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第12話  【救出】

 あまりの大きさに、しばらくの間言葉を失くしていたリョウだったが、

「あれをご先祖様は『氷雪の荒野』に転移させたのか⁉ いったい全体どうやって転移させたんだ⁉」

 ご先祖様の所業に呆れてしまった。


 その時イザークが、リョウの胸ぐらをつかみ必死の形相で、

「リョウ! 俺達をあの場所まで転移させられるか? 海の上はだめでも陸上なら攻撃が出来る! 総攻撃するぞ‼」

「待てって‼ 闇雲に攻撃してもダメだろ! 見てみろよ、あいつを! 手あたり次第、目に入るもの全てを飲み込んでやがる! 側に行けば俺達も飲み込まれてしまうぞ!」

「じゃあ、どうしろって言うんだ!」


 あのとてつもない巨体で、全ての物を飲み込もうとしている『二角ボーガル』。攻撃の切っ掛けがつかめない。側に行けばこちらも飲み込まれる恐れがある。しかし、離れていては、攻撃してもダメージを与える事が出来ない。


 そんなジレンマに陥っているリョウ達から少し離れた所で、アルスラとヴィーゴが密かに話し合っていた。


「アルスラ様! まずいです。あの建物は例の品々の保管倉庫として使ってるんで、このままだとみんなあいつに喰われてしまいますぜ!」

「確か、あそこには奴隷の奴らもいたな?」

「はい、来週、競りにかける上玉の女が数名居たはずです」

「…………チッ! 良い金になるから、あんなデカ物にくれてやる訳にはいかない!」

「どうします?」


 アルスラは、リョウ達の方をうかがい、

「そうだな。シャギー達に何とかしてもらうか! 何だかんだ言っていても、あいつはお人好しだからな」

 嫌な笑みを浮かべて、そう言った。


「シャギー! 大変なんだ! あの建物にうちの従業員が取り残されてるんだ! 何とか助ける事出来ないか⁉」

 と、秘密のアジトにしている建物を指さすアルスラ。


 リョウは必死に言い募るアルスラを見て、

「落ち着け! 何人残されてるんだ⁉」

「正確な人数は分からん! だが、10人前後は居ると思う!」


 リョウはイザークに目をやり、

「俺は、取り残された人を助けに行ってくる! 俺が戻って来るまでに、何かあいつに打撃を与える方法が有るか考えておいてくれ!」

「危険だぞ! お前迄喰われてしまったらどうするんだ!」

「なに、いざとなったらすぐさま転移で脱出するさ!」


 アルスラとしては、奴隷だけでは無く密売品も取り戻したい。ヴィーゴの耳元で、

(お前も行って、商品を取って来い!)

 と言い、お表向きは、

「ヴィーゴ! お前もシャギーと行って、救出を手伝ってやってくれ!」


 それを聞いたリョウは、思い切り嫌な顔をしながら、

「悪いが、今の俺に余分な魔力は余り無い! 救出した人を連れ帰るだけで精一杯だ! そいつを一緒に連れてはいけない!」


 リョウはリョウで、ヴィーゴの事が気に入らない。これまでの数々の言動が、リョウの癇に障っていた。一緒に行くなんて勘弁して欲しい所である。


 だが、アルスラとしても苦労して集めた貴重な品々の為に、引き下がる訳にはいかない。

 良い考えが浮かんだとばかりにセイを指差し、

「そうだ! さっきもその少年の魔力を借りていたじゃ無いか、頼む、どうかこいつも一緒に連れて行ってやってくれ。必ず、力になるはずだ!」


 そうまで言われたら、リョウとしても承諾しない訳にはいかないので、セイに向かって嫌々、

「悪いな、セイ。そう言う事だから、お前も一緒に来てくれ!」

「…………分かった…………」


 リョウとしては、このヴィーゴと言う男とセイをあまり関わり合わせたくは無い。先日のロザリードでの転移で、それをやったばかりなので尚更である。


 セイも、正直言ってヴィーゴに関わりたくない。昔の、悲惨な事が蘇るからだ。


「転移すると言っても、中に入った事が無いから、今、目視できる建物の前に転移する!」

「ああ、それで構わない。やってくれ!」


 リョウは、詠唱無しで魔法陣を構築し、セイとヴィーゴと共に転移して行った。



 転移先の建物は、どうにか『二角ボーガル』の被害をまだ受けてはいないが、それも時間の問題のようだ。もうそこまで『二角ボーガル』が迫って来ている。

 リョウ達は急いで中に入り逃げ遅れた人探すが、どこにも見当たらない。


「おい! 逃げ遅れた人はどこに居るんだ!」

「分からん! お前らは地下を探してくれ。 俺は、2階を探す!」

「…………分かった」


 リョウは、何か不自然なものを感じたが時間が惜しいので、セイと共に地下に向かった。


「兄さん。従業員って言っているけど、たぶん、奴隷だと思う」

「はあ⁉ 本当かそれは!」

「うん。あいつらは、奴隷をいつも地下に押し込めていたから。………ここの奴隷達を助けようとしているのは、たぶん価値のある奴隷なんだと思う」

「…………ミーニャのようにか……」


 セイにはヴィーゴ達人買いの事はある程度分かる。昔、自分もその奴隷だったからだ。

 しかし、こうなると地下に閉じ込められている人を助けるのは良いが、その後そのままアルスラに引き渡す事に抵抗がある。かと言って、ヴィーゴも同行しているので、助けた人を開放する訳にもいかない。


 とにかく今は時間が惜しいので、地下に急いだ。地下は案の定、牢になっていて、女性ばかり8人いた。セイが牢の鍵を一刀の下に切り捨て、リョウが女性たちを牢屋から出そうとした。


「早く出ろ! このままここに居たら魔物に喰われてしまうぞ!」


 しかし、女たちは出ようとはしなかった。


「お願い! このままここに居させて! 奴隷として慰み者になる位なら、まだ、魔物に食べられた方が良いわ‼」

 女たちの悲痛な叫びが地下牢に響き割る。


 彼女たちをセイが真剣な目で見つめながら、

「お姉さん達! 希望を捨てちゃだめだよ!……僕も、昔あいつらに捕まって奴隷にされていたんだ。でも、この人に助けてもらって、今は冒険者として生活している。この人はお姉さん達を、絶対に悪いようにはしないから、とりあえず今はここを出ようよ!」

 と言って、リョウを指さす。


 指を差されたリョウは、

「…………おおぉ、まかせろ⁉(おい! 安請け合いして、どうにも出来なかったらどうすんだよ⁉)」

 実際声に出した返事と、心の中の声は相反するものになってしまった。


 セイの説得を受け入れた女たちは、次々と牢から出て階段を上がって行った。

 一階に着いたが、まだヴィーゴはそこに居なかった。何をやっているのかは分からないが、いま、彼女たちを逃がす絶好のチャンスである。


「セイ! 俺はこの人たちを別の場所に転移で連れて行く。悪いが、お前はあいつが降りて来たら足止めしていてくれるか⁉…………ここに仮の転移の魔法陣を敷いておく。俺が間に合わなそうだったら、お前一人で転移しろ! 出来るな⁉」

「分かった!…………けど、どこに連れて行くの?」


 ニヤっと笑ったリョウは、

「ロザリードのワイン醸造所だ!」

「…………はぁ?」

「なに、一時的にだ。こちら件が片付けば、すぐにアレッドカに戻すさ。…………しかし俺としては、むしろずっと居て欲しい位だけどな」



 正直、ワイン醸造所は、ワインの需要の高まりで、人手不足になっている。このまま、彼女たち働いてもらえれば領主として非常に助かる。そんな、打算でロザリードに転移先を決めたリョウである。



 しかし、あちらで説明などをしている余裕は余り無いので、セイがいかにしてヴィーゴを丸め込むかにかかっている。

「お前には、辛い事をさせてしまうが、この人たちを逃がすためだ。よろしく頼む!」

「分かった! 頑張るよ!」


 そうして、リョウは女たちを連れて転移して行った。


 後に残ったセイは、自分の凄惨な過去と相対する事になった。


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