二人の睨み合いが続く中、急に建物の一角がもぎ取られるかのように消失した。『二角ボーガル』が、ついにこの建物を飲み込もうとしているのである。
「おい‼ やべぇぞ! 早く逃げなきゃ食われちまうぞ‼ あいつは、どこ行ったんだ‼」
ヴィーゴの叫びが建物内に響き渡る。
その時である、
「待たせたな! 早く俺に掴まれ‼」
リョウが、間一髪間に合った。
しかし、リョウが転移して来た場所が運命を分けた。セイのすぐ近くに転移して来たので、セイはすぐにリョウに掴まる事が出来たが、ヴィーゴはセイとは対角にあたる離れた場所に居た。
その場所はまさに、さっき『二角ボーガル』が飲み込み消失させた建物の側だった。
「ウワァーーーーーーー‼ 助けてくれーーー…………」
ヴィーゴの無常の叫びが、『二角ボーガル』の口の中に消えて行った。
あの場所から、早く移動しておけばまた違った結果になったかもしれない。
が、ヴィーゴはセイとの係わりを思いだそうとこだわりすぎた結果、移動するのがおろそかになり、その命を落としたのである。
「兄さん‼」
「構うな‼ 転移するぞ!」
ギリギリの所で難を逃れたリョウとセイが、転移で姿を現したのはギルド近くの宿の部屋だった。
「え~と、何で宿?」
セイのポカンとした疑問に、リョウは悪い笑みを浮かべて、ある物をアイテムボックスから取り出した。
それは、さっきヴィーゴが持っていた、密売品とその関係書類が入っているマジックバッグである。
「何それ? さっきヴィーゴが持っていたやつだよね? 何で兄さんが持ってるの?」
「まあ、入手の方法はチョッと勘弁してくれ…………あまり真っ当な方法じゃないからな」
どんな手を使ったか気になるが、リョウがそう言うからには、気にしない事にしたセイである。
「俺は、少し早くに戻って来ていたんだ。それで、あいつが何の目的で動いているのかを、隠ぺい魔法で姿を隠して見張っていた。これは、あいつらの犯罪の動かぬ証拠なる品々が詰め込まれている。今後、奴らに奴隷の売買など今後一切出来なくしてやる為に、これは非常に貴重な物になるからな!」
リョウはロザリードに転移した後、速攻で戻って来ていたのである。で、隠ぺい魔法で姿を隠し、密かに密売品や奴隷売買の書類などをかき集めているヴィーゴを観察していた。
そして、ヴィーゴが部屋を出た時を狙って、セイのそばに転移で姿を現したのである。
ゆっくりはしていられない。まだ『二角ボーガル』の脅威が去った訳では無いのだから。むしろ、これからが『二角ボーガル』討伐の本番である。
「オッと! こうしてはしていられない。早くあの丘に戻らなきゃな………あっ、そうだ! お前はヴィーゴの事は黙っていろ、俺が、何とかするから」
「分かった」
こうして二人は、ラナチクを栽培している丘に転移で戻った。
その頃、その丘ではイザークやアルスラ達が恐慌に陥っていた。
「ああ‼ 建物が奴に飲み込まれたぞ! リョウはどうしたんだ⁉ 成功したのか⁉ どうなんだ‼」
「ヴィーゴは無事なのか⁉」
その時である、『ブラット』の二人が転移で戻って来た。
アルスラがリョウの胸ぐらをつかみ、
「ヴィーゴはどうした⁉ なぜ一緒じゃ無いんだ‼」
「…………すまない。地下で、女性たちの説得に時間がかかってしまってな、2階から降りて来たあいつと一緒に説得していたんだけど、どうしてもここを離れたくないと言って……彼女たちは『二角ボーガル』に飲み込まれてしまった。ヴィーゴは、あいつは一人でも連れて行くと言って手を伸ばした所で、奴も餌食なってしまったんだ…………アルスラ、奴を助ける事が出来なくて、本当にすまなかった!」
唖然とするアルスラに対し、リョウは悲痛な表情で詫びた。
セイは、噓八百を並び立てて、小芝居をするリョウを、
(やっぱり、兄さんは詐欺師かペテン師だね)
変な感心をしていた。
茫然自失状態から回復したアルスラが、
「あいつに渡してあった、マジックバッグがどうなったか知らないか? 重要な物が入っていたんだ!」
「ああ…………奴はそれを俺に投げて寄こそうとしたが、それも『二角ボーガル』の貪欲な吸引で飲み込まれてしまった。…………本当に何も出来なかった。悪かった!」
殊勝に答えるリョウ。
度重なるショックで、座り込んでしまったアルスラを横目で見ながら、リョウはイザークに『二角ボーガル』の事を聞く。
「どうだ、何かいい方法が見つかったか?」
「あれから、何人かが『二角ボーガル』接近して攻撃してみたんだが、物理的な攻撃も魔法も殆ど効果が無った」
「…………‼ 近くに行ったのか! 自殺行為だぞ‼」
「それが、どうも真後ろが奴の死角になっているらしくて、そこからなら攻撃ができると分かったんだ」
「…………真後ろか?」
死角が分かっただけでも、何かしらの攻撃が出来るのではないかとリョウは考える。最終的には、やはり自分が『二角ボーガル』を転移で、『氷雪の荒野』に連れて行くしかないだろうと思っているが、あれだけの巨体である、少しでも弱体化させてからで無いと、転移させるにも危険が伴う。
「で、具体的にどんな攻撃をあいつにしてみたんだ?」
「さっきの魔導士ギルドにあった書類で、寒さに弱いらしいと分かったから、主に氷魔法と弓による攻撃だな」
「氷魔法を使える奴が居たのか⁉」
「お前のとこの『氷雪の牙』のカストルだ」
「ああ、あいつか。確か白魔導士だったな。支援系の魔法が主だったと思うが、水系の魔法も使う事が出来たんだな」
リョウは、顎に手を当てしばし考える。ふと、顔を上げニヤリと笑い、
「良し‼ 何とかなりそうだ!…………あいつを、絶対に討伐してやるぞ‼」
良案が浮んだようで、『二角ボーガル』の討伐作戦を、ここにいる全員に力強く告げたリョウだった。




