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第11話  【巨大なクジラ?『二角ボーガル』】

 それからすぐにセイが戻って来た。

「ごめんなさい。兄さん…………じゃない、リオは宿に居ませんでした。宿の人に魔導士ギルドの場所を聞いていたそうですから、そちらに行ったんじゃないかと思います」


 アルスラが不機嫌そうに聞いてきた。

「はあ⁉ 何で魔導士ギルドなんだ‼」


 それに答えてセイは、昨晩リョウと話した事を言った。

「多分ですけど『二角ボーガル』の事を、調べに行ったんじゃないかと。昨日の夜にリオが言っていたんですけど、ここの冒険者ギルドの書庫の中の本は、昔すべて読んだ事があるって、だから今度は、魔導士ギルドの書庫を調べに行ったんじゃないかと思います」


 その答えにアルスラはさらに不機嫌さを増していった。自分に一言言ってくれたら、いくらでも融通をきかせる事が出来るのにと。


 なぜか、アルスラはシャギーが昔の様に、自分の事を友と思っていると考えているようなのだ。あのような卑怯は事をしておいても、それは後々シャギーの為になるからあえてやったと考えていた。


 それが、今、自分の思った通りに動かないシャギーに対しての、イライラにつながっている。



 その頃リョウことリオは、トラルーシュの魔導士ギルドの書庫に居た。ここで調べ物をしたいと申し出たが、どこから見ても怪しさ満載のリオは、始めは相手にされなかったが、魔導士ギルド発行の特級魔導士章を見せた所、すんなり書庫に入る事が出来た。


「これにも詳しく書いて無いか。もうかなりの資料を調べたが『二角ボーガル』の事は、分かっているだけの事しか書いて無いな」

 と言って、持っていた本を閉じた。


 このままでは討伐どころか、被害を防ぐ糸口さえ見つからない事になってしまう。八方ふさがりである。


 その時、本棚の隅に丸めてある羊皮紙の書類の山が目に入った。何が気になったのか自分でも分からないが、とにかく一番古そうな書類を手に取る。

 それは、驚くべき事に自分の2代前の『双赤を纏う者』が書いた、『二角ボーガル』の討伐記録だった。


(なんでこんな物がここに有るんだ⁉)


 後で調べて分かった事だが、『双赤を纏う者』は初代を含め自分以外に3人いて、その3人すべてが特級魔導士だったらしい。それで、彼の『二角ボーガル』討伐の手記が今後の参考の為にと、ここアレッドカの魔導士ギルドに収められたらしい。


 シャギーの2代前の『双赤を纏う者』は、10代目当主ガスパルと言う。彼は自由奔放な性格だったらしく、領政を自身の腹心に任せ、自分はS級冒険者としてあちこち旅してまわっていたらしい。

 たまたまアレッドカに来ていた時に『二角ボーガル』が現れ、討伐したと書いてあった。


 リョウ自身も、似た様な事をしているので、

「…………なんかこのガスパルって言うご先祖さん、親しみを感じるな~」

 と、思わず声に出して言ってしまっていた。


 とにかく、この手記のおかげで、『二角ボーガル』討伐の糸口を見つけられそうである。リオはその手記の持ち出しの許可をもらって、急いで冒険者ギルドに向かった。



 ギルドに着き、扉を開けた瞬間アルスラの怒声が飛んで来た。

「シャギー‼ おまえ、この大変な時に何をやってるんだ! 一番『二角ボーガル』に詳しいお前が居なきゃ話が進まないだろ‼」


 その声に思わずのけ反ってしまったリオだが、先日の濡れ衣の件で頭に来ていたので、こちらも負けじと怒鳴り返す。

「何って! 『二角ボーガル』の事を調べていた‼ 別に遊びまわっていた訳じゃねぇよ‼ てめえこそ、よくその面俺の前に出せたな! 恥ってもんがねぇのかよ‼ アルスラ‼」


 ガタッと音を立ててヴィーゴが立ち上がり、怒りもあらわにリオに掴みかかろうとした。

 が、『金の箱舟』のモルガンにその手を掴まれてしまった。


 モルガンは両手重剣士で、大柄のヴィーゴよりもさらに大きい体格をしており、容易くヴィーゴを抑え込んでしまった。



「いい加減にしろ‼ 言い争うのは後にしてくれ! まずは『二角ボーガル』をどうするかだ。…………リョウ、もうそのおかしな変装は止めて良いぞ。で、何か分かったのか?」


 さすがのイザークの一言である。瞬時に場が収まった。


 気を取り直してリョウは変装を解きながら、

「ああ、良いものが見つかった!」

 と魔導士ギルドで見つけた手記を全員に見せた。



 手記によると、その当時の『二角ボーガル』の被害も甚大で、島どころか陸地にまでその被害があったと書かれていた。ガスパルは様々な事を『二角ボーガル』に対して試したが、どれも今一つ決め手に欠くものだったらしい。一番の障害は、やはり相手が海に居ると言う事で、陸からの物理的攻撃も魔法攻撃も致命傷を負わせる事が出来なかった。そして、最後の手段として行ったのが、転移魔法で『二角ボーガル』をブラクロックの北にある『氷雪の荒野』に転移させ、凍死させようやく討伐に成功したと書かれていた。

 …………『二角ボーガル』唯一の弱点は寒さに弱いと言う事らしい。


 その手記を読んだ面々は、一様にリョウを見る。対してリョウは眉間にしわを寄せ、顎に手を当て難しい顔で、

「これを読む限り、『二角ボーガル』をどうにか出来るのは俺だけって事になるのか?」

「今の所、転移魔法を使う事が出来るのは、お前だけだからな」

「まだ実物を見ていないから何とも言えんが、どうやって『二角ボーガル』を転移させたら良いんだ? って言うかその当時、転移の魔法が存在していたんだな。何故すたれたんだ?」

「リョウ! 魔法の検証は後にしてくれ。今は、どうやって『二角ボーガル』を討伐するかだ!」


 リョウとイザークがそんな事を話していた時である、

「大変だ‼ 『二角ボーガル』が陸地に向かって来てるぞ!」

 と、叫びながら一人の冒険者が飛び込んできた。


 ギルドに居た全員が一斉に立ち上がる。


 アルスラはリョウに向かい、

「シャギー! あの丘に行くぞ! あそこなら港と海が一望できる!」

「あの丘⁉」

「ラナチクの丘だ!」

「ああ!」


 リョウは、ギルド内に居る者達に向かって、

「様子を見に行く奴は俺に掴まるなり、俺に掴まった奴に掴まれ。みんなまとめて転移するぞ! セイ!お前の魔力を貸してくれ!」


 今のリョウは転移陣が無くても、一度行った事がある場所には転移で行く事が出来るので、昔よくアルスラと行った丘に、集団転移をしようとしていた。

 しかし、さすがのリョウも、こう人数が多いと魔力が心許ない。セイの魔力も使うと言うのである。


「良いよ! また、貸し一つね!」


 わらわらとリョウの周りに人が集まって来た。アルスラはここぞとばかりにリョウの腕をがっしり掴む。

 それに対してリョウは嫌そうな顔をして、

「離せよ! そんなにつかまらくても転移は出来る!」

「掴んでないと、お前はすぐに逃げるからな」


 そんな事を言うアルスラに対し、リョウはため息一つして、

「ハァ~、お前は俺の女か何かか?」

 まるで、焼きもちを焼いて拗ねているような、アルスラの態度に呆れたように言った。


 右手にアルスラ、左手にセイを掴まらせたリョウは、セイの魔力を補助にして、掴まりあっている全員を一瞬で港が見える丘に転移させた。


 そこには信じられない様な光景が広がっていた。


『二角ボーガル』が港で暴れているのは分かるが、その大きさが尋常じゃない。姿は角の生えたクジラの様なのだが、大きさが超豪華客船の2~3倍もありそうだった。

 その巨体で暴れながら港に乗り上げ、あらゆる物を飲み込んでいってる。


 それを見ていた者達は口々に、

「デカい‼」

「…………‼」

「何だありゃ⁉」

 などと、驚き叫んでいた。


 リョウとセイは

「クジラだな…………」

「クジラだね…………」

「デカいな…………」

「大きいね…………」


 あまりな大きさのクジラモドキに、二人そろって言葉を失くしていた。


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