第10話 【作戦会議】
いよいよアレッドカ行く日が来た。
『ブラット』『金の箱舟』『氷雪の牙』がイエロキー南の国境門都市ナムシャに勢揃いしていた。
ちなみに、『氷雪の牙』はリョウがロザリードから転移で、昨日連れて来ていた。
「俺は、今回の合同討伐隊のリーダーを務める『金の箱舟』のイザークだ!『氷雪の牙』のトリアスよりも若いが、俺の出身がロブルアで海に詳しいと言う事でリーダーを務める事になった。よろしく頼む!」
イザークのリーダーとしての挨拶があったが、ここにいる全員が、濃い紫の髪に青目で眼帯をした変装姿のリョウに目が行っている。
「ハァ~。リョウ! なんか言え! これじゃあ話が進まない」
イザークは呆れたようにリョウに目をやる。
キョトンとした表情のリョウが自分を指さし、
「え~と、俺?」
「そうだ! その変な姿の説明をしろ! でないと、気が散る!」
という事で、先日の宰主夫人への濡れ衣事件のあらましを、リョウは簡単に説明し、
「アレッドカに入る時に、リョウでもシャギーでも何かしらの支障があると思うから、チョッと変装をしている。まあ、この姿の時はリオとでも呼んでくれ!」
「ったく! うちの御館様にそんな濡れ衣をかけるなんて、ふざけた奴らだ!」
『氷雪の牙』でシャギーの一番のファンである、シーフのベイトルが憤慨している。
それを見たリョウことリオが、
「おーい! ここはロザリードじゃないからそう言う事は言うなよな! 逆に俺が恥ずかしくなる!」
と気まずそうに注意している。
そんなやり取りがあった後、
「じゃあ、リョウ……では無いリオ、早速転移の準備に入ってくれ!」
「まあ、準備と言っても全員この魔法陣の中に入れば良いだけだけどな」
と言って、魔法陣にリオが魔力を流す。すると、今まで見えなかった巨大な転移の為の魔法陣がほの青く光り出す。
その大きさにも、魔法陣の美しさにも全員言葉を失う。
そんな事にはお構いなしにリオが急げよとばかりに、
「何見てんだ! 早く魔法陣に入れよ!」
と声をかける。魔法陣の美しさに見惚れていた者の、気分を台無しにしてしまったリオだった。
全員、馬車も荷物も含め魔法陣に入ったのを確認したリオは、本格的に魔法陣に魔力を流した。
次の瞬間、そこはもうアレッドカの西の国境門都市、セノイーバのはずれに着いていた。
「凄いな! 転移と言うのは、一瞬でここまでの距離を移動できるんだからな」
「俺も、魔導士の端くれだ! いつか必ずこの魔法を習得してやる!」
皆一様に転移の凄さに感動していた。が、リオは、
(とすると、俺は早く小魔力で作動する転移の魔法陣を完成させなきゃいけないな)
と独り言ちしていた。
セノイーバから首都のトラルーシュ迄は、自分たちが転移で運んで来た馬車で向かう。おおよそ10日くらいの行程であるが、ここでもリオの非常識が発揮され、ミニ転移を繰り返し5日の行程で首都トラルーシュに着いてしまった。
ミニ転移とは、イエロキーからアレッドカまでの大規模転移とは違い、1パーティーずつリオが短距離転移を繰り返すと言う事をしたに過ぎない。
が、時間を大幅に短縮出来たのは、非常に色々な意味で良かったと言える。『二角ボーガル』のこれ以上の被害を防ぐ為であるし、自分達の物理的、精神的な消耗を少なくする等である。
首都トラルーシュの城壁門に着いた一行を待っていたのは、宰主アルスラとギルマスのヴィーゴだった。
「皆様、我々アレッドカに協力して頂く為に、遠い所をようこそおいで下さいました。私は、このアレッドカの宰主アルスラと言います。この者は、トラルーシュの冒険者ギルドのギルドマスターでヴィーゴと言います。この者には、これから皆様の手伝いをさせますので、何なりと申し付けて下さい」
と、挨拶していたが、二人の目はやはりと言うかリョウこと変装したリオを凝視していた。
(…………シャギー、あいつは何やってんだ⁉)
(あの野郎! ふざけやがって‼)
早くも、騒動の気配が漂うアレッドカ滞在1日目になってしまった。
今日はもう日も暮れそうなので、詳しい打ち合わせは明日として、アレッドカに滞在中寝泊まりする宿に案内された。
「この宿は貸し切りにしてあるので、好きに使ってくれて構わん。何かあったら、この向かいが冒険者ギルドだから、遠慮なく言ってくれ」
と、ヴィーゴが話した。そして、リオに目を向け、
「おい、そこのターバン男! アルスラ様がお前に話が有るそうだ。ちょっと一緒に来い」
それに対しリオは、
「断る」
取り付く島も無く、速攻で断る。
「悪いな、俺は馬車酔いするたちなんで、今日はもう寝たいんで、話は明日以降にしてくれると助かる」
S級冒険者ご一行は、そんなリオをジト目で見ながら、
(馬車になんか酔って無いだろ!)
と、全員思った。
一人セイは、
(アルスラ宰主に会いに行ったりしたら、何されるか分らないもんね。兄さんは、とんでもない人に気に入られっちゃたんだね~)
と思っていた。
一方、断られるとは思っていなかったのか、ヴィーゴは怒りで顔がどす黒くなって、リオを怒鳴る。
「宰主直々の声掛けを、お前ごときが断るなど、どう言うことだ! つべこべ言わず大人しく付いてこい!」
これには、リーダーを任されているイザークも、カチンときて、
「たとえ、宰主殿のお誘いであっても、こう急では無理があるだろ! それに、ギルマスのあんたの態度もどうかと思うが⁉ 俺達を何だと思っているんだ⁉」
さすがに、今の自分の言葉は良くなかったと思いはしたが、非を認める事はしたく無い。軽く舌打ちし、リオを睨みながら、宿を出て行った。
イザークはリオの肩に手を乗せ、
「お前も大変だな」
「まあ、自業自得な所も有るんで、しょうがないですよ」
「まあ、頑張れよ」
慰められてしまった。
今回の討伐メンバーには、アルスラとの係わりと先日の宰主夫人の件は話してあるが、こうもあからさまに絡んで来るとは、メンバー全員が嫌な気分を味わってしまった。
嫌な気分を一掃するように、
「さて、今日は誰かと違って、皆本当に疲れただろうから、飯を食ったら早めに休んでくれ。明日からは気の休まる時間は無いだろうからな。解散!」
軽くリオをいじって、その場の空気を変えた。
翌朝、このアレッドカの宰主自らが待つ冒険者ギルドに、イエロキーの各パーティーのリーダー達が行き、アレッドカのS級冒険者パーティー二組のリーダー達と、今回の『二角ボーガル』討伐の打ち合わせに入った。
リョウことシャギーは領地に居る事になっているので、『ブラット』の代表としてセイが打ち合わせの場に入った。
こうもあからさまに避けられると、さすがのアルスラも面白くない。
「先に一言言わせてもらう。ふざけた芝居などしないで出て来いと、シャギーに伝えてくれ! こっちは『二角ボーガル』の事で、お前の意見が聞きたいだけだとな!」
なぜか、やけにリョウにこだわるアルスラにイザークが、
「先日の件で、リオが自由に動く事が出来ないから、ああ言った事をしているんですが?」
自分で蒔いた種とはいえ、こんな事で障害になるとは思ってもみなかった。心の中で、自分に舌打ちをし、
「…………(チッ!)この街ではこの間の事は、もうすべて片が付いている。リョウでもシャギーでもどちらでいても、誰も何とも言わない。だから。すぐに来いと言え!」
アルスラのイライラが頂点に達していた。
「あいつは、ガキの頃かなり詳しく海の魔物の事を調べていた。特に『二角ボーガル』をな! あいつ抜きで討伐の話し合いをしても意味が無い!」
それについては、イザーク達も初耳である。もちろんセイも知らなかった。
「じゃあ、僕が呼んできます!」
と言ってセイがギルドを飛び出して行った。




