第9話 【S級冒険者パーティー集合!】
とりあえず、今後の方針を決める為、『金の箱舟』のリーダーに『聖光の館』に来てもらった。
『金の箱舟』のリーダーはロブルア出身で、黒髪黒い瞳のイザークと言う男である。
「リョウ、セイ、久しぶりだな!」
リョウとセイも久しぶりの再会に、挨拶をする。
「こんにちは!」
「イザーク、ご無沙汰してます。ここの所の『金の箱舟』の活躍は凄いですね!」
「何、お前達ほどじゃないさ」
今、イエロキーの冒険者の中で、1位~2位の活躍を競っているのが『金の箱舟』と『ブラット』で、初心者の冒険者達の憧れの的になっている。
「いや~。俺なんかこの間、不名誉な疑いを掛けられて、ホントに困りましたよ」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたイザークが、
「ああ、聞いたぞ。何でも、女性を力ずくで犯したとか?」
「新婚の俺がそんな事する訳無いでしょうが! ねぇ⁉」
可笑しさに耐えきれず爆笑しながら、
「ハハハハハハㇵ…………だよな。おまえは、新婚じゃなくてもそんな事しないだろうさ!」
何の見返りが無くても信頼してくれている事が、とても嬉しいと感じるリョウである。
イザークはリョウの顔をしげしげと見ながら、
「ところで。お前の今の顔は作った顔だと聞いたが、本当か?」
「…………ええ、まぁ、そうです。ロザリードのくそ親から逃れるために、顔を変えていたんです」
そこの所の詳しい話は公表していないので、なぜ顔を変えていたのかは一般には広まっていない。
「まあ、詳しい事は聞かないが…………で、その顔は俺を見本にして作ったのか?」
「は? いやいやいや! 俺は、この顔で6年前にイエロキーに入って来たんです。その時は、イザークの事は知りませんでしたよ!」
「そうか、俺はてっきり、お前の顔が作られた顔だと聞いた時、俺の顔を手本にしたと思ったよ。なんせ、兄弟と言って良い程良く似ているからな」
そうなのである。イザーク、リョウ、セイと3人並ぶと、3兄弟と言って良い程似ているのだ。そのせいで、3人は腹違いの兄弟だと言う噂も有る位なのだ。
「それについては、申し訳ないと思ってます。分かっていたら、この顔にはしませんでしたよ」
「まあ、気にするな! 俺には兄弟がいないから、お前達がいる事が何か楽しくてな。兄弟とはこんな風なものなのかとな」
広い心のイザークに感謝するリョウであった。
そんな雑談をした後、肝心の『二角ボーガル』討伐の話を始める。
「まあ、実際の所は実物を見てみないと、どうにもならんな」
「そうですね。俺は、ガキの頃アレッドカにいた事があるですけど、人から話を聞いた事とギルドに有った魔物図鑑での情報しかないので、実物は初めてになりますね。確か、前回『二角ボーガル』が現れたのは107年前ですね。…………記録によれば、何でもその被害は、人間や家畜、建物から果ては山を丸ごと飲み込んで、20位の島を更地にして居なくなったとか。結局、兵士も冒険者も誰もが、手も足も出せずに終結したそうです」
イザークは目を見開き感心したように、
「やけに詳しいな⁉ どこで調べた?」
リョウは視線を上に向け考えながら、
「ん~。さっき言ったガキの頃、ギルドで見た図鑑の情報ですよ?…………これは、俺の特技の一つなんですが、一度見た本の内容は殆ど忘れる事が無いんです。結構、重宝してます」
「…………重宝しているとか、していないかの問題じゃ無く、それはもう人間業じゃ無いな! ハァ~」
呆れて疲れた様なため息をもらしたイザークだった。
リョウのチートな能力の一つに『完全記憶』がある。一度見聞きした物は、ほとんど忘れる事が無いと言う、ハイスペックなチート能力なのだ。
このチート能力を前世で持っていれば、また違った人生があったかもしれないと思う事も有った。が、防大に入った事を悔んだ事は無い。むしろ、子供の頃からの夢や憧れに近づけた事を、嬉しく思ったものだ。
「それで、その107年前はどうやって終結したと書いてあったんだ?」
「たしか、島の諸々を平らげた後、どこともなく去って行ったと書いてありましたね」
「…………それって、もしかすると、ただ、食事に来ていたとか?」
「あり得ますね…………ひょっとすると、何年か周期であの場所を食事の狩場にしているとか?」
「…………」
「…………」
二人の間に、いやな沈黙が漂う。それが本当だとすると、この先『二角ボーガル』が満足するまで島々を荒らされ、被害が拡大する恐れがある。前回は20位の島だったが、今回はどうなるのか分からない。
だた、今は情報が少なすぎる。
「今、この場でどうこうする事は出来んな」
「そうですね、アレッドカに行ってから、もっと詳しく調べてみましょう」
リョウは思い出したように、付け加えて話をする。
「そうそう、実はロザリードの唯一のS級冒険者パーティー『氷雪の牙』が、今回の討伐に参加するって言って来たんですよ」
「それは嬉しい事だな! 一つでも戦力が増えれば、皆助かるからな!」
「…………まあ、俺が領主なんで、その~、憧れで付いて来たいだけなんですけどね」
ロザリードでは、領主が、あの『ブラット』のリョウであると言う事は、もう公然の秘密の様な物になっていて、ロザリードの冒険者ギルドには、日々にわか冒険者が増えて、対処に困っているのである。
「…………それは、何と言ったら良いか…………」
「…………まあ、憧れだろうが何だろうが、S級冒険者には変わりは無いので、戦力として数に入れときましょう!」
「……そ、そうだな」
かくして、イエロキーのS級冒険者パーティー『金の箱舟』『ブラット』、そしてロザリードのS級冒険者パーティー『氷雪の牙』がアレッドカに赴く事になった。
「ところでリョウ。お前、そのままの姿でアレッドカに行くのか? あっちじゃ、まだお前を疑う奴がいるんじゃないのか?」
イザークは例のアレッドカの宰主夫人の件を心配していた。
「そうなんですよ! この黒髪のリョウでも赤毛のシャギーにしても、アレッドカでは動きずらいんですよね。なので、チョッと変装して行こうかと思ってるんです」
「変装?」
「まあ、バレても構わないですけど、『ブラット』のリョウはシャギーリースとして領地で仕事が有るので、今回の討伐には参加できません。と、言う建前にします。で変装した俺が別人として行く事にするんです」
何か、非常にややこしい事をやっているなと思うイザークだったが、
「めんどくさく無いか?」
「無駄な軋轢は無いに越した事無いですからね。その辺を見越しての事です。どうせ、アルスラは一目で見破るでしょうから、ただ、街の人間の目を誤魔化せれば良いだけです」
あの出来事のせいで、少々行動に制限が掛かってしまうのが、面倒な事であった。
リョウの変装は、以前ロザリード領内を密かに回った時と同じ、濃い紫のカツラにターバンを巻いて、青のコンタクトレンズに左目の黒の眼帯といったいで立ちにした。眼帯には魔法をかけて有り、視界を確保できるようにしてある。
アレッドカに行くのに際し、馬車で行くには時間がかかる。かといって大人数での転移はさすがのリョウも行った事が無い。
リョウは転移の魔法陣の改良を行い、大人数で転移できるようにした。が、それに伴い転移陣の規模も大きくなり、結局、イエロキーの南の国境門都市ナムシャの外に、大きな魔法陣を設置する事になった。
後は対になるアレッドカの魔法陣も、リョウがアレッドカ側に見つからないように一人転移して行って、アレッドカの西の国境門都市セノイーバの、門からかなり離れた所に密かに設置しておいた。
これで、イエロキー、ブラクロック両国のS級冒険者をアレッドカに速やかに派遣する算段が付いた。
いよいよS級魔物『二角ボーガル』討伐が始まる。




